Data.174 異人伝:虹に射す光
3体のユニゾンと虹色の刃が幾度となく交差する。
【
常に弱点を突く刃が状況に合わせて形を変え、地と空を這いまわる。
これがプロゲーマー集団『マッドスライム』のリーダー『コア』の最強戦術……!
だが、コアはどこかこの戦闘に違和感を感じていた。
(サトミがやたら動かねぇ……)
3体のユニゾンに的確に指示を出しつつ、回復を行ってなんとか場を持たせているサトミ。
一見忙しく動いているように見えるが、コアにはどうも納得がいかなかった。
(なぜ俺からもっと離れない? ユニゾンマスターは単体では最弱職と言っても過言じゃねぇのに、蛇腹剣のリーチ内にずっと居座ってやがる。そのせいでユニゾンたちに負荷がかかってることに気づかねぇあいつじゃねぇはず……)
サトミは常にコアと一定の距離を保っている。
声で指示を出すならもう少し離れたり、物陰に隠れても十分指示は届く。
無駄に自分を危険に晒しているのはおかしい……そう考えるのは自然なことだろう。
(それに回復こそすれど攻撃はしてこねぇ。すでにユニゾンに頼らない攻撃スキルがあることは俺にバレてる。なのに、攻撃に転じれる隙をあえて晒してもサトミは攻撃してこねぇ……)
ユニゾンが武器であるユニゾンマスターといえど、単体でまったく戦闘能力がないわけではない。
大切なユニゾンたちのサポートをするくらいの攻撃スキルは身に着けているはず……。
だが、サトミは頑なに攻撃をしてこない。
無駄にコアに近い位置にいるのに、攻撃する気配はない。
なぜサトミはこんなことをしているのか……?
(ミラクルエフェクトのデメリットか……。効果は見てわかる通りユニゾンの3体同時召喚。しかし、召喚したユニゾンと一定以上離れると解除される……なんてことはありそうだ。それに加えてユニゾンマスター自身の攻撃の禁止もあるか。確かに元ネタの某ゲームだとトレーナーが戦闘に手を出すことは出来ない。道具を使って回復は出来ても……だ)
この推測は元ネタの存在により説得力がグッと増した。
さらに証拠を集めるため、コアはあえてユニゾンの包囲を破り移動しようとする。
「あっ……!? 待て! 勝負の最中に背中を見せるんですか!」
「別にこのゲームは人との戦いから逃げても問題ないからなぁ!」
サトミが明らかに焦った表情をする。
そして、コアとの距離を詰めるために走り出した。
コアはそれを見て微かに笑った。
自分の推測を裏付ける証拠としては十分すぎたからだ。
(立ち止まって考えるのと走りながら考えるのでは労力が違う。ここは適度にサトミを走らせて判断を鈍らせるか! 運動神経も俺の方が上だからなぁ弟よ!)
コアは移動を繰り返しならが戦闘を繰り返す。
そうしてサトミのプレイングミスを誘うのだ。
もしミスがなくても、移動を挟んだ方が時間は稼げる。
2人のミラクルエフェクトには時間制限があり、それを過ぎると効果を失う。
効果を失った状態で戦闘を行えば自分の方が確実に強い……コアはそう考えていた。
(1人のプレイヤーからユニゾンを3体召喚するってことは、戦力が1から4に増える。手数が4倍になるってことだ。対して俺の方は結局のところ1本の剣を強化する効果に過ぎない……。これであっちの方が効果時間が長いとは思えねぇ! そもそも発動タイミングもあっちの方が先だしな!)
当然そのことはサトミも理解しているとコアは思った。
だから、サトミは自分のミラクルエフェクトの効果が切れる前に大勝負を仕掛けてくる……。
その時がいつなのか、見極めることが勝敗を分ける。
(予想だと効果時間は3分から5分ってところだ。俺の方は虹の7色にあやかって7分も効果が持続する! 向こうのユニゾンが減ったら速攻で仕留めてやらぁ! この後、お仲間も狩らないといけねぇからなぁ!)
コアの予想通り、3分を過ぎてしばらくした辺りでサトミの動きが変わった。
武器である
(ほう、ユニゾンが消えるタイミングでツッコんできて疑似的な4体同時攻撃を仕掛けるつもりか……。おそらくミラクルエフェクトの効果が終わる直前に放ったユニゾンのスキル奥義は場に残る仕様なんだろうな。4方向からの攻撃に対応しなければいけねぇわけだが……まあ余裕ってな!)
