After Data.20 弓おじさん、灼熱の向こうへ
「……おそらく、ここから上だな」
場所は火山中腹の少し手前。
具体的には『
ここから先は以前足を踏み入れた時、装備が燃えてしまった『灼熱』のエリアだが、今回は『Aビッグフットブーツ』を装備しているから、問題ないはず……。
とはいえ、自分の体が発火するってなかなか怖いからなぁ。
熱さこそポカポカする程度だが、エフェクトがガチ炎なので脳が熱いと誤認しそうになる。
「まっ、だからといって、ここで足踏みしてるわけにもいかないんだが」
俺は気張らずしれっと灼熱の領域に足を踏み入れた。
……燃えない! それどころか前まで感じていたうだるような暑さも感じない!
体に火がついてもそんなに熱くならないのに、フィールド環境による暑さはなかなかのものだったから、これは非常に助かる!
「よし、エイティもこっちに来ていいぞ」
俺の命令を受けて、ビッグフットキャノン改めエイティがホバー移動で前進する。
腰を少しかがめて、銃と盾を構えながら、大地を滑るように進むその姿は……渋い!
スピードはあまり出ないし、段差の多い地形では少し苦労するが、その分姿勢は安定するし、移動中でもエイム力は安定している。
この移動中でも射撃を行えるというのは、なかなかすごいことなのだ。
俺も今のようにクロスボウを装備している時は、ある程度移動しながら射撃を行えるが、エイムは劣化するし、非常に体が疲労する。
弓を装備している時ともなれば、基本的に立ち止まらなければ矢を撃てない。
しかし、エイティは移動しながら正確な射撃が出来る……!
撃ちながら背後に回り込もうとしたり、牽制しながら後退したりと、戦法の幅が非常に広い。
攻撃は最大の防御という言葉の意味が身に染みてわかる。
敵をフリーにして回り込もうとすると、敵もぐるりと体の向きを変えて来るし、何の牽制もなしに後退しようとすれば、追いかけられるだけだ。
場合によっては移動中に生まれた隙に攻撃されることもある。
それらのリスクを、エイティは射撃を行うことで防いでいる。
『速度』こそ遅いが、移動に関してはその巨大な足に見合うものがある。
そう、まさに足が使えるモンスターというわけだ!
装備に銃を選んで本当に良かった。
武器による通常攻撃ならばMPの消費もクールタイムもないため、気楽に弾丸をぶっ放せる!
俺と同じ射撃をメインとした戦闘スタイルでも、こんなに動きに差が出るとは嬉しい誤算だ。
「さあ、人ならば存在するだけで燃えてしまう環境には、どんなモンスターがいるのやら……!」
「ヴルルルルルル…………ッ!」
スキル【
ただ、雪山を思わせる白い体毛を持ったエイティがこの場にいるのは、違和感がすごいな。
まあ、地上にお魚を連れ出していた俺が言うのもなんだけど……。
ジャアアアァァァァァァーーーーーーッ!!
ビリビリと肌を震わせる咆哮……!
いきなりお出ましか、灼熱領域の怪物が……!
「下だ!」
俺は【
すると、地面がひび割れ、その裂け目から竜の頭が飛び出てきた!
紅蓮の鱗に覆われた凶悪かつ、どこか威厳を感じさせる顔立ち……初めて見る。
しかし、似た雰囲気の竜を俺は知っている。
「こいつ、風雲竜とか蒼海竜の仲間か……?」
普通に倒せるドラゴン型モンスターも結構いるが、こいつは頭部からして雰囲気が違う……!
HPゲージも名前も表示されていない!
これは超レアモンスター特有の現象だ……!
まさかここで……この不完全な装備で戦うのか……!?
「ヴルルルルルル…………ッ!」
俺が怖気づいている間に、エイティは背中のキャノン砲から光の砲弾を放った。
あれは……【ムーンキャノン】!
山なりの軌道ではなく、竜の頭に向かって真っすぐに飛ぶ!
しかし、竜は亀裂の中に頭を引っ込めて悠々と回避する。
だが、これは1発目の弾丸だ!
2発目の弾丸は、いつも通り一度天高く打ち上げ、真上から降ってくる軌道で放たれている!
亀裂の中に引っ込んでしまった竜に、これを回避する手段はない!
光の砲弾が亀裂に吸い込まれて消えた後、竜の野太い悲鳴が聞こえた!
「やるなエイティ……!」
左右のキャノン砲から1発ずつ、計2発の光の砲弾を放つ奥義【ムーンキャノン】。
エイティのキャノン砲は左右それぞれ違う角度に変えることが出来るため、同じタイミングで違う軌道の砲弾を放ち、着弾のタイミングをズラすなんて芸当も可能だ。
今回の攻撃は1発目で敵を穴の中に押し込め、2発目で穴の中に砲弾をぶち込むという、非常にクレーバーなものだ。
ゆえに俺は、この竜は風雲竜などに及ばないと確信した!
というのも、エイティの性格はガー坊とはまた違う。
ガー坊はどんな強敵でも突っ込んでいく危険な性格をしている代わりに、その危険を事前に察知する索敵能力には優れている。
対するエイティは非常に落ち着いた性格をしている。
敵を見つければ的確に処理しようとするが、自分の手に負えそうにない敵や、相性的に苦手な敵が現れた時には、下がって俺の判断を仰ぐ。
もちろん言葉を発するわけではないが、動きを見ていると何となく伝わってくる。
そんなエイティが風雲竜クラスの敵に出会ったらどうなるか?
まず確実に俺の判断を仰ぐだろう。
なのに今回は自己判断で最強奥義を、それもひと工夫加えて放った。
つまり、敵は言うほど強くない!
「
俺もエイティを見習って山なりの軌道で矢を亀裂の中にぶち込む。
そんな攻撃を繰り返していると、ついに竜が真の姿を現した!
「なるほど、竜頭蛇尾ということか」
すでにHPが残りわずかな状態で亀裂から飛び出してきたモンスターは『ファイアドラゴンヘッド』という名前だった。
頭だけは立派な竜で、首から下はただの赤い蛇だ。
どうやら、HPゲージや名前を隠す能力があるようだが、弱ると効果がなくなるらしい。
「正直、俺1人だったら騙されていたかもしれないが、俺の2人目の相棒はクールなんでね! エイティ! ダイヤモンドダストショット!」
「ヴルルルルルル…………ッ!」
エイティのキャノン砲から、細かく硬質な氷が無数に発射される!
敵の攻撃を防ぐために弾幕を張る奥義だと思っていたが、この氷の量だと普通に攻撃にも使えそうだ……!
射程はあまり長くないので、ショットガンのように攻撃判定の根元を当てるようにすると良いかもしれない。
小さいがとにかく大量の氷の粒をその身に浴びて、ファイアドラゴンヘッドは消滅した。
ここまで雑魚敵とはウォーミングアップに戦ってきたが、なかなか厄介な敵を前にしてもエイティはクールに戦ってくれた。
これからの戦いにも期待できる……!
「さあ、行こうかエイティ。探すのは洞窟だ」
「ヴルル……ッ!」
いつもより少し短い唸り声は、俺の言葉を肯定しているように聞こえた。
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