After Data.4 弓おじさん、立ち上がる
目標を立てたら実行に移ろう。
最初に俺がやるべきなのは……仮の装備を決めることだ。
目標は風雲装備に次ぐ強い装備を手に入れることだが、それすら丸腰では絶対に実現できない。
今持っている装備や素材を組み合わせて出来る限り強い装備を作る。
まずはそこから始めよう。
◆ ◆ ◆
「……見た目はアレだが、なかなか悪くない装備を揃えることが出来たな」
どうせデスペナルティで1日はロクに冒険できないし、じっくりと時間をかけて今の俺にとっての最強装備を見繕った。
それがこれだ……!
◆装備
頭部:オクトパスマスク
右手:ショットクロスボウR
左手:ショットクロスボウR
両腕:スパイダーグローブ・ヒロイック
胴体:ジェットアーマー
脚部:船乗りのズボン
両足:ヘッジホッグシューズ
装飾:〈海弓術・七の型〉、〈鏡写しのミラアリス〉、〈破魔弓術・四印〉
名前だけでわかる統一感のなさ……!
機械、虫、海、動物……様々な力のパッチワークとも言うべきこの装備一式だが、実は1つの明確なコンセプトがある!
これからそのコンセプトが通用するかどうか、フィールドで試してみよう。
向かうフィールドはもちろん……!
「火山だ!」
冷静に考えれば『何がもちろんだ!』『一番行っちゃダメだろ!』とお叱りを受けそうな行動だが、俺にはどうしても火山について気になることがあった。
それは『どの範囲まで装備が発火するのか?』という点だ。
もし、火山の領域すべてで装備の発火現象が起こるというのならば、風雲装備を完全に修復しても攻略の糸口は見つけられない。
しかし、標高の低いところならば発火しないとなれば、その発火しないエリアに何か火山攻略のヒントが隠されているかもしれない。
この検証は間に合わせの装備をつけている今だからこそ出来ることだ。
もちろん、発火に対して無策で挑むわけではない。
今回は【ワープアロー】を使わずに山の下からゆっくりと上を目指す。
装備に少しでも火がついた場合は、落ち着いて来た道を引き返した後、ガー坊の【
風雲装備が燃えた時は気が動転して消火という作戦が思いつかなかったが、これに関しては思いつかなくて良かったと思っている。
なぜなら、装備が自然発火するような環境では、水が即座に蒸発してしまうか、熱湯に変わってしまうからだ。
消火という選択をすれば、ガー坊まで一緒にキルされていたかもしれない。
引っ込めたままだったからこそ、ガー坊はデスペナルティを食らわず元気なままだ。
万全な状態のガー坊と協力すれば、ある程度の強敵だって倒せるだろう。
しかし、今回の火山探検でガー坊に頑張ってもらう予定はない。
この選択もまた、新装備のコンセプトに関係している。
「さて、どうアタックをかけるか……」
空から見下ろした火山もデカかったが、地上から見上げると火山はさらに大きく見える。
だが、不思議と今は以前ほど熱気を感じない。
やはり標高の低いところは温度も低いのか?
