Data.180 異人伝:若者たち

「ちくしょう! 早すぎるぜお嬢ちゃん!」


 ネココの爪が大太刀使いのコハルを切り刻む。

 スキルや奥義を使った時にはコハルも機敏に動くが、それ以上にネココは速く、反射神経に優れる。

 相性的にもプレイング的にも、勝ち目のない戦いだった。


(サトミくんはふらふらした動きと機敏な動きの緩急に要注意って言ってたけど、そもそも私たちはすべての動きが機敏で、人間を超える判断力を持つチャリンと戦ってきたんだ……!)


 ネココにとってコハルの動きはまさにスローモーションだった。

 HPを十分に削った後、トドメをさすために首筋を狙う……!


「お嬢ちゃん、なんで俺の名前がコハルって女みたいな名前か知ってるか?」


「…………」


「死んだ女房の名前だからさ」


雷神絶空らいじんぜっくう!」


 視認不可能なほど超高速の爪がコハルの首を切り裂いた。

 ネココの動きに迷いはない……!


「ちっ、女の子ってこういう感動話に弱いんじゃないの?」


「唐突すぎるし、状況が状況だもん」


「そりゃそうだ!」


「それに嘘の可能性もあるし」


「確かに! 確かにな……」


 コハルは真実を語ることなく消滅した。


「どっちにしたって手は抜かないよ。私にも譲れないものがあるから」




 ◆ ◆ ◆




「まさか、4体どころか2体相手に負けてしまうとは……! わしも衰えたものよのう……」


 青土の台地では、すでに老獪ろうかいなる侍シショウが消滅しかけていた。

 サトミは【絆の三位一体ユニゾントリニティ】を使うこともなく、普通にゴチュウとのコンビーネーションでシショウを倒したのだ。


「なぜ……真の力を使わなかったのだ……?」


「普通にこれからのことを考えた温存です。【絆の三位一体ユニゾントリニティ】はまだ1回発動したのみ。まだそのメリットもデメリットも完全に明かしてはいません。だから、使わなくても勝てそうな時は使わないんです」


「この儂が……それほど弱者に見えたか……!?」


「僕とゴチュウの2人の時点で視線が泳いでいましたから」


「くくっ……仕方あるまい! 同時に2つの敵の相手をするなど儂には無理だ……!」


 すでに凄腕の侍の風格が崩れつつあるシショウ。

 微妙に笑っている。


「まあ、よい。才ある若者に敗れるのならば本望だ……。この思い、そして儂の教えを受け継いで進め……!」


「何も教わっていませんが……」


「さらばだ、弟子よ!」


「師事した覚えもありませんが……」


 死してなお思いは受け継がれる……。

 師匠の思いは、半ば強制的にサトミに受け継がれた……!




 ◆ ◆ ◆




「コロマロちゃ~ん、待て!」


「ワンッ!」


 黄土の台地にはアンヌとガー坊、対するは勇者ユウシヤと破壊神コロマロ……なのだが、コロマロはアンヌの言うことを聞き、おとなしく『待て』を実行している。


「わぁ~、賢いお犬さんですね~。そのままずっと待っててくださいね~」


「ワンッ!」


「フハハハハ! まさかコロマロの奴……女の言うことは聞くとはな!」


 ユウシヤはもはや笑うしかない。

 自分たちを2回戦へと導いた最大戦力が無力化されてしまったのだから……!


「このことは知らなかったんですか?」


「ああ、そうさ! 普段のフィールドのモンスターに性別はほぼないし、対人戦の経験はあまりない! 予選は全員バラバラに逃げたから、コロマロがどう戦ってたのかは知らない! 1回戦は敵が全員男だったのだ! 知りようがない! フハハハハ!」


「それは……ご愁傷さまです。でも、慈悲も情けもありませんから。シスターなのは見た目だけなんで!」


 アンヌがトゲ鉄球をぐるぐると振り回す。

 ガー坊も臨戦態勢に入る。

 ユウシヤはまだ高笑いしている。

 もはや魔王のようだ……!


「フハハハハ! くじ引きで男を引けていれば、コロマロの力を借りていい勝負ができると思っていたが、どうやら運命の女神は俺を見放したらしい!」


「え? 対戦相手はくじ引きで決めたんですか?」


「そうだ! 別に自分たちにとって有利な組み合わせにしようとしたわけではない! 正直、どう組み合わせても勝てるビジョンが見えないから、運を天に任せたのだ! このゲームにはパーティで何か決めたりする際に揉めないように、くじ引きやコイントスなどのちょっとした機能が用意されているからな!」


「へ~、知らなかったです」


「説明書はよく読むタイプでな! まあ、今のご時世だと『ヘルプ』と呼ぶのが正しいのかもしれんが……」


聖なる十字架の星たちセイントクロススター!」


優しき盾カインドシールド!」


 聖なる7つの鉄球を温かなクリーム色のオーラが受け止める!


「状況は2対1……逃げないんですか?」


「ああ、これは勇者にとってボス戦……逃げることができない戦いだからな! さあ、来い! 勇気の力で必ず倒す!」


「わかりました! ガー坊ちゃん、えっと……流星弓! あ、これはキュージィ様との合体奥義でしたね! 他に強そうなのは……」


「ま、待ってくれ! やっぱりユニゾン抜きの1対1で……」


「も~! ワガママ言い過ぎです!」


「返す言葉もございません……」


 アンヌは多くのプレイヤーが不意打ちなど汚い手段で襲い掛かってくる『ゴーストフロート』で対人戦を学んだ結果、戦いに関してシビアなプレイヤーへと成長した。

 そして、その『ゴーストフロート』では最大の敵である『VRHAR』のギルドマスター『ノルド』と出会い、キュージィに助けられる形で逃走している。

 その後、ネココと冒険し、憧れの幽霊組合ゴーストギルドのメンバーに選ばれた。


 アンヌはいつもおっとりとしたしゃべり方で感情の起伏がわかりにくい。

 だが、その胸の内には強い仲間意識と熱いゲーマー魂が生まれつつある。

 そう、それこそ勇者の勇気に負けないくらいの……!


「私も負けるわけにはいかないんです!」


 アンヌ対ユウシヤの戦いはすぐに決着がついた。

 それこそ、ガー坊が援護する必要もないほどに。


「最後までワガママ言ってすまなかった! ありがとう! 楽しかったよお姉さん! ああでも……本当はカッコよく勇者みたいに勝ちたかったなぁ……! 強く……なりたい!」


「力が欲しいですか?」


「あ、ああ!」


「それならオススメの修行場があるんですよ。ゴーストフロートって言うんですけど……頑張って探してみてください!」


「わかった! そこで修行して、今度こそは俺が勝つ!」


 老い先短いおじいさんたちの集まりとして世間に注目されど、ネタプレイヤー扱いで強者としては見られていない『G'zジーズ』。

 彼らはこれからも冒険と修行を続け、いずれ正々堂々戦っても若者に負けないプレイヤーへと成長していくのだが、それはまだまだ先の話。


『試合終了ーーっ!!』


 本選トーナメント2回戦第12試合『G'zジーズ』VS『幽霊組合ゴーストギルド』は、4対0で幽霊組合ゴーストギルドの勝利に終わった。

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