After Data.15 弓おじさん、揺らがぬ足
名前にビッグフットと入ったブーツなのだから、見た目はもちろん毛むくじゃら……というわけでもないな。
ゴツいブーツではあるが、毛は上の方に少し付いているだけで、大部分は白い革と淡い水色の金属プレートで構成されている。
このカラーリングは雪と氷を意識したものだろう。
あのボスが落としたにしては、なかなかにスタイリッシュな装備だ。
さて、肝心のステータスは……。
◆Aビッグフットブーツ
種類:両足<ブーツ> 防御:60 魔防:30
武器スキル:【アイシクルウォーク】【ストロングフット】
『Vフェニックスアーマー』は攻撃的な防具だったが、こちらは一転して防御重視だな。
気になる点はやはり2つのスキル【アイシクルウォーク】と【ストロングフット】か。
【アイシクルウォーク】
雪や氷の上を歩く際の悪影響を無効化し、速度を20%上昇させる。
【ストロングフット】
足から着地した際の落下ダメージを無効化する。
そして、無効化したダメージ量に応じて威力が上昇する衝撃波を任意のタイミングで放つことが出来る。
ほう、どちらのスキルも効果に『無効化』が入っている。
さらには無効化することによってプラスの効果を得られるようになっているとは……。
非常に面白いコンセプトだ。
【アイシクルウォーク】は雪に足が埋もれて動きにくくなったり、氷で滑って転んでしまうなんてことを防いでくれる。
今までは一歩ごとにずぼずぼと冷たい雪に足を突っ込んでいたが、これを装備するとふかふかの雪の上でも硬い土の大地のようにしっかりと踏ん張れる。
それだけ射撃も安定するというものだ。
さらに雪や氷の上ならば速度も上昇するため、非常に軽快に動けるようになる。
雪山においてはこのブーツを装備しているかどうかで動きがガラッと変わる!
まさに『足』を守る装備といった性能だ!
ただ、【アイシクルウォーク】は雪や氷の上でなければ効果を発揮しない。
それはつまり、普段使いの出来る装備ではないということだ。
まあ、局地戦用の装備とはそういうものだろうし、場所に合わせて使い分けてこそのプロゲーマーだ。
一方、【ストロングフット】は場所を選ばずに発動できるが、使える状況はかなり限られる。
落下ダメージが発生した時のみとなると、自発的に高いところから飛び降りなければ発動するのは難しいだろう。
考えられるのは【
【
飛ぶのに時間を使いすぎると着地のために高度を下げる時間がなくなり、そのまま落下死してしまう可能性が常にある。
しかし、このブーツを装備していれば落下ダメージは無効化できるし、落下と同時に衝撃波を放てば狙われやすい着地の隙を消すことも出来るだろう。
この衝撃波のダメージ量や攻撃範囲は検証してみないとわからないが、まあ奥義ではなくスキルなあたり、即死級の落下ダメージを蓄積させても即死級の衝撃波を放つなんてことは無理そうだ。
あくまでも落下ダメージ無効化のオマケ、敵に接近された時に牽制目的に使うのが良さそうだな。
それにしても、『Vフェニックスアーマー』と『Aビッグフットブーツ』にシナジーがあるとは思わなかった。
属性的には正反対だし、色も見た目もまったく……いや、色は確かに全然違うが、デザインの方向性はかなり似てるかもしれない。
どちらも伝説上の生き物をモチーフにした軽鎧って感じだし……。
「ふっ、ふふふっ」
突然、隣にいたネクスが笑った。
俺は理由がわからず、ぽかんと口を開ける。
「装備を1つ手に入れただけで随分と楽しそうだなっ」
「あ、いやぁ、でもこれが冒険の醍醐味じゃない?」
「すまんすまん、バカにしているわけではないのだ。むしろ、私としても喜ばしいというか、微笑ましいというかな。今、私が存在する理由を実感できたという感じだ。そなたのようにゲームを楽しむ者をこの世界に増やすため、私は生まれてきたのだ」
「そ、そういうことか……」
