Data.173 異人伝:VR兄弟喧嘩

「ゼラちんがやられたか……。やっぱつええな、おっさん。俺のわがままでゼラちんには無理を押し付けちまった。借りを返すためにも、派手に決着をつけようぜ兄弟! 隠れてねぇでさ!」


 場所は近未来都市の住宅地エリア。

 豆腐のような白く無個性な建物が整然と立ち並んでいる。

 そんな中、ポツンと1人で立ち尽くすのはツンツンの金髪がトレードマークのヤンキープレイヤー『コア』だ。

 伸縮自在の蛇腹剣をじゃらじゃらと振り回し、どこかに潜む弟へと呼びかける。


「時間を稼げばお仲間が敵を倒してくれるってか!? これがお前の言う『楽』を極めたスタイルとは笑わせてくれるぜ!」


 コアの声が建物に当たって反響する。

 しかし、それ以外の音は聞こえない。


「まだこの辺にいるのはわかってんだ。引きずり出そうと思えば出来るんだぜぇ? さあ、出てこい! 昔みたいに手取り足取り教えてもらえなきゃ戦い方もわかんねぇか!?」


「教える……? ああいうのをお節介って言うんですよ」


 サトミの声が住宅街に響く。

 やたらと大きく、より反響するせいで声から位置をたどることは出来ない。


「ちっ、なんかのスキルか……。何言ってんだ! 兄ちゃんが教えてやらなきゃまともにクリア出来なかっただろ!」


「まともにクリアなんて二の次です。まずは自由に楽しく遊ぶことがゲームには大切なんだ! 効率ばかり気にしてるあなたにはわからないでしょうけどね!」


「ああそうさ! かつてはフラゲしたゲームを速攻でクリアして発売日に中古に流すようなワルだったからなぁ! 俺はのんびりって言葉が嫌いだ! とにかく効率よく進めてぇ!」


「フラゲの是非は置いといて、そのプレイスタイル自体を悪く言うつもりはありません。でも、それを人に押し付けないでください!」


「無理だ! お前の言い分は正しいと思うが、人のプレイを見てると口出ししたくてウズウズしてくる! 暇つぶしに見たゲームの生配信でも荒らしレベルに指示厨しちまう! それが身近にいる弟に対しては抑えられる……わけがない!」


「僕はゲームを純粋に楽しく遊びたいだけです! そこにはなんのこだわりも思想もない! 時には効率を意識することもあれば、無駄を承知で時間を使うこともある。その時の気分のままに遊ぶことこそが究極の『楽』……楽しむということ!」


「なるほど、楽極振りとかいう謎のフレーズはただ楽しく遊ぶというスタイルを言い換えただけなのか」


「プロの端くれが掲げるプレイスタイルが『楽しく遊ぶ』だけでは大VR時代に埋もれるだけです。恐れずに言えば、楽極振りは誇大広告!」


「いいねぇ! それでこそ俺の弟だ!」


 これだけの言葉を交わせば反響していてもおおよその位置がつかめる。

 コアは蛇腹剣を振り回し、建物ごとサトミを破壊しにかかる!


巨大化蛇腹ビッグベローズ!」


 建物は脆い。

 巨大化した蛇腹剣の一撃を受け、豆腐のように崩れ去った。

 しかし、その瓦礫の中にサトミの姿はない。

 代わりにいたのは……。


「ぶぅー?」


「なっ!? なんだこいつ!?」


 風船のように丸々とした豚だった!

 鼻息の荒いこの豚はコアの一撃を受けても平然としているどころか、状況すらよくわかっていない!


「このフィールドにモンスターは出ないはず……。もしや、ただの置物か?」


「ぶ、ぶ、ぶ、ぶうぅぅぅぅぅぅッ!!!」


 豚の鼻からいきなり突風が吹き出す。

 骨が折れそうなほど強力な風圧にコアはたまらず防御スキルを展開する。


とぐろ巻く蛇腹コイルベローズ! は、はぁはぁ……なんだこのブタァ!? はっ……!?」


 【とぐろ巻く蛇腹コイルベローズ】に向かってさらに攻撃が加えられる。

 今度は激しい水流だ!

 さらに別方向から炎が吹き付けられる!

 三方向同時の攻撃にスキルは限界を迎える!


「ぐわああああああ!!」


 コアの防御が崩れた。

 すかさずサトミの命令が飛ぶ!


「ゴチュウ! ブゥフィ! カパパルト! 奥義で畳み掛けるんだ!」


 お馴染みの魔法を使う猿の『ゴチュウ』。

 丸々とした風船豚の『ブゥフィ』。

 そして、サングラスをかけたクールな軍人カッパの『カパパルト』。


 サトミはユニゾンを同時に3体召喚している!


火火種蒔ひひだねまき! 超空気砲ちょうくうきほう! 奇襲水流ゲリラストリーム!」


 弾丸のような火の連射!

 圧縮された空気の砲弾!

 突如として出現した激流!


 3つの奥義がコアに襲いかかる!


「はっは~ん? こりゃ素晴らしい切り札……いや、ミラクルエフェクトだなぁ!?」


 コアの蛇腹剣が虹色に輝く……!


「こっちもミラクルエフェクトで応えようじゃねぇか……虹蛇腹ユルング


 刃をぐるりと一振り。

 3つの奥義と衝突した虹の剣は、そのすべてを消滅させた……!


「なにっ……!?」


「これが俺のミラクルエフェクト【虹蛇腹ユルング】! 効果は教えないのがセオリーなんだろうが、俺の場合は言っちまうぜ! なんせ、聞いたところで対処できないからな!」


 姿を現したサトミに向けて、コアが刃を伸ばす!


「ブゥフィ! 割れずの風船!」


 間に割って入ったブゥフィの体がぶくぅっと膨らみ、虹の刃を弾き飛ばす。

 同時にブゥフィがよろけて地面にべたっとへたり込む。


「防御奥義を使ってもこれだけのHPを……!?」


「そりゃそうさ。弱点を突いたからな。奥義だってそう! 弱点を突くと簡単に相殺できちまう! 【虹蛇腹ユルング】は攻撃時、対象の苦手とする属性に自動的に変わってくれるすげぇミラクルエフェクトだ!」


「だから、3つの奥義を同時に消滅させることが出来たわけですか……」


「ご名答! 3つの異なる特性を持ったユニゾンの力を借りれば、対応不可能な攻撃が出来ると思っていたんならあめぇ! ゲロ甘いぜ! 俺の剣はすべてを斬る!」


「断言するにはまだ早いのでは? 僕もまだ手札をすべて見せたわけじゃない……!」


「ほう、それは楽しみだねぇ~。お互い単発超火力型じゃねぇ特殊効果持続型のミラクルエフェクトだ。どちらが先に息切れするか……試してみようじゃねぇか」


「望むところです!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る