After Data.23 弓おじさん、ダブルキック

「ヴルルルルルル…………ッ!」


 唸り声と同時にドンッドンッという発射音……!

 これは【ムーンキャノン】か!

 わざわざ敵に接近したのだから格闘戦でも仕掛けるのかと思ったが、エイティは普通に射撃による攻撃を行っているようだ。

 それなら地上からでも問題ない気がするが……。


「ヴルルルルルル…………ッ!」


 今度は【氷柱恋々弾つらられんれんだん】の発射音が聞こえた。

 同時にサラマンダーの体に大きな氷柱が突き刺さる。

 位置関係の都合上、俺からエイティの姿は見えないが、射撃の音と壁に張り付いているサラマンダーの反応で大体の状態はわかる。

 やはりエイティは敵に接近したにも関わらず射撃戦を続けている……!


 一体なぜなんだ……?

 疑問を抱えつつ、地上から矢を放ってエイティをサポートする。

 今サラマンダーのヘイトを集めているのはエイティだ。

 攻撃もエイティに向けて行わているため、俺は完全にフリーになっている。

 まさか、俺を守るためにわざと目立つところに?


 ……それもあるかもしれない。

 でも、一番の理由は違う!

 もっと単純かつ、俺にはなかなか理解できなくても仕方ない理由……!


「地上からじゃ攻撃が届かないんだ。射程が足りていない!」


 完全に盲点だった。

 俺にとってはあのくらいの高さにいる敵なんて目と鼻の先だ。

 でも、普通の飛び道具使いにとってはかなり遠いかもしれない。

 たとえ攻撃が届いたとしても、真上という重力の影響をモロに受ける場所にいる敵に対しては、威力が落ちてもおかしくはない。


 エイティも【ムーンキャノン】なら地上からでもサラマンダーに届いたと思う。

 しかし、それでは絶対に普段の威力は発揮されない。

 普段は砲弾を上に放ち、落下してくる時の勢いで威力にブーストをかけているからだ。

 ただ上に向かって放つのでは、撃った瞬間から着弾までの間にどんどん威力が落ちていく。

 【ダイヤモンドダストショット】や【氷柱恋々弾つらられんれんだん】に至っては届かない可能性もある。


 そこでエイティは至近距離で射撃を当てることを思いついた。

 接近すれば距離による威力の減衰は少なくなり、より大きなダメージを与えられる。

 さらには射撃自体も当てやすくなる。


 守りのことをあまり考えない攻撃的な判断だが、今回の戦いにおいては正しい判断と言える。

 雑魚敵相手なら場合によっては逃げたり、俺に戦闘を任せてサポートに徹することも出来るが、今の相手はボスだ。

 倒さない限り逃げられないし、サポートに徹するよりは最大火力で素早く倒した方が結果的に安全かもしれない。


 エイティは非常にクールだ。

 しかし、敵に接近することが危険であることに変わりはない。

 ここはパートナーとしてサラマンダーにダメージを与えつつ、エイティも守ってみせる!

 そのためにはまずサラマンダーに大技を放ってもらわなければ!


「少しだけ耐えてくれよ……エイティ!」


 サラマンダーは俺に対して行ったマグマや燃え盛る岩石を吐き出す攻撃をエイティにも放つ!

 ハッキリとは見えないが、エイティは【ダイヤモンドダストショット】による氷の弾幕や『アイススパイクシールド』の武器スキルで攻撃をしのいでいるようだ。

 この調子ならサラマンダーはエイティを確実に仕留めるため、さらに強力な攻撃を仕掛けてくるはず……!


 俺の予想通り、その時はすぐにやって来た。

 サラマンダーは本当に真っ白に見えるほど白熱し、まばゆく輝いているマグマの塊を吐き出そうと、今までで一番大きな口を開けたのだ!


「お前なら最強の攻撃も口から吐き出すと思っていたさ! 巨大獄炎の矢ビッグインフェルノアロー!」


 赤黒い地獄の炎をまとった巨大な矢は、サラマンダーの下あごに直撃した!

 本来、火属性のモンスターに対して火属性の攻撃は効果が薄い。

 今回の【巨大獄炎の矢ビッグインフェルノアロー】も威力でいえば融合奥義とは思えない低火力っぷりである。

 しかし、融合されている【インフェルノアロー】は【バーニングアロー】の進化スキル。

 その特性は……着弾時に爆発を起こすこと!


 サラマンダーの大きく開かれた口は、【巨大獄炎の矢ビッグインフェルノアロー】による激しい爆発で無理やり閉じられてしまった。

 そして、口の中にため込んでいた莫大なエネルギーが体内で暴走する!

 これによってサラマンダーのHPはゴリッと大きく削り取られた!


「口から攻撃を出す敵を攻略するための王道戦法……ここでも通用したな!」


 あとはトドメの一撃を加えるのみだ。

 大きなダメージを負ったことで、サラマンダーはよたよたと壁を伝って下へと降りてくる。

 それを追うようにエイティが空中の足場から飛び降り、片方の足を突き出す!

 その姿はまるで……ヒーローのキックじゃないか!


「俺も便乗するか……! 灼熱の炎翼ブレイジング・ウイング! 火翔ヒショウ!」


 炎の翼で空中へ飛びあがり、サラマンダーに突撃する!

 俺の足には【ストロングフット】によって無効化した最初の落下ダメージがチャージされている。

 もちろん、落下ダメージをそっくりそのまま返すわけではないが、即死級の落下ダメージを元にして巻き起こされる衝撃波の威力はバカにならないはずだ!


「ストロングフット! 解放!」


「ヴルルルルルル…………ッ!」


 俺は足がサラマンダーに当たると同時に【ストロングフット】の衝撃波を解放!

 エイティはスキル【スノースタンプ】で足に雪をまとわせ、敵を蹴ると同時に衝撃と雪の波を発生させる!

 渾身のダブルキックが綺麗に決まった……!


 サラマンダーはHPをすべて失い、ドロドロのマグマになって地上へと流れ落ちていく。

 そのマグマは一か所に集まり、冷え固まって黒くなった。

 そして、まるで卵の殻を破るように黒い塊が砕け散り、中から『ある物』が現れた。


「これが火山に眠る2つ目の装備……『Vサラマンダーレッグ』!」

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