Data.175 異人伝:猫に宝石
「えっ!? コアの奴なにさっさと脱落してんのよ! リーダーが踏ん張らなくっちゃ示しがつかないじゃないか! まったく男らしくない!」
「サトミくんがリーダーを落としてくれた……! 同時に脱落したということは相打ちだったんだろうけど、それでも大金星よ……!」
近未来都市の自然公園エリア。
人工的に管理された草木や花が密集し、噴水やベンチ、ランニングや散歩に最適な遊歩道が設置された憩いの場だ。
そんな本来ならば平和な空間で戦闘を行っているのはネココ・ストレンジ、そしてマッドスライムCOREの女傑ジェリー・ジェラーである。
「状況は2対3……! 戦闘における数的不利の恐ろしさをアタシに教えたのはあんたでしょうに……もう!」
「諦めたなら降参してくれてもいいんだけどなぁ~!」
ネココの言葉にジェリーは不敵に笑う。
諦めてなどいない……ネココにも最初からわかっていた。
なぜなら、ここで今ネココを倒せば数的不利は解消される。
そして現在、自然公園の戦いで優勢なのはジェリーの方だ。
「このままあんたを倒せば2対2! 数的には問題ないし、何より1人くらい敵を倒さないと相打ちのコアを思いっきりバカに出来ないからねぇ!」
ジェリーは武器であるスコップ、その名も『キラキラザクザクスコップ』を地面に突き立てる。
すると、ネココの足元から金色の岩石がボコっと突き出した!
ネココは得意の素早さを活かしてそれを回避し、物陰に隠れる。
この陰に隠れた物もまた金色に輝く半透明の岩石で、微かに稲妻を帯びている……!
「
ネココとジェリーの周りにはこのような岩石が大量に生えている。
半透明ゆえ向こうが透けて見え、後ろに隠れても居場所が掴まれてしまう。
さらに雷と地属性を複合した頑丈な物質なので、低火力かつ雷属性を得意とするネココにはなかなか砕けない!
「帯びた稲妻があんたの雷とぶつかって威力を下げ、そもそも雷属性が苦手とする地属性で完全に無力化する……! 言葉で説明しなくてももうわかってるよね?」
「もちろん! 筋肉のお姉さま!」
カラフルで今風な作業着に身を包み、頭にはけばけばしいペイントがなされたヘルメット、武器はギラギラ輝くスコップ!
しかし、ジェリー自身の容姿はこれらの装備にも負けない。
2メートルに迫る高身長、浅く焼けた健康的な肌、浮き上がる筋肉、胸は大きく、髪は短く、ボーイッシュながら可愛さを秘めた顔立ち……!
「筋肉のお姉さまかぁ……! 良い響きねぇ~。リアルでもそう呼ばれたいけど、あんまり鍛えすぎると引かれるし、オシャレな服も着れないし、良い人も寄ってこないしで
「へぇ~、筋肉痛って歳を取るとすぐ来ないのね!」
素早い移動でジェリーの背後をとったネココが突撃を仕掛ける!
「そうらしいよ~。アタシは体験したことないけどぉ!」
ジェリーは素早く岩石の壁を作り、後方へと引き下がる。
障害物の多い場所ではネココもスピードを出しきれず、透明化もままならない。
まさにすべてにおいて相性最悪の敵……!
「ねぇ、あんたこそ降参しない? アタシ、スキルや奥義は出来る限り温存しろって言われてるんだけど」
「それは聞けないお願いねぇ。でも、スキル奥義は温存させてあげるっ!」
「……どういう意味だい!?」
「今までの戦闘はすべてお姉さんの実力を測るためのもの! どこまで手札を見せて良いのか……判断はついたっ!」
「ふ、ふんっ! ハッタリを! あんたの情報はコアから教えてもらってる! 火力を出すためには雷属性の付与と双爪による連撃が必須! アタシの装備は見た目以上に硬いし、防御スキルも十分……」
「確かにその通り! でもね、私はギルドの新メンバーを決めるためにいろんな人と組んできたの。その過程で特殊なプレイングをして、普段のスタイルとは噛み合わない妙なスキルもいっぱい手に入れてるのよ!」
「な、なにぃ!?」
「食らいなさい! 爪ミサイル!」
「くっ……! 使っちまおう!
ジェリーを取り囲むように5枚の宝石の壁がせり出す。
最後に蓋をすることで、フィールド上に五角形の宝石箱が完成した。
物理と魔法の両方に耐性を持つこの奥義を正面から打ち破る方法はそうそうない。
「来い! 爪ミサッ……な、なに? 光……」
ジェリーの足元の地面がカッと発光したかと思うと、連続で爆発が起こった!
