Data.193 弓おじさん、再戦の騎士団

 脱落者が増え、残りチームが少なくなってもトーナメントは淡々と続く。

 この『淡々と』という感想は、おそらく残ったプレイヤーにしかわからない感覚だろう。

 観客からすれば、どんどん決勝が近づき盛り上がりも最高潮だ。

 でも、こちらからすれば決勝に近づけば近づくほど緊張が増すのに、次の試合までの休憩時間は短くなる一方だ。


 それでも、試合は勝手に進んでいく。

 そう、淡々と……。


『本選トーナメント準々決勝第3試合! 『正道騎士団ストレイトナイツ』VS『幽霊組合ゴーストギルド』! 選ばれたフィールドは……王国の城下町!』


 モニターに映し出されたのはザ・ファンタジーな街並みだった。

 言ってしまえば初期街に近いが、あそこには立派なお城はないし、建物も少し地味だ。

 王国の中でも第2、第3の都市といった感じだな。


 それに対してこちらは栄華を誇る王国の首都……王都だ。

 幅の広いメインストリートもあれば、薄暗い路地裏も存在する。

 建物が密集しているから、屋根の上を飛び回るなんてリアルでやったら捕まりそうなことも可能だ。


 俺としてやっぱりこのマップで一番見晴らしが良いであろうお城のてっぺんに陣取って城下に広がる街を見下ろしたいものだが、果たして敵がそんな見え透いた行動を許すかどうか……。

 そこはもう、やってみてからのお楽しみだ。

 アーカイブを見て敵パーティのリサーチはした。

 やるだけやったら後は流れに身を任せるのみ……!


『両パーティをバトルフィールドへ!』


 幽霊組合ゴーストギルドは王都の城下町へワープした。




 ◆ ◆ ◆




 ワープ後、まず目に入ったのは……遠くにそびえたつ大きなお城だった。

 現在地は王城へと延びるメインストリートのど真ん中。

 つまり、一番目立ちやすい場所だ……!

 しかも、今回はあたりを見渡しても仲間が見つからない。

 これはバラバラにワープしたパターンか……!


「なんにせよ、ここで考え事はまずいな」


 バラバラワープパターンだといきなり王城にワープするには怖い。

 すでに敵がいる可能性がある。

 とりあえず、建物の屋根の上に登ろう。

 流石に【ワープアロー】を使うのはもったいないから、あのぜひとも足場にしてくださいと言いたげに積まれた木箱を使わせてもらおう。


「近くで見ると案外デカい箱だな……。うんっ……しょ! はぁ……ういいっ!」


 ゲームの主人公たちはボタン1つ、あるいはスティックを傾けるだけで高い段差もよじ登ってくれるが、VRゲームだと自分が主人公だから簡単にはいかないな……!

 やっとの思いで詰まれた木箱の一番上まで登り、ぴょんと屋根に飛び移った。

 木箱と屋根の距離が遠くなかったのが救いだ……!


 さて、見た感じこのフィールドは前回のジャンボアスレチックパークほど広くはなさそうだ。

 それだけ敵と遭遇しやすいはずなのだが、まだ戦闘の音は聞こえてこない。

 まだ全員会敵していないだけなのか、見つけた敵を確実に仕留められる隙をうかがっているのか……。


「見つけたぞ弓使い! ここであったが百年目……とでも言わせてもらおうか!」


「……っ!? バックラーか!」


 メインストリートに仁王立ちしているのは間違いなくバックラーだ!

 装備こそあの頃とは違っているが、分厚い鎧に包まれた巨体に大きな盾と小さな盾の『盾二刀流』という奇抜なスタイルは変わっていない。

 彼こそが『正道騎士団ストレイトナイツ』のメイン盾、『重装鎧兵ヘビーアーマー』のバックラー……!


「あれからお互いいろいろあっただろうが、言葉は必要ない。ただ、戦いさえすればすべてが理解できる!」


「ああ、その通り……!」


 どうする、どう戦う……!

 前回は防具をすべて脱いだ状態のバックラーに【裂空】を撃ち込むことで倒したが、今回は絶対に防具を脱いではくれないだろう。

 ガチガチに装備を着込んだ状態のバックラーに俺の矢が通じるのか……!?


