After Data.5 弓おじさん、火の粉を払う
赤く光る柱が天を焦がさんと伸びる。
同時に撒き散らされる煙、岩石!
俺の肌は気温の上昇を伝えているが、果たして装備は……。
「燃え……ない!」
火山の噴火と装備の発火現象に関係はない!
では、あの噴火はただの雰囲気作りの演出なのか?
……いや、そうではなさそうだ。
マグマこそ流れてはこないが、巨大な岩石が上の方から転がってくる!
それも遺跡の罠とかでよく見るまん丸い岩だ!
あの明らかに人の手によって加工されている岩がゴロゴロといくつも……!
「装備が燃えなくて良かったが、あれに潰されたら即死かも……!」
検証は済んだし、【ワープアロー】で一時避難しても構わないが……。
この状況は今回の装備のコンセプトを試す絶好の機会かもしれない。
それに少しくらい危険に立ち向かっておかないと、せっかく長い冒険を経て培った判断力や反射神経が鈍っていく。
「まずはあの岩が砕けるかどうかだ……! ドリル・ショットガンアロー!」
【ショットガンアロー】は武器である『ショットクロスボウR』の武器奥義だ。
これに関してはかつて再生薬の素材を集めに立ち寄った『リボリボ原生林』および『
ショットガンのように拡散する細かい矢を放つこの奥義は、ある程度対象に接近した方が当たる矢の数が増え、威力も高くなる。
しかし、そこは射程を極める俺だ。
矢は拡散することなく遠くまで届くようになっているし、こちらから無理して接近する必要はない。
破壊したい岩石を少し引きつけてから……撃つ!
さらにこの【ショットガンアロー】と融合したスキルは【ドリルアロー改】だ。
岩石属性や機械属性のモンスターに特効を持つドリル系スキルは、フィールドの地面や岩を砕くことも得意としている。
ネココなんかはドリル系スキルを完全に穴を掘るために使っていたし、奥義と融合すれば硬そうな岩石だって砕けるはず……!
「……よし! いける!」
無数のドリルの矢が転がり来る岩石を粉々に砕いた!
これはかなり相性がいいぞ……!
このまま自分に向かって転がってくる岩石をすべて砕いてしまいたいが、残念ながら【ショットガンアロー】は奥義だ。
クールタイムはかなり短い20秒とはいえ、通常の矢と同じ感覚で連射することは出来ない。
今現在、俺は左手に『ショットクロスボウR』、右手にも『ショットクロスボウR』を装備している。
この場合、左手の【ショットガンアロー】と右手の【ショットガンアロー】は別の奥義扱いになり、クールタイムも別々に扱われる。
つまり、2回までなら連射可能だが……それ以降はやはり20秒間待たなければならない。
結構な数の岩が転がってくるし、たったの20秒無抵抗なだけでも運が悪いとぶつかってしまう。
そこで他の装備の出番だ!
「ジェットブラスト!」
胴体装備『ジェットアーマー』の武器スキル【ジェットブラスト】!
これはアーマーの背中に装備されたバックパックから強い風を噴射して飛行するスキルだ。
原理はノルドの使っていた銃から風を噴射するスキル【ブラストショット】と同じだが、向こうは両手に持った銃から風が吹く分、風の方向を制御しやすかった。
こちらは背中から吹く分、真上への飛行は簡単だが、自由自在に方向転換するにはコツがいる。
そして、俺はまだそのコツを掴めていない……!
無理して飛ぼうとせず、地に足つけた状態でダッシュを加速させる装置として使うんだ……!
それでもたまにふわりと浮いて制御がきかなくなることがある。
そんな時には……。
「スパイダースレッド!」
両腕装備の『スパイダーグローブ・ヒロイック』の武器スキル【スパイダースレッド】は、その名の通り腕から粘つくクモの糸を噴射するスキルだ。
噴射された糸は切り離して飛ばすことも出来れば、そのまま腕に繋いでおくことも出来る。
また、繋いだままの糸は引っ込めることも可能だ。
今回は糸を地面にくっつかせ、それを引っ込める力を利用して浮いた俺の体を地面に戻す!
少々荒っぽいが、下手に高いところに行くと燃える可能性があるからな……。
飛行に関してはシビアに制御する必要がある。
そして、そのシビアな制御を可能にするための装備がもう1つある。
それが脚部装備『船乗りのズボン』だ。
パッと見た感じは真っ白なだけの短パンだが、よく見ると左右の腰に鎖に繋がれた
武器スキル【ショットアンカー】を発動することでこの鎖と錨が巨大化し、目標に向けて発射することが可能になる。
錨だけあって硬いものにも食い込み、ガッチリと体をその場に固定することが出来る。
もちろん鎖は伸縮自在で、遠くに錨を撃ち込んだ後に鎖を縮めれば移動に使うことも可能だ。
この左右の腕と左右の腰から放たれる姿勢制御用のスキルのおかげで、まだ慣れないジェット噴射による飛行も怖くはない。
しかし、制御しなければならないものはもう1つ存在する。
それは……スピードだ。
風の噴射で高速ダッシュしていても、時にはスピードを殺さなければ障害物にぶつかってしまうことがある。
そんな時に使うのが、両足装備『ヘッジホッグシューズ』の武器スキル【ニードルスパイク】だ。
効果は名前そのままで、靴底から鋭く頑丈な針を生やす。
本来はこれで敵を攻撃するのだろうけど、俺の場合は地面にぶっ刺してブレーキに使う。
ガリガリと地面を削るから土煙がすごいが、それもなんか雰囲気が出て嫌いじゃない。
また、『スパイダーグローブ・ヒロイック』には2つ目の武器スキル【スパイダーキャッチャー】が存在する。
こちらは物体を手に張り付かせる効果があり、足だけで止まれなかった場合はこちらのスキルもブレーキに使う。
本来は壁に手をくっつけてクモのようにペタペタよじ登るためのスキルなんだろうけど、今回はこういう使い方をする。
この徹底した『速度』の制御こそが、今回の装備のコンセプト『逃げる』を実現する!