てっきりネクスを放置して考え込んでいたから笑われたのだと思った……。
まあ、放置してたのは事実だから、ちょっとは反省しないといけないんだが。
「あの者がおしゃべりな理由がよくわかった。人と話していなければ、我々は存在を実感できんのだな」
「あの者……ぶっちゃけチャリンのことだと思うけど、会ったことはあるの?」
「ない! だが、あの者のすごさは生まれたばかりの私でもわかる。我々の中でも特別な進化を遂げた存在だからな」
うーん、AIは成長どころか進化するんだな。
この世のどこかには最早人間など軽く超えたAIが存在して、独自に世界を支配しているのかもしれない。
……さっきまでUMAと戦っていたからか、思考がオカルティックになっているな。
ボスは倒したし、装備のチェックもある程度完了した。
ひとまず洞窟を出よう。
「それにしても、ビッグフットは中々強かったなぁ」
「ああ、私もギリギリだったからな。少しでも気を緩めれば雪に飲まれて終わりだった。しかし、相手が動かず単調な攻撃を繰り返してくれたおかげで対応自体は難しくなかったと思うぞ」
「うん、その通り。足を攻撃に、腕を防御に使うから、移動に手が回らなかったんだ。もし、移動力まで揃ってたら負けてたかもしれない。それこそ、背中にでっかいキャノン砲とか背負った『ビッグフットキャノン』みたいな亜種がいたら、キャノンで攻撃、腕で防御、頑丈な足で移動と隙がまったくない……ふっ」
なんか、話してて笑えてくるな。
なんだ『ビッグフットキャノン』って。
ロボのバリエーションじゃないんだぞ。
一応伝説上の生き物と言っていいUMAにそんな亜種がいるわけないだろうに。
いたら面白いとは思うけどね。
「そうだ、ネクス。もし良かったら今度新モンスターとしてビッグフットキャノンを採用して……」
「ビッグフットキャノン……いた気がするがな……」
「えっ!?」
「いや、没データだったかな……」
没にしてもとんでもないことだ。
つまり、一度は『ビッグフットキャノン』を思いついた運営スタッフがいたということなのだから!
その人の精神は大丈夫なのだろうか?
過酷な環境で疲れてないだろうか?
会社から休みは貰えているのだろうか?
いや、毎日十分に寝て、健康のために散歩をして、楽しくゲームを遊んでいる俺が『ビッグフットキャノン』を思いついたということは、『ビッグフットキャノン』は健全な精神に宿るのではないか……?
「……寒いなぁ」
洞窟の外は夜だった。
特殊な天候のせいで空の様子がわかりにくかったが、どうやら俺たちは結構な時間冒険をしていたらしい。
「今は雲が晴れて、月が綺麗だなぁ」
雪山の上に浮かぶまん丸い月は乙なものだ。
リアルではなかなか味わえない光景だろう。
もう少し月光浴をしてからログアウトしてもいいかもな……。
ほら、月の数も3つに増えて……え?
「ネクス! 逃げろ!」
「なにっ!?」
「
ネクスを抱えてとにかく真横に飛ぶ!
さっきまでいた場所から離れるんだ……!
空に増えた黄色いまん丸……あれは攻撃だ!
それもあの軌道は砲撃のように思える!
ドジャアアアアアアアアアッ!!
ドジャアアアアアアアアアッ!!
爆発音が2つ、背後から聞こえた。
その後やってきた爆風に煽られ、体勢を崩した俺は雪の中に突っ込んだ。
「ぐっ……! もうちょっと距離をとりたかったが、自分以外の誰かを抱えて飛ぶと、こんなに速度が落ちるとは……!」
「す、すまぬ! 私のせいで逃げ遅れてしまったな……」
「いや、ネクスが謝る必要はないよ。それに俺は最初から逃げるつもりはない。あいつからは……!」
月下の雪山に響いた砲撃の音……。
やはり『奴』は存在しているんだ。
どんな発想から実装されたのかわからない、まさに大VR時代の
「ビッグフットキャノン!」
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