After Data.19 弓おじさん、ユニゾンカスタム

 翌日、NSOにログインした俺は早速連れて歩くユニゾンをガー坊からビッグフットキャノンに切り替え、その装備を選んでいた。

 幸いガー坊とビッグフットキャノンは機械属性が被っているし、一部の装備を共有できる。

 さらに雪山を冒険して集めた氷関係の素材アイテムで氷属性専用装備も作れそうだ。

 もちろんガチ装備を作るにはまだまだ素材も時間も足りないが、ある程度戦闘に耐えうる装備を用意するには十分な物が揃っている。

 あとはどういうコンセプトで装備を選ぶかだが……。


「よし、これで問題ないだろう」


 サクッと装備枠をすべて埋める。

 装備に関してはいつも長時間悩んでしまう俺だが、今回は前日の夜に構想を練っておいたから、そんなに時間がかかることはなかった。


 ◆装備

 Ⅰ:ツラララブライフル

 Ⅱ:アイススパイクシールド

 Ⅲ:追加装甲

 Ⅳ:大型ブースター

 Ⅴ:超Eジェネレーター(Eタンク連結型)


 コンセプトは……基本装備!

 迷ったらこの装備で戦うのが無難と言えるような、バランスの良い装備構成になっている。


 ◆ツラララブライフル

 種類:氷属性 または 機械属性ユニゾン専用<銃>

 魔攻:120

 武器奥義:【氷柱恋々弾】


 【氷柱恋々弾つらられんれんだん

 胸を貫く恋のような鋭く尖った氷の弾丸を発射する。

 当たった部位が胸部だった場合、ダメージは2倍になる。

 クールタイム:1分30秒


 メイン装備であるキラキラ光る氷のライフルは右手に装備されている。

 ガー坊の場合は手がなかったので武器が体の周りを浮遊していたが、ビッグフットキャノンのような明確な手があるユニゾンは物を持つことが出来る。


 ネーミングは語感だけで決めたのかとツッコみたくなるものだが、性能はドンピシャと言える。

 真ん中に挟まれた『ラブ』の文字のおかげか、この装備はビッグフットキャノンの最も優れたステータスである『魔攻』を上げてくれるのだ。

 他の銃だと『攻撃』ばかり上がってしまうから、この装備があってくれて本当に助かった。

 イメージ的に手に持たせる武器は絶対に銃だと決めていたからな。


 武器奥義である【氷柱恋々弾つらられんれんだん】も何だかファンシーな雰囲気だが、性能はかなり攻撃的だ。

 そもそもプレイヤーや大体のモンスターにとって心臓がある胸部は弱点とされている。

 つまり、普通のスキルや奥義でも胸に当てればダメージが増加することが多い。

 そこへさらに奥義の効果でダメージをブーストするのだから、一体どれほどの威力になるのか……。

 まあ、クールタイムが1分30秒と比較的短いことを考えると、素でそれほどの威力は持っていないような気がする。

 どれだけ胸に弾を当てていけるかで評価が分かれそうな奥義だ。

 遠距離から砲撃を当てるエイム力があるビッグフットキャノンならきっと使いこなせるだろう。


 それにしても、『胸を貫く恋』に例えられる弾丸が1分30秒間隔で撃てるのは面白いな。

 よほど惚れっぽいようだ。


 ◆アイススパイクシールド

 種類:氷属性ユニゾン専用<盾>

 攻撃:20 防御:30 魔防:30

 武器スキル:【アイシクルシールド】【アイシクルエッジ】


 【アイシクルシールド】

 スキルを使った者を追尾する氷の盾を発生させる。


 【アイシクルエッジ】

 鋭い氷の杭を生やし敵を貫く。


 銃とは逆の左手に装備するのは透き通った水色の盾だ。

 スパイクシールドとは言ったものの、盾の表面にトゲトゲはついていない。

 例えるならば……『先割れスプーン』!

