Data.157 弓おじさん、天から吹く風

 ガー坊の鳴き声が次第に小さくなっていく。

 俺たちのことを認識しているのかは不明だが、とりあえず敵はこちらに接近してきている。


「私が視る……。泥棒猫の眼力キャッツアイパワーで……」


 ネココが敵がいると思わしき方向をにらみつける。

 白く発光する目は、まるで闇夜に浮かぶ猫の目のようだ。


「視えた……! あの途中で幹が二股に分かれてる木の後ろに2人、木の上に1人、ちょっと離れたところにある岩の後ろに1人よ。こっちには気づいてない……!」


 報告の後、ネココがギュッと目をつむる。

 おそらく発動からまばたきをするまで物を透視できるスキルだろう。

 考えただけで俺も目がしょぼしょぼしてきた……。


「木の敵はおじさんに任せるわ。広範囲攻撃で3人全員一気に仕留めてほしい。岩の後ろの敵はおじさんの攻撃に驚いたところを……私がやる」


「了解……!」


 アンヌとサトミ、ユニゾンたちには一旦隠れてもらう。

 ネココは気づかれぬよう大回りで敵の背後をとり、俺は茂みから敵の潜む木に狙いを定める。

 このフィールドのオブジェクトは破壊可能だ。

 強力な奥義ならば、木をなぎ倒してそのままプレイヤーをキルすることも出来る……!


「奥義・天羽矢あまはやの大嵐……!」


 進化した弓『機神弓きしんきゅう天風叢雲アマカゼノムラクモ』の武器奥義!

 その効果は【弓時雨】【矢の嵐】と同じく大量の矢を撃ち出す!


 ◆機神弓きしんきゅう天風叢雲アマカゼノムラクモ

 種類:両手武器<弓> 攻撃:200 射程:140

 武器奥義:【天羽矢の大嵐】


 【天羽矢あまはやの大嵐】

 弓の周囲に発生した暗雲から荒れ狂う暴風雨のごとく矢を降らせる。

 クールタイム:5分


 撃ち出す矢の数は増加、スピードも大幅アップ、1本1本の威力も上がっている。

 それでいてクールタイムは据え置き!

 【矢の嵐】の完全上位互換スキルだ!


 そして、見逃せないのが弓自体のスペックの高さ!

 攻撃は200の大台に乗り、射程も伸びている。

 防御自慢のプレイヤーとて、この弓から撃ち出される矢を受ければ無事では済まないだろう……!


「狙いはバッチリだ……!」


 無数の矢は狙った木を巻き込み、バラバラに破壊した。

 その後ろに隠れていたプレイヤー2人も同様にバラバラに……出来なかった。

 1人は重装の前衛職らしく、不意打ちに対しても盾を構えてその身を守った。

 木の上に陣取っていたプレイヤーは逆に軽装で、素早く他の木に逃げ延びていた。


 仕留めたのは1人か……。

 新奥義のお披露目にしては物足りないが、それだけ実力あるプレイヤーが多いということだろう。

 簡単に倒せるとは思わないことだ。

 たった1人では……な。


「空を絶つ雷の爪……雷神絶空らいじんぜっくう!」


 攻撃に驚いて岩陰から様子をうかがっていたプレイヤーの首が飛ぶ。

 気づかれぬように接近して首を切り落とすネココの得意技もさらに磨きがかかり、もはや振り下ろされた爪が速すぎて見えない。

 まさに稲妻の如し……!


「ユニゾンと心と体を合わせる……調和の指揮者ユニゾンマエストロ


 サトミは新武器に僧侶や山伏が持つ輪っかのついた杖『錫杖しゃくじょう』を選んだ。

 彼自身も敵へ攻撃を仕掛け、ゴチュウと息の合った連携を披露する。

 奇襲を受けて心中穏やかではないプレイヤーに流れるような攻撃の応酬を受け流せというのは酷な話だ。


「前衛は前衛同士で戦いましょう!」


 アンヌが重装のプレイヤーに鎖付きトゲ鉄球を投げつける。

 彼はこのパーティのリーダーのようで、仲間が倒されても冷静さを失わず、的確に攻撃を防いでいる。

 あの盾はなかなかのレア装備だな……。

 アンヌの鉄球を何度受け止めても傷一つ付かない。

 本来ならば魔法攻撃が可能なサトミとゴチュウにバトンタッチするべきだが、アンヌもまた新たなる力を手に入れていた!


粘着する星スティッキースター!」


 べちょっと盾と鉄球がくっついた!

 アンヌはそのまま鉄球を引き戻し、プレイヤーから盾を奪い取る。


「そ、そんなのありかよ!?」


「ごめんあそばせ! 案外ねちっこいんです!」


 もう一度鉄球を振り、今度はプレイヤー自身もべちょっと絡めとる。

 そしてアンヌは……プレイヤーのくっついた鉄球をぶんぶん振り回し始めた!


「三半規管に自信のない方はギブアップをオススメします!」


「ギ……ギギ……ブアップ……!」


 プレイヤーは光の粒子となって消えた。

 これで相手パーティは全滅だ……!


「いやぁ、想像以上に上手くいって良かったね」


「不意打ちがバレないかドキドキしたぁ……」


「自分から攻撃するのは未だに慣れません」


「さっきの人、吐き戻してたりしてなければ良いのですが……」


 なんだかんだ最初の戦闘はみんな緊張していた。

 鍛え上げたステータス、集めた装備スキル奥義、みんなで決めた作戦……どれも俺たちを勝利に近づけてくれるが、勝利を保証してはくれない。

 だからこそ、勝利を掴んだ時の喜びは震えるほどだ。


 さっきの戦闘はまさに電光石火。

 相手パーティは反撃するチャンスも与えられずに倒された。

 まさに理想の立ち回り……!

 あの動きを繰り返せれば、優勝が見えてくる。


「さあ、目的地へ向かおう。ここも安全じゃないかもしれない」


 仲間同士で少し間隔を空け、それぞれ違う方向を警戒しつつ進む。

 敵は数千……安全な場所なんてないのかもしれない。

 だからこそ、俺たちは目指す。

 幽霊組合ゴーストギルド誕生のきっかけとなったあの塔を。

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