Data.176 弓おじさん、まずは1つ

「あれ? 終わっちゃった?」


 次の敵を探しているうちにチャリンの試合終了というアナウンスが流れてきた。

 試合結果は3対0で俺たち幽霊組合ゴーストギルドの勝利だ。

 サトミがコアと相打ちに倒れたようだが、俺が援護していれば完全勝利も……いや、無粋なことを考えるのはよそう。

 全員生き残って勝利しても、1人だけ生き残って勝利しても結果は変わらない。

 トーナメントはギリギリでも勝利するたびに1歩優勝へと近づき、どんなに良い勝負をしても1回負ければ終わりなんだ。


「まずは1つ……!」


 勝ちが確定した途端、フッと気が抜ける。

 こんな戦いをあと5回も繰り返し、すべてに勝利しなければ栄光は掴めない。

 だからこそ、価値のあるものなんだろうな。


「さあ、待機場所に戻って2回戦までゆっくり休むか」


 それにみんなと勝利の喜びを分かち合わないとな!




 ◆ ◆ ◆




「やりました! 1回戦突破です! わぁ~パチパチパチ!」


 集まってみれば、一番テンションが高かったのはアンヌだった。

 そもそも対人戦の経験が少なく、誰かを倒すという興奮に慣れていないからハイになるのもうなずける。

 格ゲーでも落ちものパズルでもFPSでもなんでも、画面の向こうにいる人間に勝つのは病みつきになる。

 NPC相手とはまた違うのだ。


「アンヌが試合を終わらせたみたいだけど、どうやって勝ったんだい?」


「それはですねぇ!」


「おおっ! いたいた! おーい! 俺たちも混ぜろよ!」


 現れたのはマッドスライムCOREの4人だ。

 負けたばかりだというのにケロッとしている。

 1人を除いて……。


「うう……。すまねぇみんな……」


「泣くんじゃねぇよアシド。どうせお前ひとりじゃ逆転なんて無理だったんだから悔いる必要はねぇよ。全員がわりぃ!」


「でもよぉ……。やられ方がだせぇんだ……。一生ネットの晒し者だ……」


「そんなこったねぇよ! あの程度で一生人の心に残れるほどネットは甘くねぇ! そのうち忘れられちまうよ!」


「さっきからお前……慰めてるのか、けなしてるのか、わからねぇ……!」


「今回に限っては慰め100%だ! 流石にな! 普段は知らねぇ!」


 フードを目深にかぶり、大型のバズーカ砲を背負った大男が体を振るわせて泣いている。

 コアの『お前ひとりじゃ』って発言から考えると、彼がマッドスライムCOREの最後の生き残りでアンヌの対戦相手だったのか。


「あ! 私が倒したのはこの人です! まあでも、倒せたのは偶然なんですけどね……!」


「ぐ、偶然……?」


「私、皆さんが敵を倒しているという情報を受け取って、自分もそろそろ戦いかなって緊張していたんです! それでトゲ鉄球をぐるぐる振り回しながら歩くことで、奇襲を防ごうとしてたんです!」


「なるほど、確かにあれを振り回して歩いてたら敵も容易には近づけないよなぁ。それであの彼は……それに引っかかっちゃった感じ……?」


「待て! 流石に俺もそこまでマヌケじゃない! 勘違いするなよ! そもそも俺の武器はバズーカだ! 奇襲を仕掛けるにしろ敵に接近する必要はない!」


「す、すいません……。アンヌ、続きをお願い」


「あー、続きと言ってももう終わりなんですよ。ぐるぐる鉄球を振り回しているうちに、手が疲れてきちゃって、握ってた鎖がすっぽ抜けちゃったんですよね! それですごい勢いで飛んでいった鉄球があの人に……」


「そうだよ! 偶然当たったんだよ! 完全に死角をとってバズーカで狙ってたのに、こちらを振り向きもせずに鉄球が飛んできたから回避できなかったんだ! そんなの……予想できないだろ!? そうだよな、みんな!?」


 マッドスライムCOREの面々は笑いをこらえている。

 やっぱり愉快な集団だなぁ……マッドスライム。


「しかも当たり所が最悪だった! 即死こそしなかったが、利き腕の右腕が潰れちまったんだ! バズーカは両手武器だから使えなくなるし、偶然当てたにしては俺への追撃が速かったし、そもそも振り回してるだけにしては威力が高かった! なぜだ!」


「追撃は反射的なものだったんです! 私もびっくりしてすぐ手が出ちゃったんです! 威力が高いのは振り回すほど威力が上がるスキルを使ってたからですね。すぐに火力が出ない微妙なスキルだと思ってたんですが、今回は役に立ちましたね!」


「くぅ~! 運命の女神はあんたの味方ってわけか! シスターだけに!」


「見てくれだけですけどね」


 これでアンヌ戦の真実がわかったな。

 不幸な事故……からの油断なき追撃の勝利だった。

 ゲーム経験こそ少ないが、闘争本能で最適な戦いを繰り広げるアンヌもまた強者なのだ。


「んまっ、なんにせよこれで俺たちはめでたく1回戦敗退だ。やってくれたなぁ! それ以外特にかける言葉もないぜ。敗者が勝者にアドバイスなんざおこがましいし、俺たちの分まで~なんて無駄なものを背負わせることもねぇ。勝手に戦って、勝手に勝てよ。身内に2500万が転がり込んできたら俺も得するしな」


「あげませんよ。1円も」


 サトミがコアにぴしゃりと言う。

 2人とも笑っている。


「メシくらい奢れよ弟! あと、2回戦の相手をよく確認しとけ!」


 そう言い残してコアたちは去っていった。

 2回戦の相手……すでに決定している。

 なぜなら、俺たちの前の試合の勝者が2回戦の相手だからだ。


 自分たちの試合の直前だったので緊張しながらの観戦だったが、パーティ名はハッキリ覚えている。

 その名も……『G'zジーズ』!

 おじさんのさらに上、おじいさんたちで構成されたパーティだ……!

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