Data.160 弓おじさん、星砕きの矢

「合体奥義!? ちょっと早くない?」


 ネココが異議を唱える。

 合体奥義は使用後ユニゾンが長時間のクールタイムに入るため、戦力が大きくダウンする。

 ガー坊は索敵を担当しているし、分身も出来る。

 出来れば使いたくないが、今回ばかりは仕方ない理由がある。


「おそらく、あの結界は1撃で超火力を出せる奥義じゃないと破壊できないんだと思う。例えば威力50の奥義を4つ使って実質200のダメージを与えるより、100の奥義を1つ使って100のダメージが必要とされる……みたいな?」


「つまり、決められたダメージ量を下回る攻撃はすべて無効化されるってことね。そのダメージ量を上回らない限り、何百発撃っても無意味ということ!」


「そう、それそれ! もしあの結界が純粋に高い防御力と耐久力を誇るものだとしても、いろんな方法で威力を底上げした4つの奥義を食らって傷一つ付かないとは思えない。でも、無効化する効果を持っているのならば、無傷なのもうなずける。だって、さっきの攻撃は攻撃として扱われていないのだから……!」


 俺の【獄炎天羽矢の大嵐インフェルノアローテンペスト】は【インフェルノアロー】と【天羽矢の大嵐】を合体させたいわば【爆裂する矢の嵐バーニングアローストーム】を純粋進化させた融合奥義だ。


 ネココの奥義【飛雷断空爪ひらいだんくうそう】は飛ぶ雷の斬撃。

 【秘技・双爪そうそう】はスキル奥義をクールタイムなどの条件を無視して瞬間2連続発動させるスキル。

 これによりネココは奥義の威力を実質2倍に出来る。

 デメリットは【秘技・双爪そうそう】によって2連続発動させた奥義のクールタイムが2倍になること。

 結構重いデメリットに思えるが、そもそも爪の奥義はクールタイムが短く威力が不足しているので、【秘技・双爪そうそう】を多用してやっと並の火力だとネココが愚痴っていた。


 【調和の指揮者ユニゾンマエストロ】はサトミにユニゾンのスキル奥義を使用可能にさせる。

 これによってゴチュウと同じ奥義を同時発動させて火力を底上げしていた。

 また、ゴチュウのステータスが少しサトミに上乗せされるので、錫杖しゃくじょうを使った格闘戦でも多少火力が出るとのこと。

 奇襲されても暴れて抵抗することは出来るので過剰にかばう必要はないとサトミは言っていた。


 アンヌの【巨人たちのジャイアント夜明けの星球デイブレイクスター】は……ゴーストフロートでも結構使っていた融合奥義だ。

 デカい、重い、強い! それで十分!


 これらの奥義を全部もろに食らって無傷はあり得ない。

 やはり、一定以下のダメージを切り捨てて無効化している……!


「でもぉ、合体奥義を使う前に塔の中から攻め込むってのもアリじゃないですか? あの緑色のスライムちゃんが覆っているのはあくまでも外側ですし、普通に中の階段をのぼって屋上に行けば……」


「いや、それは危険なんだ。スライムマンたちは絶対に塔内部からの攻撃を警戒している。だって、結界のせいで外が見えないわけだから、警戒するところはそこしかないからね」


「あっ! なるほど!」


 初心者の時の俺ですら下から来る敵を警戒して塔の入口に地雷を設置するくらいの知恵は回った。

 腐ってもプロであるスライムマンが警戒を怠るとは思えない。

 ここはやはり、正面から突破するのが正解……!


「俺が結界を破壊する。みんなは破壊と同時に屋上を制圧する準備をしてくれ」


 全員が『了解』と言ってくれた。

 そうと決まれば始めよう。


「ガー坊! いくぞ!」


「ガァー! ガァー!」


 1つ目の合体奥義は【流星弓】だった。

 イベント『黄道十二迷宮』の隠し迷宮『野獣の試練』にて、プレイヤーには公開されていないマスクデータ『絆ポイント』が一定数を上回ったことで開放された。


 2つ目の合体奥義の解放には、さらなる『絆ポイント』とユニゾンの第3進化が必要だった。

 第3進化を終えてすぐに2つ目の合体奥義を覚えなかったのは、進化することによって絆ポイントの上限が引き上げられたからだと解釈している。

 第2進化までで積み重ねられる絆ポイントでは、2つ目の合体奥義に必要な数値に足りなかったのだろう。

 『レイヴンガー』から『レイヴンアリゲイト』になってから、さらに絆ポイントを積み重ねる必要があった。


「合体奥義……!」


 今度のガー坊はバラバラになって弓と合体しない。

 完全変形し、ガー坊自体が1本の矢となる……!


流星破壊弓アルマゲドンアロー!」


 それは流星のごとき無数の矢を撃ち出す【流星弓】とは真逆の奥義。

 撃ち出す矢は1本のみ、まばゆく光ってもいない、大して速くもない。

 代わりに太く、高速回転することで空気との摩擦が起こり、熱をもってジワリと赤く光る。

 そして、触れた物はすべて破壊し、ただ一直線に進む……!


 『星域射程』の効果で曲げることは出来ない。

 【弓矢融合】で他のスキル奥義と混ぜることも出来ない。

 発動後はキャンセルも出来ない。


 頑固な男が貫く意地のようなその矢は、星をも砕く最強の切り札……!

 これが俺とガー坊の絆の到達点【流星破壊弓アルマゲドンアロー】だ!


 パァァァァァンッ!


 【粘液の大結界スライムバリア】は弾け飛んだ!

 よくやったガー坊! 後は任せてくれ!

 俺たちで必ず本選出場を決める……!


「あれぇ!? こんなに早く結界が破壊されるとは想定外ですよ!?」


 屋上からスライムマンの声が響く。

 俺は大声で返事をする。


「この程度の結界じゃ時間稼ぎにもならないぞ!」


「ふ、ふん……! 想定外なのはタイミングの方だけ! いずれ破壊されること自体は想定済みです! こちらは4人、そちらも4人! まだ勝負は始まったばかりです!」


「それはどうかな?」


「へ……? あっ!?」


 スライムマンが絶句する。

 そう、すでに俺の周りには誰もいないのだ。


 俺たちの作戦はこうだ。

 爪を使って塔の外側を登っていたネココが結界の破壊に乗じて屋上に乗り込み、スライムマンの仲間を1人暗殺する。

 残った仲間の注目がネココの方に集まったタイミングで塔内部の階段を使って屋上へ向かったサトミ、ゴチュウ、アンヌが存在をアピールするために音を鳴らす。


 こうすることでスライムマンの仲間たちは2方向に注意を向けなければならなくなる。

 迷いのある状態でネココと接近戦を繰り広げても、待っているのは静かな死だ。

 彼女の若さ溢れる反射神経から繰り出される攻撃は言葉を発する暇も与えない。


 そして、俺の役目は結界の破壊と一番厄介なプレイヤーであるスライムマンの注意を引くこと!

 数秒だけで良かった。ただ、ネココとスライムマンが正面衝突することだけは避けたかった。

 俺は彼のことをプレイヤーとして高く評価している。

 だからこそ、わざと煽るようなセリフを使ってでも注意を逸らした。


「この場所で因縁を終わらせよう! スライムマン!」

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