After Data.30 弓おじさん、紅蓮白雪の戦場
「問題はどっちを先に片付けるかだな……」
複数のボスを相手にする際のセオリーは古来より変わらない。
どれか1体に攻撃を集中させ、速攻で撃破する……!
数を減らすことさえ出来れば、このタイプのボスは簡単に倒すことが出来る。
唯一気がかりなのは、この2体のボスが本来同時に出てくるものではない場合だ。
俺たちが火山を下りて雪原に近づいてしまったせいで、本来目覚めるはずではなかった雪山のボスも目覚めてしまったとなれば、撃破の難易度はグッと上がる。
2体同時に戦う前提でバランス調整されていない可能性があるからだ。
まあ、今更その可能性を考えたところで意味はないか……!
「イフリートから倒そう! 単純に近くにいるからな!」
雪山のボスはまだ雪原を走っている最中だ。
こちらに到着するまでにまだ時間がかかる。
それにもしかしたら火山の領域には入ってこないかもしれない。
相手はあくまでも雪山のボスなわけだから、火山の領域の手前で立ち止まってジッと待っている可能性だってある……か?
正直、俺の勘だと火山の領域にも平気で突っ込んできそうな気がする。
エイティと同じ【
ここは最悪の事態を想定して戦った方がいい。
しばらくしたら雪山のボスも突っ込んでくる……!
そのつもりでイフリートを撃破してしまうんだ!
「ネクス! エイティ!
「心得た!」
「ヴルル……ッ!」
相手は炎の魔人イフリートだから【
下手したら火属性や噴火属性攻撃は吸収されてしまうかもしれないからな……。
「
早速ネクスが火属性攻撃を吸収されている……!
同時にイフリートの体から噴き出す炎の勢いが増す!
やはり素の【
「ネクス! 火属性以外の攻撃で攻めるんだ!」
「わかっている! だが、私のスキル奥義は大体火属性だ! なんといっても不死鳥のネクスだからな!」
ああ、やっぱり彼女は不死鳥がモチーフなのか。
そりゃ困ったことになったな……。
「なんとか他属性のスキルでかく乱だけでも出来ないかい?」
「なかなか容易には………いや、性能テストのために持たされているあの武器を使えば……!」
ネクスは銃剣『
あ、あの形状は……!
「新たなる武器カテゴリー『扇』!
ネクスは両手に1つずつ持った金色の扇をパッと開き、イフリートに向けて振るった!
「
扇から放たれた金色の風がイフリートを包み込む!
これはただの風ではない……!
まるで固形かのようにイフリートの四肢を絡めとり、動きを封じている!
しかもじわじわと体力も減らしている!
拘束+継続ダメージとはなかなかいやらしい技だ……!
「今のうちにミラクルエフェクトを撃て! この奥義は相手のパワーが強ければ強いほど拘束できる時間が短くなる!」
「ああ!
最強の必殺技を速攻で放つ!
切り札は慎重に扱いたくなりがちだが、切り札だからこそここぞという瞬間には速攻で発動できなければならない。
ネクスが作ってくれたこのチャンスは、まさに『ここぞという瞬間』だ!
十字の光の刃が狙うのは巨人の胸!
刃の形が十字だから、胸のど真ん中を狙えば頭と心臓に刃が届く!
イフリートはまだ風に絡めとられている……!
いける……! 当たる……!
「当たった!」
着弾と同時に激しい炎が周囲に飛び散る!
まるで噴き出す血のように……!
これは撃破演出と見て間違いなさそ……。
ヴォオオオオオオオオオオオオーーーーーーッ!!
咆哮……。イフリートの咆哮だ!
大きくよろめきはしたものの、イフリートは倒れていない!?
体勢を立て直し、ニヤリと笑っている……!
HPゲージは半分くらいしか削れていない!
それだけイフリートが頑丈ということか……?
しかし、【
それに派手に炎が飛び散っていたのは何だったんだ……?
「もしかして……防御奥義か……?」
ミラクルエフェクトを奥義で防ぐことは出来ない。
技としてミラクルエフェクトの方が圧倒的に格上だからだ。
ただ、奥義をぶつける意味がまったくないかといえば、そんなことはない。
ぶつけた奥義の威力の分だけ、ミラクルエフェクトも弱体化するからだ。
それも防御奥義となれば、かなりの弱体化が狙える。
防御奥義は攻撃性能がない代わりに、攻撃を相殺する力が非常に強い。
おそらく【
いや、ボスクラスの防御奥義を貫通してHPを半分近く削ったのだから、やはり【
ただ、今回はそれだけでは勝てなかった……!
ブォオオオオオオオオオオオオーーーーーーッ!!
雪山のボスが来る……!
もう表示されている名前を確認できる距離だ!
『白雪壁画獣アヴァランチウェンディゴ』……!
こいつもイフリートと同レベルのステータス、そして体を拘束されても防御奥義を温存し、本命の攻撃を待つだけの知能を持っているだろう……。
同時に対処することが出来るのか……!?
「……ここは私がウェンディゴを抑えるとしよう」
ネクスが一歩前に進み出る。
武器は扇から銃剣に戻っている。
「複数の敵を相手にする時、どれか1体に攻撃を集中させて数を減らすのがセオリーというのは学んでいる。しかし、それは従来のゲームの話。三次元的な戦闘を求められるVRゲームでは、1体の敵を倒すために他の敵を野放しには出来ない。誰かが動きを抑えなければならない」
「ああ、その通りだ。でも、それはそれとしてどれかに攻撃を集中させて数を減らさないと、ジリ貧になってしまう」
「だからこそ、私が1人でウェンディゴを抑えると言っている。キュージィ殿はエイティと協力して先にイフリートを撃破するのだ」
理想的な作戦ではある。
でも、ネクス1人でウェンディゴを抑えられるのか……?
俺はその疑問を口には出さず、目で訴えかける。
ネクスはこくりとうなずいた。
覚悟の上……か。こうなったら信じるしかない!
「3分でいい。頑張ってくれ」
「ふふっ、30分でなくて良いのか?」
「ああ、3分じゃないとダメなんだ。いくぞ、エイティ! とにかく雪と氷をばら撒くんだ!」
「ヴルル……ッ!」
カッコをつけたわけではない。
3分……本当にそれくらいの時間で仕留めなければならない理由がある!
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