 先端部分がフォークのようになったスプーンみたいなシールドだ。

 ……どんなシールドだ。


 とにかく、盾の先端部分は尖っているので、これを敵にぶつければ物理ダメージを与えられる。

 ステータスも『攻撃』が伸びるようになっているので、敵に接近されたときはこの盾を使って迎撃する……というイメージだ。


 スキルの【アイシクルシールド】はガー坊が持っていた【エナジーシールド】の氷版だ。

 盾のサイズは決して大きくないが、使用者を追尾してくれるため激しく動いても問題はない。

 しかし、その分強度は抑え目なので、攻撃を受け止めるというより受け流すためのスキルだ。


 【アイシクルエッジ】はシンプルに氷の杭を地面からにゅっと生やすスキルで、生えて来る時の勢いを利用すればスキルにしてはかなりの高火力を出せる。

 だが、生やせる範囲は自分の周囲のみとかなり狭く、じかに当てるのは難しい。

 しかも、発動から生えてくるまでにほんのわずかなラグがあり、生やそうとしている場所が発光するというわかりやすい前兆がある。

 よほどノロい敵か、初心者プレイヤーになら直当じかあても可能だろうけど、並以上の敵に当てるのはかなり大変だ。


 ゆえにこのスキルの真骨頂は……体や装備に氷の杭を生やすことにある。

 『アイススパイクシールド』のフォークの部分にこのスキルを使えば、敵を刺し貫ける範囲がグッと広がるし、敵が背後を取ってくるタイミングで背中に生やし、カウンターを決めるみたいなテクニカルな使い方も可能だ。

 問題はビッグフットキャノンがそこまで賢いかどうかだが、テクニカルに使えなくても接近された時に使える攻撃手段は多い方がいい。

 さて、特徴的な装備はこれくらいで、後はステータスを底上げするシンプルな装備だ。


 ◆追加装甲

 種類:機械属性ユニゾン専用

 HP:20 防御:80


 ◆大型ブースター

 種類:機械属性ユニゾン専用

 速度:60

 武器スキル:【ブーストターボ】


 【ブーストターボ】

 勢いよく空気を噴射し加速する。


 性能自体はあまり高くないが、あって絶対に困らない装備ではある。

 もちろん、これらを進化させてもっと性能の良い装備を作ることも出来るが、ビッグフットキャノンはいろんな装備を試せるユニゾンだし、最初から素材を潤沢に使って良い装備を作ってしまうよりかは、多少性能が落ちてもいろんな装備を作っていろいろ試していきたい。


 『追加装甲』はそのまま防御力の底上げが目的だ。

 武器スキルなどがない分、結構ステータスの上昇値が大きい。

 また、この装備は見た目に反映されるタイプの装備であるため、今のビッグフットキャノンは肩や胸、腰回りに装甲が追加されている。

 ユニゾンの装備は見た目に反映されない物が多いが、『追加装甲』は攻撃を受け止めることも役割の一つであるため、プレイヤーの装備と同じ扱いになる。

 当然攻撃を受け続けると壊れるし、壊れたら修理も可能だ。


 ちなみに『大型ブースター』はスキル発動時だけ見た目に反映される。

 ブースターがなければ空気を勢いよく噴射できないからな。

 これを装備させた理由としては、いくら素のステータス配分で『速度』を捨てているとはいえ、流石にある程度はないと移動や戦闘に支障をきたすからだ。

 砲撃手はその場にドンと構えて砲撃を行うが、ある程度行ったら砲撃ポイントを変えるために移動しなければならない。

 その移動が遅すぎると、攻撃の機会を損失する。


 この装備によるステータスの上昇は焼け石に水かもしれないが、スキルの【ブーストターボ】はMPを消費し続けることで継続した噴射が可能なため、数値以上に機動力は上がる。

 しかし、思った以上にMPが減ってしまう……。

 そこでこいつの出番だ!


