After Data.9 弓おじさん、謎のもさもさ

灼熱の炎翼ブレイジング・ウイング……!」


 一旦空に逃げ……いや、このタイミングでは刀が先に入る……!

 ならば……!


火薙ヒナギ!」


 炎の翼そのもので正面を薙ぎ払う!

 そもそもこの奥義は攻撃スキルなんだ。

 燃え盛る翼にはもちろん攻撃判定があるし、巻き起こる風は身を焼く熱風になる!


「…………」


 謎の人物は華麗なバク転で俺の攻撃を避ける。

 身のこなしは素晴らしいが、非常に人間臭い動きであることも確かだ。

 最初は人型モンスターか何かだと思っていたけど、やはりプレイヤーなのか?

 もしそうだとしたら、あの人物からの攻撃は俺に通らないはず……。


「……ふっ」


 俺の考えをあざ笑うかのように、その人物は刀を構えた。

 その時、俺は初めて気づいた。

 刀のつばの部分が銃のようになっていることに……。


「銃剣か……!」


 それもリアルの銃剣というより、ヒーロー物のおもちゃで採用されるような銃剣だ!

 鍔の部分が銃に、柄の部分にトリガーがついている!

 そして、その銃口は今……俺に向けられている!


「鉄火弾」


 銃剣から熱を帯びた赤い弾丸が放たれる!

 遠近両用の万能武器とは恐れ入る……!

 しかし、俺は少し前に万能武器を扱うプレイヤーと戦っている。

 彼女に比べれば、まだまだ付け入る隙はあるはずだ!


火包ヒグルミ!」


 炎の翼で体を包み込み、全身を守る盾にする!

 こちらは奥義、あちらはおそらくスキル。

 銃弾が炎の翼を貫通することはない。

 まだ炎の翼が持続している間に、距離を取らねば……。


 だが、相手も俺の戦法は把握しているのか、銃弾を撃ちながらゆっくりと接近してきている。

 これでは追い込まれるのは俺の方か……。

 じゃあちょっと、数の暴力に頼らせてもらうかな。

 そっちは奇襲してきたんだから、卑怯とは言うまい!


「ガー坊召喚! ミサイルフィッシュ!」


「ガァー! ガァー!」 


 足が短く雪に埋もれやすいので引っ込めていたガー坊をここで召喚する!

 同時に16発の魚型ミサイルを放つ奥義【ミサイルフィッシュ】を発動!

 そちらが銃なら、こっちはミサイルだ!


「金剛鉄火弾」


 その人物はミサイルの群れに銃口を向け、弾丸を撃ちだした。

 2本の銃剣からそれぞれ8発ずつ、合計で16発。

 そのすべてが外れることなくミサイルに命中し……相殺した。


「なっ……!?」


 反応が早すぎる……!

 そして、狙いが正確すぎる……!

 ノルドですらこの距離からあの数のミサイルを撃たれれば、相殺しきれるにしても数発は弾丸を外すはずだ……。

 なのに目の前の人物は……機械のように正確無比にミサイルを撃ち落とした!


 でも、なぜだろう……。

 俺はこの感覚を知っているような気がする。

 ノルドやマココのようなトッププレイヤーとはまた違う方向の強さ。

 狙いの正確さや、異常な反応の速さを俺はどこかで経験している……。


火燕斬ひえんざん


 赤い弾丸の次は赤い斬撃波が飛んで来た!

 同時に【灼熱の炎翼ブレイジング・ウイング】の効果が終了。

 俺の身を守る物はなくなった!

 かくなるうえは……回避だ!


 2本の銃剣から放たれた斬撃波は『X』のように交差している。

 つまり、真下に案外隙間があるのだ。

 俺は意を決して雪の上にうつ伏せになる。

 その上を斬撃波が通過する……!


 あ、熱い……っ!

 雪が溶け、装備が少し焦げる……!

 HPもわずかに削られたが、致命傷ではない!

 回避は成功した。お次は反撃だ!

 高熱の斬撃波が雪を溶かしたことで生まれた水たまりを利用させてもらう!


「海弓術・三の型……平目ひらめ!」


 海弓術の中で最も出番のない型!

 というか、実戦で使ったことあるっけ?

 それくらい記憶が曖昧な幻の型だ……!


 別に俺が個人的にヒラメが嫌いというわけではない。

 あまり出番がないことには明確な理由がある。


 まず、海弓術共通のデメリットとして水中でしか発動できないというものがある。

 水中では通常の矢によるスキル奥義が大幅に弱体化するので海弓術の存在はまさに救世主なのだが、そもそも水中戦を行う機会が少ないため、海弓術全体があまり目立ってないのは否めない。

 そんな中で【平目】は……言ってしまえば水中でも使いにくい性能をしている。


 発動すると矢の先端部分である矢じりが大きくなり、少し丸みを帯びる。

 要するにそのまんまリアルのヒラメっぽい形になるのだ。

 これはまあ問題ない。

 攻撃スキルなので矢じりが大型化するのは困らない。


 問題はその軌道だ。

 放たれた【平目】はストンと下に落ち、地を這うように進む。

 水中の敵というのは基本的に優雅に泳いでいるので、地を這われると当たらない。

 カニとか海底を歩くモンスターにならば当たるが、そういった敵に対しても他の型を使った方がやりやすい。


 それこそ、四の型の【梶木かじき】なんかはそこそこのスピードと貫通力を兼ね備えた直進する矢なので、非常に扱いやすい。

 五の型【さめ】は条件を満たせば敵をホーミングする矢になるし、六の型【いわし】は群れのような細かい矢を放ちある程度広範囲もカバー出来る。


 わざわざ三の型【平目】を使わなければ戦えない場面などないのだ。

 今日、この瞬間までは……!


 俺はこのスキルの使いどころがわかっていなかった。

 地を這う軌道ということは、水たまりのような浅い水の中でも問題なく使えるということ。

 そして、そのくらいの水なら戦いの中で触れる機会は多いということ。


 さらに【平目】には擬態能力がある!

 リアルのように体の模様を背景に似せる程度のものではなく、完全に地面と一体化して俺にも見えないレベルだ!

 もはやクリア系のスキルに近いと言ってもいい!

 澄んだ雪解け水の中を完全擬態したヒラメの矢が泳ぐ!


 流石にいくら反応が良くとも見えない攻撃には対応できまい!

 それも使った本人にすらこの瞬間まで使いどころがわからなかったスキルには……!


「……んぐっ!?」


 謎の人物は足に矢を受け体勢を崩し、そのまま頭から水たまりに突っ込んだ。

 反対に俺は素早く水たまりから体を起こし、その場から離れて奥義を放った。


巨大雷の矢ビッグサンダーアロー!」


 狙うのは謎の人物……ではなく、その人が倒れ込んでいる水たまりだ!

 雷をまとった矢が水たまりに刺さると、水を伝って謎の人物にも電気が流れる!

 もちろん大きなダメージを与えたいなら頭部に直撃させるべきだ。

 でも、俺はこの人物を倒したくなかった。

 どうしても確認したいことがあるからだ。


 しかし、いきなり攻撃を仕掛けてくるような血の気の多いタイプには、ひとまずはどちらが勝ったのかわかりやすい状況を作らなければ会話にならないと思った。

 今、勝敗はわかりやすく決した。

 これでやっと会話になるはずだ。


「君は……AIだね? それも普通のNPCとは違う。チャリンのような高性能AIだ」

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