Data.194 弓おじさん、我流のプロ

「援護するぞ、みんな!」


 まず狙いをつけたのはサトミと戦っている眼鏡の魔女っ娘『スイーパー』だ。

 武器はホウキだが、戦い方としてはオーソドックスな後衛魔法職タイプ。

 様々な属性のボールをぶん投げてサトミとゴチュウを攻撃している。

 俺は彼女の頭めがけて矢を放つ……!


 キリリリリ……シュッ!


 少し狙いがずれて魔女っ娘の肩に矢が刺さる。

 流石にこの距離で動く敵相手にヘッドショットは運が絡む。

 が、援護としては十分。

 敵は急に飛んできた矢に驚くが、サトミは矢が飛んで来たら俺の援護だとすぐわかる。

 その差が攻撃をヒットさせる隙を生む……!


 押され気味だったサトミが盛り返し、どんどん攻撃を加えていく。

 サトミも飛び道具メインのプレイヤーだから、敵との距離は常に一定以上に保たれている。

 これならさらに援護してもサトミを誤射することはないだろう。

 どんどん矢を撃って、あわよくばこの段階で1人脱落させてしまえれば……!


 その時、魔女っ娘がキッとこちらをにらみつけた。

 ずっと同じ方向から撃っているから俺の位置は当然バレているわけだが、急ににらまれると遠くにいてもビックリする。

 だが、今日の俺は非情だ。攻撃の手は緩めない……!


「うおりゃあああああああああ!!!」


 突如巨大化したホウキがブンと振り回され、魔女っ娘に殺到していた飛び道具がすべてはじき返された……!

 俺の放った矢ももちろん打ち返され、体の少し横をビュンビュンと飛んでいった。

 あ、危なかった……!

 ずれた位置に飛んだから良かったものの、これがもしピッチャー返しのバッティングだったら撃ち抜かれていただろう。

 あのバットのようにホウキを振るスキルの効果か、打ち返された飛び道具は威力とスピードが増しているように見えたからな……。


 そうだ、サトミの方は……。

 よし、無事どころかさっきのスイングの隙をついて魔女っ娘の懐に潜り込み、ゴチュウとのコンビネーションで格闘戦を繰り広げている。

 敵と味方が近すぎると誤射する確率が上がる。

 サトミの援護はこのくらいにして、他の仲間の援護をしよう。


「……あまり動きがない」


 バックラーは屋根の上をえっほえっほと歩いている。

 遅い。やはり遅いのだ。

 しかし、バックラーともあろう男が俺への対策をたった1つのスキルに任せたりするだろうか?

 絶対にまだ何か隠している気がする……。

 おそらく、俺が他への援護に必死になってバックラーの存在を忘れかけた時に仕掛けてくる。

 今はまだ気にしなくていいが、彼の存在を忘れてはならない。

 肝に銘じておこう……!


「あとこの位置から狙えるのは……。ネココのところか」


 ネココはショーテールという刃が大きく湾曲した特殊な剣を両手に携えたスピードタイプの盗賊『スラッシャー』と戦っている。

 一見接近戦を得意にしているように見えて、実際は剣から斬撃を飛ばす中距離攻撃が得意なプレイヤーのようだ。

 ネココもまた斬撃を飛ばして攻撃するスキル奥義を持っているが、どちらかと言えば接近戦、それも不意打ちが得意なタイプだ。


 このスタイルが似てるようで似てないところが、戦いに妙な噛み合わなさを生み出している。

 ネココ自身それを感じているようで、敵に接近しては急所を狙えないまま撤退を繰り返している。

 これは援護が必要だな……!


 ネココとスラッシャーの距離が離れたところを見計らって矢をどんどん撃ち込む。

 パーティで一番付き合いが長いネココは、矢が飛んできた時点で俺が援護しやすいように動きを変える。

 無理して敵に接近することをやめ、俺の射撃で出来た隙を突くことに集中しているのだ。

 この動きなら誤射する確率はグンと下がる。


「流石だな……!」


 スラッシャーには飛び道具を反射するスキルはないようだ。

 ならばこのままネココとのコンビネーションで倒しきれる……!


「あっ……」


 直感。

 何かから予想したとかそういうわけではなく、直感的に脳裏に浮かび上がる感覚……。

 そうだ。俺は今一瞬、バックラーの存在を忘れた……!

 すぐに居場所を確認すべく屋根の上に目を向けると、すでに彼の姿はそこになかった。

 代わりに何か重い物と重い物がぶつかる音、壊れる音、踏みしめる音が下の方から聞こえてきた。


 城の上から地上を見下ろすと、巨大な金属の球体がこちらに向かって転がって来ているのが見えた。

 これも直感で確証はないが、何となく自信がある……。

 あの球体がバックラーだ!


 確かに重量級のキャラクターがスピードを出すために丸まって転がってくることはマンガやゲームでありがちだけど、本当にそれをやってくるところはまさに正道ストレイト

 だが、それで垂直にそびえたつお城の壁を登ってこられるかな?

 ……来そうだな。


 しばらくしてお城までたどり着いたバックラーは、俺の予想通りそのまま回転しながら垂直の壁を登り始めた。

 物理法則もあったもんじゃないな……なんて言ってられない。

 これはゲームなんだから、物理法則くらい平然と無視してくれないと困る。


 しかし、そのゲームを遊ぶのは日常をリアルで過ごす人間であり、作っているのもまた同じ人間だ。

 あまりリアルの常識を変えてしまっても遊びにくくなるだけだし、誰も得しない。

 だから、スキルや奥義の効果が及ばない範囲では、このゲームもリアルに寄せて作ってある。

 例えば重量とか……な。


「来たぞ弓使い! さあ、年貢の納め時……ぬっ!? ぬああああああああああああッ!!!」


 俺は屋根の上に落とし穴を作っておいた!

 といっても、【ドリルアロー改】と【ビッグアロー】を融合させた【巨大螺旋の矢ビッグドリルアロー】で城の屋根の一部に穴を開けただけだ。

 フィールドの建造物を破壊できるのは、今までの戦いでわかっていたからな。


 バックラーの球体の効果はおそらく重力を無視するわけではなく、物に当たった際それを壊すか、乗り越えるかを選べるというものだろう。

 だから、穴に対しては無力。

 重力に逆らえず、ただ落ちていくだけだ。


 これで一旦は時間を稼いだが、城の中にバックラーを入れてしまったのは事実。

 あっと驚く方法でここまで登って来るかもしれないし、おちおち屋根の上から仲間の援護とはいかないかもしれない。

 だが、ここが最高の狙撃ポイントであることも事実……。


「賭けてみるか……!」


 ここに出来る限りとどまって、今のうちに仲間との連携で敵の数を減らす!

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