いろいろ検証してみる価値はありそうだ。
「バブルヘルメット、オン」
頭部装備『オクトパスマスク』の武器スキル【バブルヘルメット】を発動する。
◆オクトパスマスク
種類:頭部<マスク> HP:44 MP:44
武器スキル:【バブルヘルメット】【ブラックバブル】
【バブルヘルメット】
頭部を覆う泡のヘルメットを生成する。
有害な物質を遮断し、内部を一定の温度に保つ。
『オクトパスマスク』自体は一般的なマスクのように鼻と口、頬を覆うような形をしている。
カラーリングはゆでダコのような赤。
主に南の海で倒した海洋系モンスターたちのドロップアイテムを使って作られた防具だ。
【バブルヘルメット】はそのマスクから生成された泡で頭をすっぽり覆うスキル。
金魚鉢を逆さまにして被ったような……という例えはちょっと古臭いか。
効果は説明文に書かれているように有害物質が泡の中に入るのを防ぎ、高温や低温からも守ってくれる。
有害物質というのはおそらく【ブラックスモッグ】のような異臭がする気体のことだろう。
泡は泡なので矢とか弾丸とか強力な飛び道具は防げないだろうし、近接武器でぶん殴られた時には何のガードにもならないと思う。
おそらく魔法攻撃にも耐えられない。
しかし、火山というのは危険なガスが噴き出ている可能性があるし、何より頭だけでも快適な温度に保ってくれるこのスキルは非常に助かる。
また、泡ということは全体が透明で視界を遮らない。
火山攻略の糸口を探す冒険だからこそ、視界の広さはとても重要だ。
適材適所! まさに対火山装備といったところだ。
「とりあえず、看板を見逃さないようにしないとな……」
NSOは案外親切なゲームだ。
危険なフィールドの直前には、注意を促すような看板が立てられていることもある。
今回は登りすぎると装備が自然発火するような山なんだ。
きっと、どこかにそういう看板があってもいいはず……。
だが、俺の想いとは裏腹に看板は見つからなかった。
見逃したとは思えない。
この山には木の1本すら生えていない。
ただ赤茶けた土と岩が転がっているだけだ。
こんなところに人工物があれば、絶対に目立つ。
「なんか……火星を歩いてる気分だ」
ヘルメットが宇宙服の物に少し似ているのも良い雰囲気を醸し出している。
孤独に異星の大地を歩くおじさんが1人……。
まあ、今のご時世ともなると火星にも人がいるから1人にはならんのだが。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………
火山が……揺れた!
噴火の兆候か?
「あ……! まさか……!」
装備の発火現象は、火山の噴火によって気温が上がったから起こった現象なのか?
今、俺の装備が燃えていない理由は標高が低いからとかではなく、噴火からしばらく時間が経って気温が下がっているから……?
ありえない話ではない。
オンラインゲームにおいて特定の時間しか立ち入れないフィールドというのはまあまあ存在する。
そして、この火山では噴火によって立ち入れない時間帯を作っているのかもしれない。
機械的に見えない壁で立ち入れないようにするよりは、噴火という自然現象で時間を制限した方が雰囲気も出るし世界観も守れるからな……。
「撤退か、続行か……」
俺の予想が正しければ、噴火したタイミングでこの火山にいること自体が間違った行動になる。
即座に撤退して、時間経過で気温が下がるのを待つのが賢い。
しかし、予想が当たっているかどうかは噴火した現場にいなければわからない。
今回はいざとなれば【ワープアロー】が使える状態だが、どうする……?
「続行だな」
俺は再び山を登り始めた。
今回の冒険の目的は検証、そして情報収集だ。
不確かな予想だけを持ち帰っても意味はない。
ギリギリまでこの火山の秘密を探る……!
慎重だった足取りは速くなり、ずんずん上へと登っていく。
そして……それは起こった。
「……ん!? は、発火した!?」
本当に突然だった。
周囲の景色が変わったわけでもなく、火山が噴火したわけでもなく、急に燃えた。
俺は予定通り即座に後退し、ガー坊を召喚して消火してもらう……はずだった。
「あれ? 火が消えた……」
発火が起こった場所から少し引き返すだけで、火は消えた。
装備にも焦げ跡はほぼない。これなら性能が下がることもないだろう。
そこで俺はもう一度発火した地点に戻った。
すると、再び装備は発火し、引き返すと鎮火した。
このことから2つのことがわかった。
・この火山はある標高を超えた時点で装備が自然発火する環境になる。
・その標高より低いところに戻れば自然発火した火は消える。
発火現象そのものは噴火とは関係ないのか……。
しかし、噴火中はこの発火現象の範囲が広がるということもあり得る。
それも検証しなければ……。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
と、思っていたら、ちょうどその時が来たようだ。
巨大火山が今……火を噴いた!
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