この不意打ちには防御スキルを使う暇もなく、ジェリーはもろに爆発のダメージを食らう。
しかし、奥義は維持され、ジェリー自身のHPはまだまだ残っている。
コアに言われて揃えていた高性能のHP回復アイテムを使えばまだ立て直せる……はずだった。
「
蒼い稲妻がジェリーの首筋に
ネココは地面に穴を掘り、宝石箱の中に潜り込んだのだ。
ジェリーもネココの穴掘りは映像で見て印象に残っていたし、【
しかし、爆発が起こったのは明らかにネココが地上にいた時だ。
姿を消せば地下に潜ったと判断し、地面に向けたカウンター攻撃を仕掛ける予定だった。
それを予想外の爆発で乱された……!
「冥途の土産に地面が爆発したカラクリについて教えてくれると嬉しいんだけど……」
「……爪ミサイル」
「そりゃ教えられないか。まだ先があるかもしれないもんね」
ネココの言葉は真実だ。
あの爆発はスキル【爪ミサイル】の効果で、2つある効果のうち1つを使ったのだ。
使わなかった方の効果は通称『ミサイルスタイル』。
装備している爪をミサイルのように飛ばして攻撃する。
飛ばした爪は数秒で復活するが、その間はもちろん爪関係のスキル奥義が使えなくなる。
短いとはいえ、ある意味全体にクールタイムを課すじゃじゃ馬スキルだ。
もう1つのスタイルは『マインスタイル』。
地雷のように爪を地面に埋めておき、任意のタイミングで爆発させることが出来る。
こちらは1本単位で爪を切り離せるので、爪を残しつつ設置可能なのが利点。
しかし埋めた場所に目印などは表示されず、1本だけでは爆発の規模も小さい。
最大設置数である10本の爪を近い位置で同時に爆発させることが出来れば奥義並みの威力を発揮するが、それを戦闘中に狙うのは至難の業。
ジェリーは押せ押せで攻撃しているようで、実はネココの思うように動かされていた。
見た目とは裏腹に控えめの性格が災いして、攻められそうになると後ろに下がる癖も利用された。
そうして、逃げ惑うふりをしながら【爪ミサイル】を同じ場所にこっそり埋め、最終的にジェリーがその上に立ったタイミングでハッタリをかまし、強力な防御奥義を誘った。
防御奥義は強力であればあるほど、移動を制限される傾向にある。
【
「ああもう! 何も貢献できずに負けるってのは案外辛いもんだね……。相打ちなだけコアはマシだった! やっぱあんたがアタシたちのリーダー……男だよ!」
ジェリーは消滅した。
これでマッドスライムCOREの残り人数は1人だ。
(お姉さんは強かったよ。私との相性も良かった。ただただ、経験が足りなかっただけ……! でも、どうしてプロゲーマー集団の本隊にまだゲームに慣れてない人を入れてるのかな? うーん、まあ、スライムマンみたいな人もいる集団だし、面白かったら良いのかも?)
ネココは少し首を傾げ、ある可能性に至った。
(いや、もしかしたらサトミくんのお兄さんが私対策にわざわざパーティに入れた……とか? あまりにも相性が良すぎたし、かなり私の情報を叩きこまれてたし……。弟のいるパーティに負けたくない一心でこんなことを……するはずないか! 流石にね!)
一人っ子のネココには兄弟の関係がよくわからなかった。
相手のパーティ構成に関する疑問は一度忘れ、次なる戦いに向かうために『ふぅ……』と一息つく。
彼女は
それだけに活躍しなければという思いは強い。
(未熟なプレイヤー相手に温存して勝つ……。セオリー通りだけど、ちょっとスカッとしないところもある。でも、私はやる……! それが幽霊たちを集めた私の責任! 舐めプもハッタリもどんと来いよ!)
ネココは走り出す。
幽霊たちを栄光に導くために……!
「さあ! お次の相手はどこかしら!」
『試合終了ーーっ!!』
「えっ!?」
『マッドスライムCOREのプレイヤーが全滅したため、勝利パーティは……
「最後に敵を倒したのは……アンヌ! つまり、1人1キル……! 我ながら人を見る目はあるみたいね……!」
少し肩の荷が下りたような気がしたネココだった。
(それにしても、重い武器を振り回すアンヌにしては戦闘の音が全然聞こえなかったような……。どうやって勝ったのかな?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます