After Data.3 弓おじさん、灰になる
眼を覚ますと、俺は初期街にいた。
プレイヤーはキルされると、その直前に立ち寄った街に強制送還されるようになっている。
さらにはデスペナルティとしてステータスが7割ほど減少し、元に戻るまでに1日かかる。
いや、今は俺のことなんてどうでもいい……!
炎によって風雲装備がすべて焼かれてしまったんだ!
「いや、もしかしたらまだ……!」
ステータスを開いて装備を確認する。
◆装備
頭部:―
右手:―
左手:―
両腕:―
胴体:―
脚部:―
両足:―
装飾:〈海弓術・七の型〉、〈鏡写しのミラアリス〉、〈破魔弓術・四印〉
絶望がより深まるだけだった。
残っているのは見た目には反映されない装備であるグロウカードのみ。
それ以外の装備は本当に燃え尽きて、なくなってしまったんだ……。
なんて、落ち込んでいる場合ではない!
装備に何かあったら向かうべき場所は1つだ!
空上郷には凄腕の職人がいる!
彼ならばもしかしたら……!
俺は速攻でファストトラベルし、走って工房に駆け込んだ。
受付にはいつもの天女さんがいた。
彼女は俺の姿を見るなり『お、お師匠様を呼んできま~す!』と奥に引っ込んでしまった。
そして、しばらくして現れたのは……。
「ずいぶん派手にやらかしたな」
凄腕職人のウー・シャンユーさんだった。
彼はプレイヤーではなくNPCで、レアな装備でも直したり進化させたり出来るすごい人なのだ。
傷ついた風雲装備を直してくれたのもウーさんで、進化させてくれたのもウーさんだ。
この人に風雲装備が直せないと言われた時が、本当の終わりだ。
だから、まだ諦めない……!
「直せますか!?」
「当然! ワシを誰だと思っている?」
「ほ、本当に!?」
「二度も言わせるでないわ。これまで通り必要な素材さえ持ってくれば完璧な姿に修復してやる!」
「よ、良かった……」
首の皮1枚繋がった!
でも、完全に失われた装備を直すってどういう仕組みなんだろ?
今までは傷ついても元の装備が原型を留めていたからな……。
「ではまず、その装備の残骸をこちらに預けてもらおうか」
「装備の……残骸?」
「懐にしまってあるだろう?」
ウーさんはその鍛え上げられた眼力でプレイヤーのアイテムボックスの中を覗くことができる。
つまり、彼が懐にしまってあると言うのなら、覚えがなくてもしまってあるのだ。
「あった……!」
失われた6つの風雲装備の残骸がアイテムボックスの中に眠っていた!
これを元に装備を修理していくということか!
俺はすべてをウーさんに預けた。
「よし! 後は素材を集めるだけだが、残骸からの修復は1から装備を作り上げることに近い! お前さんがこの装備を手に入れ、進化させる過程で様々な苦難を乗り越えてきたように、完全修復までには様々な苦難が立ちはだかることを覚悟してもらわにゃならん! それでもやるか?」
「望むところです!」
「ふっ、ワシとしたことが愚問だったな。よかろう! 必要な素材を記した
ウィンドウに『セルフクエスト』のページが追加される。
このセルフクエストとは、最近実装された新機能のことで、その名の通りプレイヤー側で自由にクエストを作ることが出来る。
例えば作りたい武器があるのに、その素材がいくつか足りなかったとする。
プレイヤーはその足りない素材と数をセルフクエストとして設定することで、素材をゲットする度に残り何個必要かを再計算してくれたり、目標の数だけ素材が集まった時に通知してくれる機能が使えるようになるのだ。
実際、必要なアイテムが5種類とか6種類もあって、それぞれ必要な数まで違うとなれば、覚えているのも一苦労だ。
セルフクエストは一度しっかり設定すれば後は自動で計算してくれるし、通知機能もあるのでいちいちウィンドウを開いて何個集まったかなと確認する必要もない。
これぞ作業の効率化ってやつだ。
さらに場合によっては、この設定すらもNPCがやってくれることもある。
今回がまさにそのパターンで、ウーさんが必要な素材と数を設定したセルフクエストを俺に渡してくれたのだ。
流石は凄腕職人! 気配りが行き届いていて頭が下がる。
これでもう、冒険の準備は整ったというわけだ。
セルフクエストに書かれた素材を確認し、早速集めに……。
「多い……!」
ページを開いた瞬間、めまいがした。
それほどまでに必要な素材の数は多い!
まあ、6つのレア装備を直すのだから、これくらいの苦難は想定の範囲内だ……!
それに求められる数は多いが、種類自体はさほど多くない。
風雲装備はシリーズ装備だから、装備部位が違っても直すために必要な素材の種類は似通っているということか。
やはり素晴らしい装備だ。ますます直したくなった!
「お前さんに1つ助言をやろう……。今の状態で素材を集めようとするな!」
「えっ!?」
「先ほども言ったように、すべての素材を集めるまでには様々な苦難が待ち受けている。それを乗り越えるには、優れた装備が必要になる! 優れた装備を直すのに、優れた装備が必要という身も蓋もない話になるが、それが現実だ」
確かに今の俺は弱い。
装備を失ったことでガクッと下がったステータスも問題だが、それ以上に使い慣れた武器奥義や武器スキルを失ったことが痛い。
【浮雲の群れ】も【風雲一陣】も【ブラックスモッグストリーム】も使えない。
さらには切り札の1つである【天羽矢の大嵐】も使えなくなっている。
攻撃力、機動力の低下は著しい……。
「お前さんは風雲装備以外はロクな装備を持っていないようだな。1つの装備を信じるというのも悪くはないが、真の強者は切り札を2つも3つも準備しているものだ。まずは強力な装備を手に入れ、それから素材集めを始めるといい。遠回りのようだが、それが一番の近道だ!」
「……わかりました」
「すべての素材を集めた暁には、ワシが責任を持って風雲装備を元の姿に戻す! だから、焦らずに物事を進めるのだ」
風雲装備に次ぐ第2の主力装備の入手!
それが今の俺の目標だ。
そして、その先には風雲装備の完全修復という大きな目標がある。
俺はそれらに加えてもう1つ目標を立てた。
それは……あの灼熱の火山の攻略だ!
ただ装備を燃やされて終わりにはしない。
必ずあの地獄のような火山を制覇してみせる!
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