After Data.14 弓おじさん、雪を切り裂き

灼熱の炎翼ブレイジング・ウイング……火薙ヒナギ!」


 炎の翼から発せられる熱風が雪の波とぶつかる……!

 が、これだけでは溶かしきることは出来ない!

 翼本体を雪にぶつけて、やっと雪の波を溶かしきることに成功した!


「まだ奥義の効果時間は残っている……! このまま敵に熱風を送り続ける!」


 ボスといえども氷属性であることに変わりはない。

 『火薙ヒナギ』による熱風だけでも十分にダメージを与えられるはずだ。


 ちなみに『火薙ヒナギ』という技名は俺が勝手に考えただけで公式ではない。

 翼で体をくるんで身を守る技『火包ヒグルミ』も同じく俺のオリジナルだ。

 【灼熱の炎翼ブレイジング・ウイング】はいろんな使い方が出来る奥義かつ、本来人間には存在しない部位である翼を操作する必要がある。

 上手く翼を操り、状況に合わせて使い分けるには、こういう雰囲気作りが大事だと俺は思っている。


 攻撃が『火薙ヒナギ』、防御が『火包ヒグルミ』だとすれば、飛行は『火翔ヒショウ』とでも呼ぶかな。

 ただ、この狭いボス部屋で『火翔ヒショウ』の出番はない。

 とにかく攻撃を意識するんだ……!


「ボス戦はとにかく速攻を意識すべし……。ならば私は奥義でいく! 大紅蓮鉄火弾だいぐれんてっかだん!」


 ネクスが持つ2つの銃剣から2つの火球が撃ちだされる!

 それは即座に交じり合い1つの大火球となった!

 デッカイ弾丸を撃つというシンプルな奥義だが、その分攻撃範囲や弾速は優れている!

 おそらく威力も十分なものだろう……!


 さらに今は『火薙ヒナギ』によって熱い追い風が吹いているため、弾丸の性能も微増するはず。

 場合によってはこの奥義の直撃で決着がつく……!


 ゴ……ゴ……ゴ……ゴフウウウゥゥゥゥゥゥッ!!


 ビッグフットは大きく息を吸い込み、吐き出した!

 ただそれだけの行為が、荒れ狂う吹雪を巻き起こす……!

 しかし、氷属性の攻撃で火属性の攻撃を相殺するのは難しい。

 多少は威力が減衰するかもしれないが致命傷は免れない……はずだった。


 ゴオオオオオオーーーーーーッ!!


 俺の予想に反して大火球の威力は大きく減衰し、最後にはビッグフットの足で蹴り砕かれた!

 有利相性でも押しきれないほど【大紅蓮鉄火弾だいぐれんてっかだん】の性能が低かったのか?

 いや、今までいろんな奥義を見てきたが、見てくれだけならかなりの物だったぞ……。

 それにネクスだってこのタイミングで威力の低い奥義を選ぶわけがない。

 これが彼女の全力だったはずだ。

 では、なぜこんなことに……。


「なにっ!? なぜ火属性の奥義が氷属性に相殺されるのだっ!?」


 ……演技ではなさそうだな。

 どうやらネクスもこの疑問の答えを知らないようだ。

 今現在データを読み取れないとはいえ、記憶の中に敵のデータが入っているだろうと思わなくもないが、そういうところも人間臭く忘れたりするのが高性能AIなのだ。


 それにしても、氷属性が火属性にここまで抵抗できた理由は何だろう?

 道中の氷属性モンスターたちには火属性が効果てきめんだったのに……。


「……まさか、フェニックスと同じパターンか?」


 火山のフェニックスは本来苦手属性である水属性の攻撃を熱で蒸発させて防いでいた。

 それと同じようにビッグフットも強力な冷気で熱を奪い去り、火力を落としているのかもしれない。

 2つの山に潜むボスたちが属性相性を歪める『特殊な攻撃』を持っていると仮定するなら、やはり頼れるのは……雷属性!


「サンダー・ショットガンアロー!」


 雷をまとった細かな矢がビッグフットに殺到する。

 ビッグフットはそれを毛に覆われた両腕でガードした。

 今度は吹雪の息吹を出してこない……!

 流石にあれだけの息を連続で吐くことは出来ないのか!


「ネクス、作戦は変わらない! あの息吹さえ来なければ火属性の攻撃も通るはずだ!」


「わかった! ならば次の奥義は……」


 ゴオン! ゴオン! ゴオン! ゴオン! ゴオン!