サトミが錫杖に光を宿し、コアに向けて突っ込む!
同時に3体のユニゾンたちも攻撃態勢に入る!
「お前の考えることは見え見えだぞ弟よ! なんてったって俺は兄貴だからなぁ! いくぜ機神剣・
虹色に輝く蛇腹剣の刃が8本に分かれる!
1本1本は通常より細くなっているが、それぞれが自由自在に動き回る!
「宣言通り、俺の剣はすべてをぶった斬る!」
8本の刃のうち3本がユニゾンたちの奥義と衝突する!
残り5本は……すべてサトミの元へ伸びる!
「まあ、結局マスターを倒せばいいわけだからな」
余裕を見せるコア。
しかし、サトミは無表情のまま迫りくる刃に突っ込んだ!
「バラバラになれぇ!」
しかし、サトミは驚異的な反射神経で致命傷を回避する!
左腕が飛び、右脚にも深い傷、左脚も膝から下が飛んだが、錫杖を杖にしてなおも前に進む!
(なんだこの反射神経は……!? こんな超人的な動きサトミに出来るわけ……あっ!? 【
サトミがチャリン戦で見せた奥義【
その名の通り、戦闘のすべてをAIに任せる変則的な奥義だ。
ただ、本来ならばこのモードとなったサトミがダメージ覚悟で敵の攻撃を受けつつ接近することなどありえない。
接近したところでサトミ単体に強敵を倒す力などないからだ。
AI的には必要のない行動と真っ先に切り捨てるはず……。
つまり、今のサトミはコアを倒せるだけの『何か』を持っている。
「こっちもダメージ覚悟だ! 戻れ刃!」
ユニゾンたちの奥義を受けていた3本の刃がサトミに迫る。
1本ごとの攻撃力が落ちている今の状態の刃では奥義を相殺とまではいかなかったが、それでもサトミを仕留めなければ危ないとコアの本能が叫んでいた。
「これで……なにっ!?」
ミラクルエフェクトの効果が切れていなくなっているはずの3体のユニゾンがサトミの元に集まり、刃をはじいた!
そもそも特権で召喚しているゴチュウはともかく、ブゥフィもカパパルトも残っている!
「僕はユニゾンマスターだ。最後まで彼らが僕の力だ」
サトミの光り輝く錫杖がコアの胸を打つ。
光の紋章が体に広がり、コアのHPが急速に失われていく。
「これは……即死技かよ!? ちいっ!」
コアの判断は早かった。
助からないと理解するや否や、8本の刃すべてでサトミを切り刻んだ。
この近距離で8本の刃をさばき切るのはユニゾンたちでも不可能。
サトミもまたHPを失った。
「兄弟喧嘩で相打ちってことは……兄貴の負けだな。いつから仕込んでたんだよ即死。そんなぽっと発動するわけないだろ?」
「僕がミラクルエフェクト【
「へぇ~、即死させたい敵と一定時間決められた距離内に居続けるとか、発動準備中は攻撃が出来ないとか?」
コアはにたぁ~と笑う。
サトミは『やれやれ』といった感じの苦笑いを浮かべる。
「……ノーコメントです。でも、ユニゾンたちと協力して初めて実用可能な技だとは言っておきましょう」
「あっそ」
会話はそこで止まり、気まずい空気が流れる。
体が発光し、光の粒子になって消えるまでやたら時間がかかっている。
「……そんなにゲームに口出しされるのが嫌だったか?」
「兄さんはもしラスボス戦に至るまで序盤のようなチュートリアルや指南が続くゲームがあったらどうします? もちろん設定でオフにもできません」
「動画で散々こき下ろして飯のタネにした後、メーカーの社屋がある方角に恨み言を吐いて売る!」
「そういうことです」
「そうか」
「別に丁重なチュートリアルや指南自体が不要だったり嫌というわけではありませんが、加減を考えてくれませんとね。メーカーさんには」
「……だな」
サトミとコアは光となって消滅した。
本選トーナメント1回戦第23試合。
マッドスライムCORE:残り2人。
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