「物は試しだ……!」


 バックラーとの距離は十分ある。

 試しに素の状態の矢を撃ち込んでみよう。

 効かないとは思うが、何かわずかでも攻略の糸口を見いだせれば……!


 キリリリリ……シュッ! パリィッ!


 なんだ? 何かが割れるような高い音がした。

 それに青く光るエフェクトがバックラーから……。


「不用意だな、弓使い……! ウルトラバウンド!」


 その声は真横から聞こえてきた。

 驚く間もなく俺は殴られ……勢いよく吹っ飛んだ!


「ぐっ……!? な、なにが……!」


 とにかくこのままじゃマズイ!

 飛んだ方向と勢い的に……城の外壁にぶつかるぞ!


「ま、舞風!」


 舞風には重量を軽減する効果がある……!

 これで衝突の衝撃は少し和らぐが、衝突自体は回避できない!

 【風雲一陣】や【浮雲の群れ】を使いたいが、吹っ飛びながら上手く方向や位置を調整するのは難しい!


 結果、俺はそのまま城壁に背中から衝突した。

 一旦石造りの壁にめり込み、バトルマンガみたいだ……なんて思いながら地面に落下する。


「浮雲の群れ!」


 空中に足場を作り、何とか落下ダメージは回避する。

 HPゲージは……半分持っていかれたか。

 【舞風】の効果がなかったら危なかった……。

 アイテムでHPを回復しつつ、バックラーの位置を確認する。


 ……やはり、彼はワープしている!

 俺が立っていた屋根の上まで彼は一瞬でワープしたのだ!

 そして、そのワープの条件はおそらく……敵の攻撃をタイミングよくガードすること。

 あの『パリィッ!』という音と青い光のエフェクトは、その条件を満たしたという合図なんだ。


「最悪の組み合わせだなぁ……」


 バックラーの弱点は重い装備のせいで失われた機動力だった。

 なかなか接近してこないからこそ、陣取りでも落ち着いて対応することが出来た。

 しかし今は攻撃をトリガーに一瞬で距離を詰めてくる。

 これじゃあ、いろんな攻撃を試しながら攻略の糸口を探すことも出来ない……!


 ただ、あのワープは絶対成功するわけじゃないはずだ。

 ああいうタイミングよくアクションを求められる技は、どんなに練習したって失敗することもある。

 問題はバックラーの防御力ならば失敗して攻撃を食らったところで大した問題じゃないことだ。


 防御力を求めたゆえに失った機動力を補い、失敗するデメリットを防御力によって打ち消す。

 これぞまさに鬼に金棒……!


「どうした弓使い! 撃ってこんのか!」


 遠くにいるというのにバックラーの声がハッキリ聞こえてくる。

 陣取りの時も思ったけど、よく声が通るよなぁ……。

 彼が【死亡フラッグ】の持ち主じゃなくて本当に良かった。


「お前さんの長射程に対抗するために身に着けた【パリィワープ】はよーく効くだろう? ワープする距離が長くなればなるほど攻撃をはじくタイミングはシビアになるが、そんなもの俺には関係ない! 修練に修練を重ね、どんな距離の攻撃だろうと対応できるようにしたのだ! これぞプレイングスキルの賜物よ!」


 どうやら、失敗に期待して攻撃するのは無謀のようだな。

 さあ、そうなると俺にとれる選択肢は限られてくる。


「俺はお前さんが2回戦で戦った相手のように、わざわざ1対1の対決を事前に申し込んだりはせん。戦いたい相手は自力で捕らえ、決して逃がさん! 自らの望む状況は自らの力で作り出す! それがプロだ!」


 自らの望む状況は自らの力で作り出す……か。

 いい言葉だ、俺も見習うとしよう!

 バックラーを無視し、【浮雲の群れ】を再度発動。

 螺旋階段状に並べた雲を登って、俺は城の上に陣取った!


「覚悟は決まったか、弓使い! さあ、どんどん撃ってくるがいい!」


「ああ! どんどん撃たせてもらうさ!」


 俺は弓を引き絞り……遠方で戦い始めたバックラーの仲間を撃ちぬいた!


「な、なにぃ!?」


 バックラーは目を見開く。

 簡単な話だ。目の前にいる敵は攻撃が効かないだけではなく、攻撃するとワープして殴りかかってくる……。

 ならば、無視して倒せる敵から倒す!

 これがプロの戦い方だ!

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