Data.179 弓おじさん、台地の決戦
「……来たか!」
「ええ、言われた通り1人で」
俺は【風雲一陣】と【舞風】、【浮雲の群れ】の組み合わせで台地の上に来た。
【ワープアロー】は温存だ。
もしもG'zが自分たちの決めたルールを破るようなことをしてきた時には、【ワープアロー】を使って脱出、もしくは仲間たちの援護に向かう必要があるからな。
「では、戦いを始めるとするかのう……!」
いかにも老いた魔法使いという口調だが、あまり板についていない。
フィクションだとよく聞くけど、リアルだとこんなこと言わないよねみたいなしゃべり方は多い。
目の前で大きな杖を構えるジージィもまた、普段は普通のしゃべり方をしているのだろう。
だが、今の彼は『大魔法使い』ジージィであって、それ以外の何者でもない。
容赦は……しない!
「いや、その前にルールをもう1つ追加じゃ!」
「えっ!?」
「HPがゼロになった方が負けなのはもちろんのこと、この台地から落ちてしまっても負けじゃ! その方が面白いじゃろ? こんなリングにおあつらえ向きの地形なんじゃから!」
「……ええ、構いませんよ」
「ほっほっほっ、その素直さは感心感心! では……こちらからいくぞい! 大魔法・
10個の輝く球体がジージィの前に出現する。
それぞれ色が違うあたり、宿している属性も違う可能性がある。
ここは属性に影響されにくいあのスキルと組み合わせるか……!
「いきなり
「若造……か。久しぶりに言われましたよ。
高い貫通力を持つ【ドリルアロー改】と【天羽矢の大嵐】を組み合わせた融合奥義は、数の力で10個の魔力弾を消滅させ、そのままジージィ本人へと迫る!
「ワシを甘く見てもらっては困る! これしきの攻撃……大魔法・超断絶の魔力壁!」
パッと見た感じそこに壁があるかはわからないが、矢は明らかに何かにぶつかり地面に落ちていく。
透明な防壁というわけか……。
これでは一見どこまで防壁が広がっているのかわからない。
だが……!
「ほっほっほっ! 手も足も出まい! これは無敵の防壁、どんな攻撃も通さん! じゃが……ワシからの攻撃は通る……うぐっ!?」
ジージィの杖を持つ手に何かが突き刺さる。
これまた透明で見えないが、俺は正体を知っている。
「透明の矢か……! じゃが一体どうやって……!? ぐふっ! ぐぉ!?」
さらに2本追加で透明の矢が刺さる。
この攻撃に至るまで、俺は2つの行動をした。
1つ目はすでに発動していた【
これにより攻撃範囲が広がり、どこまで見えざる壁が広がっているのか探ることができる。
2つ目は融合スキル【
壁を避けて矢を放ち、地面で跳ねさせることで壁の向こうのジージィを狙い撃った。
だが、普通に撃っては動きで狙いがバレてしまう。
そこで俺はカモフラージュを行った……といっても、【
しかし、そもそも威力が高いスキルではない【バウンドアロー】に威力の下がる【クリアアロー】を融合させたスキルをここまでして撃ち込む必要があったのかというと……ある!
「透明の防御には透明の攻撃を……ということか! なかなかやりおるわい! じゃが、まだまだぁ! ワシには隠していた回復魔法……が……」
巨大な炎の矢がジージィの体を刺し貫く。
すべてはこの【
透明な防壁はどちらかというと縦方向に巨大で、上から飛び道具を通すのは難しく思えた。
普通の射程なら……な。
俺はこの防壁の高さからくる安心感を利用するため、【
矢は大きく山なりの軌道を描き、透明の防壁を飛び越え、今ジージィへと届いた……!
「うぅ……強い! よくもまあそんなにポンポンと次の手が思いつくもんじゃ! ワシもかなりおぬしの情報を調べてきたつもりじゃったが、単純に行動が追い付かん! 頭も体もよく動きよる! やはり、おぬしはまだまだ若造じゃ!」
ジージィはまだ死んではいない。
【ビッグアロー】がそこまで超火力の奥義ではないというのもあるが、彼自身のレベルや装備がかなり優れているのも死ななかった大きな理由だろう。
ルーキーと聞いていたが、このNSOをよくやり込んでいる……!
「老人は時間だけは余っとるからのう。よーくこのゲームを遊んで、それなりに装備も集めてレベルも上げたが、それだけでは勝てないのじゃな。奥深いものじゃ……」
「あなたたちは十分強いですよ。あの予選を切り抜けて、1回戦を勝利した時点ですごいプレイヤーなんです。だって、すでに上位32パーティの中に……」
「予選はバラバラに逃げ回っていたら偶然ワシだけ生き残って本選に進めた。1回戦はコロマロの機嫌が悪くて運よく暴れてくれたから勝てた。ワシは1キルもしとらん。実力ではない」
「運も実力のうちと言いますよ」
「ほっほっほっ……ありがとう。こんな老人のお遊びに付き合ってくれて。おぬしの実力ならワシなど瞬殺じゃろうに。おかげで良い思い出になった」
「そんなことは……」
「ある! ワシは知識だけは詰め込んできたんじゃ。あの……何と言ったかな? 名前を度忘れしてしまったが、今も実況をやっとる
「…………」
「世の中には君の行動を非難する者もいるじゃろう。真剣勝負の場で手加減をしたと……。じゃが、ワシは感謝している! ワシに戦う時間を与えてくれたことに! 楽しかった! これで満足じゃ! そろそろゲームを遊ぶのも潮時だと思っていたところに、良い『END』をくれた……。おぬしはただ勝者として胸を張れ!」
「では、勝者として言わせてもらいますが……私は別に手加減などしていません! そちらは私のことをよく知っておられるようですが、こちらはあなたのことをそこまでよく知りません。そんな相手にいきなり制御が難しい【スターダストアロー】を使うなんて、むしろそっちが手抜きの戦い方なんです」
「な、なに……?」
「【風神裂空】だって、それなりに貫通力のある【ドリルアロー】を融合した奥義が通らなかった壁に向かって撃つのは短絡的すぎます。だからまだ使わなかっただけです。何より今回は分断されてガー坊が近くにいない。すべての行動が慎重になるのは当然なんです」
「そ、そうなのか……」
「ついでにもう1つ偉そうなことを言わせてもらいましょう。負けた試合を良い思い出にして満足するのは早い! まるでこれでゲームが終わりのような口ぶりでしたが、まだまだこれからです。やればやるほど、上手くなって新しい世界が見えてきます。だから……続けることです。道は続いています」
「……そうか。そうじゃな! このNSOはやり込んでおるが、ゲームという文化自体には触れたばかりじゃ! それに言われるがまま高いVR装置を買わされた以上、死ぬまで使い倒さんと死にきれんわい! ありがとう、キュージィよ。ワシはまだ強くなる! だが、今回はワシの完敗じゃ! さあ、トドメをさすのじゃ!」
「風神裂空!」
ジージィの頭を超高速の矢が貫く。
彼は光となって消滅した。
俺は手加減なんてしてないと言ったが、早急な勝利よりジージィとの会話を優先したことに関しては言い訳できない。
でも、彼をあのまま倒して終わりには出来なかった。
それはきっと、これから『おじいさん』になっていく『おじさん』として何かを感じたからかもしれない。
「なにはともあれ、勝った……! 他の台地もおそらく……」
結果が出るのにそう時間はかからないだろう。
俺以上に若さと才能を持ったプレイヤーたちが相手なのだから。
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