 地面が小刻みに揺れる……!

 ビッグフットが両腕で急所をガードしつつ、その大きな足で地面を踏み鳴らしているのだ!

 踏むたびに雪が震え、それは小さな波となって俺たちを襲う!

 小さいと言っても最初の波より小さいというだけで、高さは俺の身長よりも頭一つ分は高い!

 それがいくつも迫ってくるとなれば、まさに波状攻撃!

 対応しないわけにはいかない……!


「今度は私が露払いをしよう。キュージィ殿は攻撃を!」


「ああ!」


 【灼熱の炎翼ブレイジング・ウイング】はクールタイムに入ったからな……。

 ここはネクスに頼らせてもらおう。

 俺はネクスが開いた射線に矢を通すことに集中するんだ!


群翔火燕斬ぐんしょうひえんざん!」


 ネクスがデタラメに銃剣を振り回す!

 その度に刃から赤い斬撃波が飛ぶ!

 これは俺との戦いで使った【火燕斬】の乱れ斬りバージョンか!

 確かにこれなら迫りくる無数の雪の波を切り裂くことが出来る!


「ぬおおおおおおおおおおおおッ!!」


 ネクスは叫びながら銃剣を振り続ける!

 まさか、この技は発動したら勝手に体が動いてくれるタイプではなく、発動中に自力で何回銃剣を振れるかによって飛ぶ斬撃波の数が変わり、最終的なダメージ量にも差が出るタイプか……?

 古い言葉で言えば、ボタン連打で攻撃するタイプの……。

 効果としては面白いが、これが本当に実装されたら俺みたいなプレイヤーにはキツイだろうなぁ……。

 ここまで勝手にたくさんの矢を撃ってくれるタイプのスキル奥義に頼りっきりだったもんなぁ……。


 っと、そんなことを考えている場合ではない。

 ネクスの必死の攻撃がいくつもの雪の波を切り裂き、ついにその向こう側にいるビッグフットの姿が見えてきた!

 ビッグフットはもはや足踏みの要領で地面を踏み続けている。

 攻撃と言うより、もう足を動かすこと自体を楽しんでるって感じだな。

 ちょっと愛嬌があると思ってしまったが、これを続けられるとネクスも力尽きて俺たちは普通に全滅してしまう。

 ここでお遊戯は終わりにしてもらうぞ!


「裂空か、アイムか、ガー坊との合体奥義か……。いや、たまにはこいつで贅沢に……な!」


 俺が選んだトドメの一撃。

 それは……!


南十字星型弩砲サザンクロスバリスタ!」


 最強の攻撃手段、ミラクルエフェクト【南十字星型弩砲サザンクロスバリスタ】!

 基本的に温存しまくっている技だが、対人戦でもないならもっと気楽に使ってもいいはずだ!


「いっけぇ!!」


 発射された十字の光の刃は雪の波をスパスパと切り裂き、ビッグフットに直撃した!

 そして、そのまま一気にHPを削り取り、撃破までもっていった!


「やっぱり、当てることさえ出来ればミラクルエフェクトは最強だな!」


「はぁ……はぁ……。大胆な選択……いや、的確な選択だ……。私も限界が近かったから……助かったぞ……」


「だ、大丈夫? おかげで助かったけど、あんまり無茶は……」


「いや、これでいいのだ……。全力で戦うからこそ、自分の今の力が見えてくる。まあ、他にも見えてきたものはあるがな」


「他にも?」


「ミラクルエフェクトは威力を高く設定しすぎかもしれん」


「そこは……何卒なにとぞ見なかったことに……!」


「案ずるな。そなたのミラクルエフェクトは発射台がその場に固定されるゆえに当てにくいという性質を持っている。他のミラクルエフェクトと比べて、威力以外で突出したものはない。弱体化はないと思うぞ」


「よかった……!」


「だが、これ以上強いものを実装しすぎてはいかん。まあ、次に新たなミラクルエフェクトが増える時というのは、『あの者』が再びこの世界にやってくる時だろうから、そちらの意見を参考にすればよいか。私にとっては偉大なる先輩だから……な」


「ああ、『あの者』……ね」


「予定は未定だがな。さあ、冒険の続きを始めようか」


「うん、まずはボス討伐の戦利品をチェックだ」


 雪の塊が形を成し、新たな装備を生み出した。

 その名も『Aビッグフットブーツ』!

 Aは『雪崩』を意味する『アヴァランチ』のAだ!

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