紅蓮白雪の章
After Data.1 弓おじさん、あらためて
少し前に会社を退職した俺は、プロゲーマーになった。
このご時世には珍しいレトロな雰囲気のゲームを作る仕事から、最新のゲームを遊んでお金を稼ぐ仕事へ……。
これを大きな変化と言うことも出来れば、何の変化もないと言うことも出来る。
そう、俺の人生とは……結局ゲームなのだ!
世はまさに大VR時代!
無数のゲーム会社が立ち並び、みんながみんなVRゲームを作っている。
それはつまり、みんながみんなVRゲームを遊んでいるということだ。
プロゲーマーとは、その『みんな』の中で突出した存在でなければならない。
自分にしかできない個性的なプレイングで人々を魅了できる者だけが生き残り、没個性な者はすぐに人々の記憶から消えゆく……。
代わりなどいくらでもいる弱肉強食の世界。
大VR時代において、プロゲーマーなどありきたりな職業なのだ……!
んー、ちょっと言い過ぎたかも……。
まあ、そんな世界で俺は今のところ忘れられていないようだ。
今となっては結構な人気作に成長したVRMMORPG『Next Stage Online』で開かれた『第1回NSO最強パーティ決定戦』。
そこで俺たちのパーティは優勝を果たし、1か月とちょっとが経過していた。
流石に興奮は冷めたが、今でもあの戦いは人々の記憶に刻まれている。
だから、俺の存在もまだ忘れられていないのだ。
そう、まだ……な。
動画投稿はぼちぼちといったところだ。
情報が高速化した世の中で、話題の人になってから初めての動画を投稿するまでに1か月を要したのは痛いロスではあるが、動画の評判自体は上々なので俺は満足している。
NSOにはプレイヤーの冒険を自動で録画する機能があり、そこから気に入ったシーンをダウンロードすることが出来る。
しかも、同じシーンでも一人称視点、三人称視点、遠巻き、俯瞰などなど複数の視点が選べるという優れものだ。
こんなサービスが無料で使え……るというわけではなかった。
どうやら、大量の録画データの保存やすべての視点を使用するには、通常の月額課金だけでは足りず追加の料金がかかるらしい。
では、なぜ俺はその機能を使えているのか?
答えは簡単。最初にこのコースを選択してしまっていたからだ。
説明をよく読まず『データの保存も安心!』『ゲーマー活動をお助け!』などの断片的な文章に惹かれて俺は『プレミアムパーフェクトプロコース』を選択し、ここまでゲームを遊んできたのだ。
よく読めば『録画データの保存も安心!』と書いてあるし、『動画投稿などのプロゲーマー活動をお助け!』とも書いてある。
逆にプロゲーマー活動をサポートする以外の特典はない。
このコースで多めに運営にお金を払うからといってレベルが上がりやすくなったりはしないし、レアな装備も手に入らない。
もし、動画投稿をしないというのならば、このコースに払うお金はまったくの無駄になる。
今回に関しては怪我の功名というか、ミスでもこのコースを選んでくれてありがとう過去の俺って流れにはなったが、これからは説明文はちゃんと読むことを心がけよう。
そういえば、前も文章をよく読もうって思う出来事があった気がするが、それからよく読むようになったかというと……。
いや、これからだ! これから頑張ろう!
さて、過去の冒険の録画という強力な武器を手に入れた俺は、今のところ動画のネタには困っていない。
無言が多いので少し字幕を入れて、グダグダしてる部分をカットすれば、それなりに見れる動画の完成だ。
昔の自分の姿を見るのは少し恥ずかしいが、同時に懐かしくもある。
めんどくさかった編集作業も最近は楽しくなってきた。
しかし、過去の冒険にばかり頼っているわけにはいかない。
やはり、リスナーとしてはあの最強パーティ決定戦を勝ち抜き、優勝したキュージィのその後が見たいのだ。
過去は過去でしかなく、プレイングも未熟で派手なシーンも少ない。
必要なのは『今』なのだ……!
だが、今の俺だからといって最強パーティ決定戦の時のような動きが出来るかというと……出来ない。
最初は動画編集の試行錯誤に時間を費やした結果ゲームをプレイする時間が減り、プレイングが劣化したのだと思った。
それは違った。真実はまったくの真逆。
あの時の俺が普段より強くなっていたのだ。
つまり、マココやノルドのような格上のプレイヤーと対峙することにより、俺自身の限界を超える力を引き出されていたということ!
短距離走などでは自分より足の速い人と並走することにより、タイムが縮むという話を聞いたことがある。
その現象が俺にも起こったんだ。
強敵と戦うことで強くなった俺を取り戻すには、まだ見ぬ強敵と出会うほかない。
しかし、フィールドやダンジョンにいるボスモンスター程度では割とあっさり倒せてしまう。
何というか……盛り上がらない。
だから俺は過去の冒険の録画に頼っているのだ。
打開策は……見つからない。
強敵といえば風雲竜に代表されるドラゴンたちだが、彼らに出会うには運が絡む。
実際、俺は最近そういう超レアモンスターに出会っていない。
運が悪いというより、これまでの運が良すぎたんだろうなぁ……。
くぅ! 強敵が見つからないのならば、他の方法で面白いことを探さねばならない!
プロなのだから、ワクワクが向こうから来てくれることを祈っているようではダメだ!
……と、毎回ここまでは前向きなのだが、ここから先に進めない。
正直、動画とか関係なくゲームを楽しむ1人のプレイヤーとして、何か具体的な目標が欲しい。
そう、心が燃えるような熱い冒険が……。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………ッ!!
「おっ、また火山か……」
北の果てで火山が噴火する。
今日も初期街から結構流されてしまったようだ。
というのも、俺は最近雲に乗って考え事をするのにハマっている。
今も雲に寝そべっていて、ボーッと空を眺めていた。
そして、気がつくといつもどこかに流されている。
今回は北だ。
北には険しい山脈が広がっていて、その中に定期的に噴火する活火山がある。
噴火と同時に熱風が吹くので、俺たちはこのままジッとしていれば、また南へと押し戻されることになる。
初期街には何もせずに帰れそうだな……。
「それにしても毎回熱いなぁ、この熱風は……。体が燃えてしまいそうだ……ん? 燃える……?」
心が燃えないなら、燃えてる場所に行けばいいじゃないか……?
少なくとも火山に行けば燃えるような冒険が出来ること間違いなしだ!
心以外も燃えそうだけど……。
「風雲一陣! 熱風に逆らって雲を押し流す!」
今乗っている雲は【浮雲の群れ】で生み出したものではなく、自然の雲だ。
5分で消えることはないが、風で形が崩れやすい。
やっぱり、乗りなれた雲に頼ろうか。
「浮雲の群れ! さあ、火山に乗り込むぞ!」
「ガァー! ガァー!」
ノリで火山に乗り込まんとする俺とガー坊。
ここから新たな冒険が始まる……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます