Data.195 弓おじさん、戦場を駆ける
……で、誰から倒そうか?
俺としては動きが鈍くて脆いタイプが一番相手をしやすいが、相手パーティの中でその条件に当てはまりそうなのは眼鏡の魔女っ娘スイーパーのみだ。
彼女は飛び道具反射スキルを持っている以外は本当に相性が良い。
同じ後衛職同士が戦う時ほど射程の長さが物を言う機会はないからな。
ただ、彼女の方も素人ではない。
俺に狙われた後はサトミと戦う場所を少しずらし、大きな建物の陰に入ってしまった。
これでは狙うのは難しい。
では、アンヌの方はどうか?
彼女は今、フィールドに存在する教会前の広場で黒衣の僧侶『クラッシャー』とバトルを繰り広げている。
僧侶の武器はトゲ付きのメイス。しかも二刀流!
太鼓でも叩くかのようにボンボン振り回し、アンヌの星球と力比べをしている。
パワーキャラのようでありながら、そこそこのスピードを持ち合わせており、隙あらばアンヌの懐に潜り込もうとしてくる。
その際に増毛、植毛などなどの技術が発達した現代では意図的にそうしない限りなかなかお目にかかることが出来ないツルツルの坊主頭を発光させて目くらましをするのが……またどこか強者感を演出している。
オンラインゲームでキャラにおふざけ要素を入れる人って玄人のイメージがあるからな……。
おっと、光り輝く頭に目を奪われている場合ではない。
彼を倒すためにアンヌをサポートするかどうかだが……やめておこう。
クラッシャーは相手パーティの中でも一番の手練れに見える。
俺が意識を向ける前から、彼は常に俺に意識を向けていた。
今もこちらの動きを探るべく、ちらちらと視線を向けている。
彼を相手にするなら、もう少し余裕のある状況が良い。
中途半端に手を出すと、アンヌの戦いのリズムを崩してしまう可能性もあるからな。
ということで狙うべき敵は……ネココと戦っているショーテール使いの盗賊スラッシャーだ!
彼はネココとの戦いですでに余裕がない。
バックラーの襲撃を受けたことで俺の矢が飛んでこなくなって心底ホッととしているような顔だ。
申し訳ないが、援護を再開させてもらう!
「ガトリング・ウェブクラウドアロー!」
下手な攻撃を当ててちょっとのダメージを与えるなら、ネバネバの網で動きを止めてネココにトドメを任せる方が良い。
スラッシャーは『またかよ~』という表情で逃げに徹し始めた。
だが、それを許すネココではない。
的確に敵の移動したい方向に先回りし、俺が狙いやすい位置に追い込んでくれる。
いい動きだ……!
ここにきてネココの動きはさらに冴えわたっている!
「そろそろトドメだ! 封魔縛陣!」
グロウカード〈破魔弓術・四印〉が持つスキル【封魔縛陣】は矢が刺さった場所に正三角形の魔方陣を地面に展開し、その中に入った敵を拘束する効果を持っている。
【ウェブクラウドアロー】は敵に直接ヒットしなければその粘着力を発揮しないが、このスキルはしばらくの間設置しておける。
つまり、設置した後から敵をその中へと追い込めばいいのだ。
追い込みさえすれば、たとえどんな強敵でもわずかに行動不能となる。
ネココがトドメをさすには十分……!
ドゴォォォォォォォォォォォォッ!!!
「なんだっ!?」
城の屋根を突き破って、中から何かが飛んできた!
まあ敵のうち3人の位置は把握しているのだから、犯人は1人しかいないのだが……!
「相変わらず柔軟な発想だな弓使いよ! 落とし穴のような古典的な罠であしらわれるとは思わなんだぞ! だが、俺の追跡を振り切るにはまだまだ!」
「くっ……!」
バックラーが文字通り跳んできた……!
おそらく盾の物をバウンドさせるスキルを自分に使ったんだ。
陣取りの時はそういう挙動をしなかったあたり、バウンド効果もあの時から進化しているのだろう。
さて、逃走の時間だ!
