After Data.31 弓おじさん、3分必殺

 奥義やミラクルエフェクトにはクールタイムが存在する。

 それはおそらくモンスターにとっても同じだ。

 今まで戦ってきたボスモンスターたちも、強力な技を連続で出してきたことはないと思う。

 だから、イフリートもまた防御奥義を連続で使えないのではないか?


 そう、3分とは防御奥義のクールタイムのこと。

 具体的なクールタイムを知る手段はないが、性能的に最低でもこれくらいは休んでくれるだろう……というのが3分なのだ。

 こちらはもう【南十字星型弩砲サザンクロスバリスタ】を使えない。

 あれはクールタイムが長いというか特殊すぎる。

 だからこそ、イフリートの防御奥義が復活する前に【南十字星型弩砲サザンクロスバリスタ】以外の高火力技で決着をつけてしまいたい……!

 そのためにはまず下準備が必要だ!


「ブリザードストリーム!」


 エイティが命令通りに氷や雪をばら撒く横で、俺もまた雪をそこら中にばら撒く。

 イフリートは当然嫌がって暴れる。

 俺たちを足で踏みつぶそうとしたり、前かがみになって殴りかかったりしてくる。

 その際、イフリートの体から噴き出す炎が雪や氷を溶かし、大量の水蒸気が発生する。

 おかげで視界はどんどん悪くなっていく。

 イフリートの怒りも最高潮に達する……!

 ここだ……。このタイミングであれを使う……!


「デコイ出てこい!」


 グロウカード〈鏡映しのミラアリス〉の効果で俺そっくりなデコイを生み出し、イフリートから逃げるように走らせる!

 しばらくしてデコイは水蒸気の中から脱し、イフリートの目に留まった!


 ヴォオオオオオオオオオオオオーーーーーーッ!!


 イフリートは反射的にデコイに手を伸ばす!

 他にも攻撃手段はあっただろうけど、やはりとっさに出てくるのは手なのだ。

 逃げていく小さな獲物を叩き潰すために、イフリートはほぼ四つん這いに近い姿勢になる。

 この瞬間を待っていた……!


「スターダストアロー!」


 【アイムアロー】と【インドラの矢】の合体奥義!

 一度ロケットのごとく空高く飛んだ後、すさまじい勢いで落下し、地上に激しい電撃をばら撒くのが本来の効果!

 敵に抱き着いて一緒に空を飛び、落下ダメージを与えて倒すのが当たり前みたいになっているが、今回は本来の使い方を……あまりしていないかもしれない。


 俺が奥義を発動した場所は、四つん這いになったイフリートの腹の下だ。

 雪と氷と水蒸気の目くらましでここに上手く潜り込み、みぞおちに強烈なアッパーを食らわせる……それが今回の作戦だ。

 イフリートは頑丈だから、【スターダストアロー】でも体を貫くことが出来ないかもしれない。

 だが、貫通しないということは、ずっと攻撃が当たり続けるということでもある。

 むしろその方がダメージが多くなるかもしれないし、このまま貫通せずに巨体を持ち上げて、落下ダメージを狙うという手も……。


 いや、落下ダメージは無理そうか……!

 イフリートは重すぎる! 持ち上げても体が大して地上から離れない!

 そうこうしている間に【スターダストアロー】の上昇する力が弱まり、俺の体は地上に向けて加速を始めた……と思ったらすぐ地面にぶつかった。

 高く飛べなかったから着地も早い……!


「あっ……しまった!」


 俺はイフリートの真下にいるわけだから、このままイフリートが落下して来たらその巨体に押しつぶされてしまう!

 【スターダストアロー】で撃破できていればそんな心配は必要なかったが、HPゲージはまだわずかに残っている!

 どうする……! さらなる攻撃で撃破し消滅させるか、【ワープアロー】で逃げるか……!


「ヴルルルルルル…………ッ!」


 その時、エイティが跳躍し、落下してくるイフリートの顎を蹴り上げた!

 蹴り上げた箇所には月のような紋章が浮かび上がる……!

 そして、エイティは空中を舞い、華麗に着地を決めた!

 同時にイフリートの顎に浮かび上がっていた紋章がカッと輝き、爆発する!


 ヴォオオ……オオオ…………


 HPがゼロになったイフリートの巨体は光の粒子となって消滅した。

 おかげで俺は押しつぶされずに済んだ……。

 それにしても、あれが【ムーンサルト】か!

 蹴った後の追加ダメージはああいう形で入るんだな。

 なんだかヒーローの必殺キックみたいでカッコいい……!


 おっと、今は感心している場合ではない。

 宣言通り3分以内、防御奥義が復活する前にイフリートは倒せた。

 すぐにネクスを助けに向かわなければ!


「行くぞ、エイティ!」


 雪山のボスであるウェンディゴも50メートル近い巨体だから、見失うことはない。

 俺たちはすぐにその足元にたどり着いた。

 ウェンディゴが雪をまき散らしたのか、火山の中でもここだけは雪原になっている……!

 その中で半分体が凍ったネクスが立ち尽くしていた。


治癒の炎翼ヒーリング・ウイング!」


 癒しの力を持つ緑色の炎ですぐに回復する。

 よし、凍った部分もみるみる溶けていくぞ……!


「う……うう……。あちらはもう片付いたのか……?」


「ああ、宣言通り3分で仕留めてきた」


「ふっ、流石だな……」


「ネクスもちゃんと言った通りウェンディゴを抑えてくれた。流石だよ」


「ふんっ、それもそうだ。私だってやれば出来る、これくらいのこと!」


「さあ、協力してこの戦いを終わりにしよう! 敵は後1体……」


 その時、風が吹いた。

 火山灰が舞い上がり、ウェンディゴを覆いつくす。

 灰の中からうめくような声が聞こえてくる……!

 な、なにが起こっているんだ……?

 まさか……ここのボスはどちらか1体を倒せばOKなタイプか?

 イフリートを倒したから、ウェンディゴも今まさに倒れて……。


 ブブヴォオオオオオオオオオオーーーーーーッ!!


 俺の予想は外れた。

 体にまとわりつく灰を振り払って現れたのは、100メートルはあろうかという巨人だった。

 体毛は赤と白が交じり合っていて頭部には角、各関節から炎が吹き上がっている。


「が、合体したーーっ!?」


 そんなのありかよとツッコむ俺のもとに、さらなる驚きが現れる。

 天から謎の石が降ってきて、すぐ近くの地面に刺さったのだ!


「うわっ!? 噴石……じゃない? 文字が掘られている……。えっと、巨大化石ビッゲストーン……?」


 それはアイテムだった。

 効果は……『使用した者を巨大化させる』!?

 一体、俺たちに何をさせようというんだ……!?

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