というのも、実はこのパッチワーク装備……『速度』の一点に関しては風雲装備に勝っているのだ。
◆ジェットアーマー
種類:胴体<軽鎧> 防御:80 速度:20
武器スキル:【ジェットブラスト】
◆スパイダーグローブ・ヒロイック
種類:両腕<グローブ> 攻撃:20 防御:20 速度:50
武器スキル:【スパイダーキャッチャー】【スパイダースレッド】
◆船乗りのズボン
種類:脚部<ズボン> 防御:35 魔防:40
武器スキル:【ショットアンカー】
◆ヘッジホッグシューズ
種類:両足<シューズ> 速度:100
武器スキル:【ニードルスパイク】
本来、ステータスの『速度』を上げるのは両足装備の役割だが、今回は他の部位も速度の上昇に一役買っている。
『ジェットアーマー』はジェットというだけあって速い感じがするし、スパイダーでヒーローとくればやはり速いイメージがある。
そういった印象でステータスを決めているのがNSOの面白いところだ。
さらに『ヘッジホッグシューズ』に至っては『羊雲渡の足袋』よりも『速度』のステータスが高い。
無論、あちらの武器スキルは【浮雲の群れ】という圧倒的強スキルなので総合性能はあちらの方が上だが、一部分でも上回っているのはすごいことだ。
まあ、ゲーム世界のヘッジホッグ……ハリネズミが遅いわけはないからな。
さて、問題はこの『速度』を生かした逃げ戦法で俺がどこを目指しているかということだ。
実は装備のコンセプトを試すためだけに危険を冒しているわけではない。
もちろん、動画を意識してカッコいいシーンを撮るためだけでもない。
俺は今、山の周りをぐるりと一周しようと思っている。
標高の高いところには入れない。
ならば、低いところを徹底的に探る。
巨大火山ゆえに一周するのも楽ではないが、この装備なら……。
「くっ……! サラマンダーの群れか……」
こんな熱いところにもモンスターは存在する。
体の表面が常に燃えているトカゲのような見た目をした『ファイアサラマンダー』は、耐久面こそ非常に脆いが、攻撃力はかなりのものだ。
油断すると普通に装備を丸焦げにされるからこそ……逃げる!
のんびりした奴らなので、素早く隣を素通りすれば追ってはこない。
たまにしつこい個体もいるが、その時は『オクトパスマスク』の武器スキル【ブラックバブル】を使う。
このスキルを発動するとマスクの表面がパカッと開き、タコの漏斗……墨を吐く部分のような筒状のものがにゅっと伸びてくる。
そこから放たれる黒い泡は何かにぶつかるとパンッと派手な音を立てて割れ、黒い液体を周囲にまき散らす。
モンスターはこの液体が嫌いなようで、体に付着するとそちらに意識が移る。
別に毒というわけではないのでダメージは入らないが、時間稼ぎにはもってこいの効果だ。
また、このスキルは攻撃力がないのにも関わらず妙に判定が強く、弱めのモンスターのスキルならば相殺することが出来るという謎の仕様が存在する。
ゆえに牽制、妨害、相殺の3つの役割を1つでこなす強スキルになっているのだが、その代わりマスクに息を吹きかけている間しか発動しないという制限がある。
そう、あの決勝戦で戦った
息を吹くという制限があるからこそ、性能が底上げされている……。
自分で使ってみてわかったが、息を意識して吹き続けるのはしんどい!
それを走りながらやろうとすれば、もう速攻で息が切れる……!
これは俺にとって大問題だ……!
弓で敵を狙う時は、呼吸を整える必要がある。
多少乱れる程度なら問題はないが、肩で息をするレベルだと狙いが定まらない。
今回はクールタイムの短さゆえに気軽に使えて、狙いが多少雑でも当てられる【ショットガンアロー】があるから何とかなっているが、普段の弓と【ブラックバブル】の相性はあまり良くなさそうだ……。
とまあ、多少想定と異なる点もあったが、この間に合わせのパッチワーク装備は『逃げる』というコンセプトを実現してくれた。
おかげで山頂から岩が転がり、普段のフィールドよりも強いモンスターが生息する火山を驚くべきスピードで駆け抜けることが出来た。
しかし、まだ火山攻略のヒントになりそうな物は見つけられていない。
ここからはちょうど今まで見えていなかった火山の裏側に入る。
そこで何か見つかるといいが……。
そう思っていた俺の目に映ったのは、驚くべき光景だった。
火山の後ろに隠れるようにして存在していたのは……雪山!
まるで双子の山のように形はそっくりだが、それ以外はまるで違う……!
一方は火を噴き、もう一方は吹雪いている。
リアルでは決してあり得ない自然環境が、目の前に広がっている!
「紅蓮と白雪の双子山……か」
謎は2倍、手間も2倍、でもワクワクは何倍にも膨れ上がった……!
この2つの山には何かすごい物が眠っている気がする!
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