「確かにあなたを振り切るのは難しい! しかし、こっちだってそう簡単には捕まらない!」
【浮雲の群れ】を2回使って城から城下町へと移動する。
これでこの試合中に【浮雲の群れ】は使えなくなったが、まだ【ワープアロー】や【アイムアロー】が残っている。
移動に使える奥義の使いどころは考えないとな……!
「やはり、雲の上は追ってこれないか」
バックラーは再び転がるスキルを使って地上から俺を追ってくる。
雲の足場はそれほど大きくはないし、何より慣れてないと自由自在に動けない。
この雲と風雲竜の頃からの付き合いだからこそ、俺は普通に動けるんだ。
さあ、無事城下町に着いた。
屋根の上から再びみんなの援護を……。
「さっきはよくも乙女の柔肌を撃ちぬいてくれたわね、おっさん!」
路地裏から飛び出してきたのは、銃に翼をくっつけたような奇怪なホウキに乗る魔女っ娘スイーパーだった!
「ガンシップ・ブルーム! ハチの巣になれや!」
まずい!
この風変わりな効果はミラクルエフェクトの可能性が高い……!
受け止めるにはこちらもミラクルエフェクトを使うのが無難だが、移動系奥義で逃げるという手も……いや!
「
マッドスライムCORE戦で見た空飛ぶ雲に乗ったサトミとゴチュウが妨害に入る!
マシンガンのように撃ちだされた燃え盛る種が【ガンシップ・ブルーム】にヒット!
その衝撃で照準がずれたことにより、発射された極太のビームが俺に当たることはなかった。
そして、これは攻撃のチャンスでもある!
「
耐久面に難がある後衛職がこの奥義をモロに食らえば無事では済まない!
しかも、相手は体勢を崩している。
飛び去って逃げることも出来ないはず……!
だが、スイーパーの反応は予想外のものだった!
「来た……っ! ブルーム・ストーム!」
なんと、スイーパーは体勢を崩した状態から高速回転を始め、大きな旋風を巻き起こした!
矢はその旋風に飲み込まれ消滅することはなかったが、軌道を大きく変えられ俺の背後へと飛んでいく。
さっきのように俺に向かって撃ち返されていたら危なかったが、これならまだこの攻撃が終わった後の隙を別の攻撃で狙える……!
「いやっ、違う!? 狙いは……!」
俺を追いかけてくるバックラーに俺の矢を流すことだったんだ……!
飛んでいく向きを変えられようとこれは俺の矢だ。
【パリィワープ】を使えば、俺の隣にワープできるはず!
スイーパーは最初からこれを狙って……いや、おそらく最初の一撃も本命と言えば本命だったのだろう。
あのビームで俺を仕留められれば良し、ダメでも次の攻撃を準備をしてある……。
やはり『
だが、まだだ!
「ワープアロー!」
俺はある場所めがけて矢を飛ばした。
すると、バックラーは矢に対して【パリィワープ】を発動せず、普通にガードした。
いくら防御力に自信があると言っても【
多少のダメージは入る。しかし、致命傷には至らない。
回復アイテムを使っていくらでもリカバーできる。
が、まずは一矢報いさせてもらった。
「ハッハッハッ! そんなところにワープされては、ワープできんではないか!」
バックラーは笑う。
こっちとしてはギリギリの思い付きだったから、もうちょっとうろたえてほしいんだけど……まあいい。
俺は今、フィールドにある教会の鋭く尖った三角屋根のてっぺんに立つ十字架の上に乗っている!
要するに非常に小さい足場の上にいるんだ。
隣に誰かが立つスペースなどない。
ワープして来ようものなら、すぐさま重力に捕まって落下する。
もちろん俺はその隙を逃さないし、場合によっては下で戦っているアンヌからも攻撃を受ける。
いくらバックラーでもそれは御免だろう。
「だが、城から引き離し、使わせたぞ……ワープアロー!」
……痛いところを突いてくる。
戦況はまだどちらにも傾いてはいない、ということだ。
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