Data.192 弓おじさん、紙一重

 チャリンのアナウンス後、すぐさま俺は待機場所にワープした。

 試合結果は1対0。まさに紙一重の勝利だった。


「キュージィ様~! ご無事で何よりです~!」


 先に待機場所に戻ってきていたアンヌが飛びついてきた。

 女性に飛びつかれるのは悪い気はしないのだが、彼女の方がパワーも重量もあるので危うく地面に倒れそうになる。


「お見事でしたキュージィさん。僕は見守ることしかできませんでしたが……」


 サトミが申し訳なさそうに言う。

 彼は開幕【死亡フラッグ】に選ばれて即死してしまったからなぁ……。

 もちろん、俺はそんなこと気にしていない。

 あの段階の【死亡フラッグ】は完全に運だからな……!


「死亡フラッグは仕方ないさ。誰が選ばれても即死していただろうし、あんな奇策を予想しろなんて方が無理だ。なんてったって向こうのパーティもハタケさん以外詳しい効果を知らされていなかったんだからね……」


 言葉にしてみると、よりそのめちゃくちゃさがわかるな……。

 勝てはしたが、今回もハタケさんに振り回されたことは確かのようだ。


「今回もおじさんに頼る形になっちゃったなぁ……。チャリン戦の時といい、どうしてもキルされやすいのよねぇ……」


 ネココも少し不満顔だ。

 彼女は今回、敵の中でもベテランプレイヤーだったシンバを倒し、ペッタさんの撃破もアシストした。

 さらにはハタケさんの足止めまでしてくれたし、俺としては言うことなしの大活躍だったんだが……。

 まあ、勝負が決まる前にキルされて、見守ることしか出来なくなると反省ばかり思い浮かぶのは理解できる。


 でも、俺が最後まで生き残るということは、パーティが正常に機能しているということだ。

 後衛かつ敵から攻撃を受けないことをコンセプトにしている俺が真っ先にキルされるということは、前衛が完全に崩壊していることを意味する。

 そうではないからこそ、チャリン戦でも今回のパラダイスパレード戦でも俺が最後まで生き残った。

 みんなのおかげで生き残ったからこそ、俺には試合を決める義務がある。


 「俺はみんなが守ってくれるから生き残れてるだけさ。1人じゃ大したことなんて出来ない。前で戦ってくれる人がいるから活躍できるんだ」


 ソロで強敵に挑む大変さは身に染みてるからなぁ……。

 ガー坊が仲間になる前の風雲竜戦なんかは本当に無茶な戦い方をしていた。

 まあ、それが楽しかったりするんだが……な。


「とりあえず、今このパーティは完璧に機能してるってことさ。この調子でいこう。さて、次のパーティは……」


「やあやあ、おじさま! ボクが来たよ! お互いの健闘を称えあおうじゃないか!」


 ハタケさんがやって来た。

 他のパーティメンバーはついてきていないようだが……。


「ボクだけで来たよ。トーナメントが進むごとに次の試合までの待ち時間は短くなるからね。あまり長く話すつもりはないよ。というか、そもそも何を話そうか考えていなかったり……」


 では、なぜ来たんだ……というツッコミは一旦飲み込んで、ハタケさんの次の言葉を待つ。


「僕はおじさまに運以外勝てるところがないって言ったけど、仲間たちからはもっと自信を持てと言われたよ。いい勝負をしたんだからお前は十分強いってさ。確かにそれはそうなのかもしれないね」


「私もそう思います。ハタケさんは強いです。それこそ恐ろしいと思うくらいに……!」


「そうかい? まあ、おじさまがそう言うならそうかもしれないね。じゃあ、これからは自分に自信をもって……なーんて、できる気がしない! 僕のことさ、きっとご飯食べて寝たら忘れるよ! でもそれでいいんじゃないかな? だって、おじさまと良い勝負をしたボクはいつものボクさ! いつも通り普通に戦えば、次は勝てそうな気がする……! 今回は張り切りすぎてしまったからね!」


「ええ、普段通りのハタケさんが一番強いと思います」


「やはりそうか……! おじさまにそう言ってもらえてスッキリしたよ! じゃ、ボクはそろそろおいとまさせてもらうよ! これからの試合、応援しているからね! それで次の相手は……ああ、そうだったね。ボクがおじさまの才能を見抜いた最初の1人ならば、彼は2人目さ。まあどちらかと言えば、才能を見せつけられたという表現の方があっているかもしれないけど!」


 準々決勝の相手は……バックラー有する『正道騎士団ストレイトナイツ』!

 ハタケさんの次に彼と戦うことになるとは……運命を感じる。

 いや、それは違うか。彼の実力ならば、確実にトーナメントを上がってきたはず。

 衝突するのは運命ではなく必然だったのだ。


「もちろん把握してると思うけど、彼は以前とは比べ物にならないほど強くなってるよ。それこそ、ボクだったら逃げ出しちゃいそうなくらいに!」


 それは『そもそも前も逃げ出してるよね!』と俺に突っ込んでほしいのか……!

 結構ツッコむ側に勇気がいるフリだぞ……!


「まあでも、強くなっているのはおじさまも同じだよ! きっとあの時のように返り討ちに出来るはずさ!」


 普通に会話が続いた!

 フリでもなんでもなく天然か!

 あいかわらず、とんでもない人だ……。


 き、気を取り直して……。

 バックラーが強敵であることは紛れもない事実だ。

 陣取りの時は返り討ちに出来たといっても、あれは陣取り特有のシステムにかなり助けられた。

 純粋な実力では負けていたと言ってもいい。


 だが、今は……果たしてどうかな?

 その答えはすぐに出るだろう。

 再戦の時は……近い!

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