 ◆超Eジェネレーター(Eタンク連結型)

 種類:機械属性ユニゾン専用

 MP:220

 武器スキル:【超エネルギー回復】


 【超エネルギー回復】

 毎秒自動的にMPが回復する。


 MPは生命線だ。

 スキルと奥義を使うのに必須だと考えれば、MPの多さは火力の高さに直結するとも言える。

 そして、その火力で敵を素早く倒せばそれだけ攻撃を受ける機会が減る。

 そう考えると、MPはHPや防御、魔防を補っているとも言える。

 この装備だけはあるかないかで強さがガラッと変わるし、あまりにも便利すぎるためガー坊から借りてきた。


 俺の場合は貯め込んだお金で買った大量のMP回復アイテムを使えるが、ユニゾンは自分で回復アイテムを使うことが出来ない。

 代わりに使ってあげようにも、自分以外の対象にアイテムを使用する時は、かなり近い位置にいなければならない。

 でも、MPが枯渇するような激しい戦闘だと、引き離されていることも多いからな。

 徐々にとはいえ勝手にMPが回復するのは大きい。


 この『超Eジェネレーター(Eタンク連結型)』に関しては正直どんな装備構成でも使えるので、さらに進化させることが出来る素材を見つけた時には優先的に使っていこう。

 さあ、最後にステータスを確認したら出発だ。


 ◆ユニゾンステータス

 名前:ビッグフットキャノン

 属性:氷/機械

 Lv:45/100

 HP:120/120(+20)

 MP:320/320(+220)

 攻撃:155(+20)

 防御:255(+110)

 魔攻:295(+120)

 魔防:175(+30)

 速度:110(+60)


 うん、良いバランスになった。

 でも、数値だけでそのユニゾンの本当の実力は把握できない。

 これから向かう火山で性格や動きのクセをよく観察するとしよう。


「……っと、そうだ。まだ名前を付けてなかったな」


 昨日必死に考えたのに、今の今までド忘れしていた。


「今日からお前の名前は『エイティ』だ!」


 種族名が『ビッグフットキャノン』という奇怪もので、ガー坊のように特徴的な鳴き声もない。

 俺はすぐに良い名前が思いつかなかった。

 ビッグなフットでキャノン……そのすべての要素を短い名前に詰め込むことは不可能。

 かといって、どの要素を抽出すればいいのかもわからない。

 ビッグ要素も、フット要素も、キャノン要素も……どれも捨てがたい!


 そこで俺はひらめいた。

 ただでさえ収集がつかなくなっているところに、あえてさらなる新要素を詰め込むという逆転の発想を……!


 そう、それこそが『エイティ』!

 本当の種族は『ビッグフット』なのに、同じく山に棲むとされるUMA『イエティ』を連想するような名前をあえて付けた!

 ビッグ要素もフット要素もキャノン要素も等しく捨てたので、ある意味では平等なネーミングと言えるだろう。

 それに加えて戦闘は氷属性メインなので、見る人は『雪男』を一番に連想するだろうというオチも完成されている。


 ぶっちゃけその差がわからないUMA三連星『ビッグフット』『イエティ』『雪男』。

 俺の第2の相棒はそのすべての要素を取り込んでいる! 


「ヴルルルルルル…………ッ!」


 ビッグフットキャノン……いや、エイティは低く唸る。

 敵として戦った時も似たような鳴き声を聞いたので、一瞬怒っているのかと思った。

 だが、どうやらエイティはクールな性格らしく、常に低く唸るように鳴くようだ。

 状況に合わせて鳴き声でいろんなことを表現するガー坊とは正反対だな。


「いこう、エイティ! 目指すは火山だ! 雪崩の守護者アヴァランチャーの実力……見せてもらおう!」


「ヴルルルルルル…………ッ!」


 灼熱に負けない雪男を連れて、俺は火山の奥地へと足を踏み入れる!

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