After Data.13 弓おじさん、巨足の獣
「この雪山が火山と双子の山ならば、目指すべき場所は1つだ」
「洞窟……だな?」
「ああ、その通り」
この雪山の形は火山とよく似ている。
つまり、倒すべきボスも火山と同じような洞窟の中にいると考えられる。
もちろん、その洞窟の位置まで火山と一緒かどうかはわからない。
それに今回はネクスもいるので、俺は焦らずじっくりと徒歩で探索を続けた。
道中、結構危ないシーンもあった。
雪山に出るモンスターはやっぱりどれもこれも白い!
雪が降り積もって真っ白な地面に簡単に紛れてしまうので、それだけ不意打ちをくらう機会も多くなった。
「うわっ!? こやつ、どこから湧いて出た!?」
それに……見ていてわかったが、ネクスは不意打ちに弱い。
誰だって不意打ちには弱いが、彼女は驚き方が尋常じゃない。
だが、これにはAI特有の理由があるらしい。
ネクスは今までゲーム上ではなくデータ上で事前に決められた相手と戦ってきたので、不意打ちをされる機会というか、何かに驚かされるという経験自体したことがない。
それに彼女は今AIとして生まれ持った力である『データを読む』という能力をオフにしている。
これは人間で言うと五感の一部を奪われるに等しい。
目を塞がれた状態でいきなり知らない人に話しかけられたらビックリするだろう。
今のネクスはそういう状態のようだ。
ガー坊がいれば鳴き声で敵の接近を知らせてくれるのだが、どうやらガー坊とこの雪山の環境はすこぶる相性が悪いらしい。
足場は深く積もった雪なので、脚が短く重量のあるガー坊はすぐに埋まってしまう。
……と思っていたのだが、ワニに進化した後のガー坊でも魚時代のようにふわふわと空中を浮かぶことが出来るということを今になって思いだした!
ただ、この空中浮遊状態はスピードが著しく落ちるので、戦闘能力もそれだけ低下する。
地上戦では脚を使った方が断然強いので、俺も進化直後にサバンナで空中浮遊能力を試して以来、忘れてしまっていたようだ。
しかし、振り返ってみればガー坊が短い脚では超えられなさそうな段差も普通に越えて来たり、軽快なジャンプを披露していることもあった。
俺は忘れていても、ガー坊自身はちゃんと自分に出来ることを覚えていたようだな。
これで索敵の問題は解決……とはいかなかった。
そもそもガー坊は寒さに弱い!
だってワニだから……!
雪に埋もれていなくても、雪山の極寒の空気に触れるだけで調子が悪そうだった。
俺自身が寒さや熱さに耐えることばかり考えていたが、ガー坊にも耐寒装備や耐熱
装備を作ってあげたいなぁ……。
でも、今回はとりあえずネクスと協力してボスを攻略しよう!
「うわーっ!? またモグラかーっ! このっ! このっ!」
……ちょっと不安だけど、まあ大丈夫だ!
◆ ◆ ◆
「うん、当たりだ。この洞窟は火山にあった洞窟と似ている!」
「そうか、やっとだな……。マップを見るのと実際にフィールドを歩くのとでこうも違うとは……」
割と時間がかかったが、俺たちはついにボスが潜んでいると思われる洞窟を発見した!
火山の洞窟との違いといえば、壁や天井や地面の色くらいで、他はほぼほぼ同じだ。
「少し休憩してから行くかい?」
「なんのこれしき、AIはタフでなければ務まらんのだ!」
やる気は十分のようだ。
お互いHP、MP、クールタイムに問題なし。
装備にも派手な傷はない。
ボスにも万全の状態で挑める!
「あ、今更だけど、ネクスってプレイヤーのボス攻略に協力しても問題ないの?」
「ああ、問題ない。許可は得ている」
「なら、よかった。俺のせいでネクスが運営に怒られたら悪いからね」
「いらぬ心配だ。それより、ここのボスはパーティの人数が増えれば増えるほど強化されるタイプだから、私がいても楽になるとは限らんぞ」
「まっ、そこは心配してないよ」
「……ふっ、流石だな」
洞窟の内部へと足を踏み入れる。
やはり内部の構造も火山と同じだ。
自動で火が灯る燭台に、雪山に生息するモンスターの壁画群。
道は一本道かつ、モンスターも出てこない。
ひんやりとした空気が奥から吹いてくるのを頬で感じながら、俺たちは歩き続けた。
そして、奥地の一歩手前で他の壁画とは力の入れようが違う3種の壁画を発見した。
これも火山の洞窟と一緒だが、描かれているモンスターの姿は火山とは違う。
今回は巨大な足を持つ毛むくじゃらの獣に、巨大な拳を持つ毛むくじゃらの獣。
さらには巨大な角を持つ毛むくじゃらの獣が、今にも飛び出してきそうなほど躍動感にあふれたタッチで描かれている。
……こっちの山は全部獣なんだな。
火山は鳥に竜に人とバリエーション豊かだったが、こちらは毛むくじゃらの獣3種というラインナップだ。
姿が似ている分、対処法も似ていれば良いのだが、戦闘に力を入れたゲームであるNSOでそれは期待できないだろう。
きっと見た目が似ているだけで、3体とも違う対応を求められること間違いなしだ。
まあ、俺としてはその方が楽しくて良いんだけど。
「ボス戦の流れも火山と同じなら、この先の広い空間でボス戦になる。天井に描かれた巨大な画からボスモンスターが飛び出してくるんだ。そして、そのモンスターは……この巨大な足を持つ毛むくじゃらになると思う。ここに描かれている順番的にね」
「わかった。事前に言ってくれれば驚くこともない」
「よし、じゃあ突入だ!」
2人でボスフロアに突入する。
雪の積もった地面、白いドーム状の天井は巨大なかまくらの中を思わせる。
ただ、かまくらの天井にあんな鮮やかな天井画は描かれていないがな……!
ゴオオオオオオオオオーーーーーーーーーッ!!
空間が揺れるほどの雄たけびと共に、巨大な足を持つ毛むくじゃらの獣が天井画から飛び出してきた。
その名は『
フェニックスに負けないくらい長い名前だが、やはり嫌いじゃない……!
「ネクス、この手のボスは巨体を生かした物理攻撃が強力だ。下手に接近せず、銃弾を撃ち込んで戦った方がいい」
「わかった。早速奥義を撃ち込んで……」
「……いや、まずは防御だ! もうあちらの攻撃が始まっている!」
ビッグフットは天井から落下する勢いを生かし、巨大な足で地面を踏みつけた!
こちらの体がよろけるほどの地震を起こすと同時に、積もっていた雪が液状化したように波打つ……!
ゴオオオオオオオオオーーーーーーーーーッ!!
雪の波は巨大化し、大波となって俺たちに襲い掛かる……!
まさかこんな狭いところで雪崩をくらうとは……!
アヴァランチの名に嘘はないということか!
「俺が雪の波を溶かして活路を開く! ネクスは敵の動きを確認して攻撃するんだ!」
「心得た!」
パーティがソロからデュオになったことでボスも強くなっている。
ここからは本当の共闘が必要だ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます