Data.156 弓おじさん、始まりの戦場
『見た瞬間ピンときた人もいるみたいだけど、改めて宣言するにょん! 予選はバトルロイヤル! エントリーしたすべてのパーティを1つのマップにぶち込んで、生き残りをかけた殺し合いをしてもらうにょん!』
チャリンの声が脳内に響く。
彼女が出したヒント通り、予選はバトルロイヤルだった。
確かにこれならサクサク数を減らせて、運営の任意の数だけパーティを残すことが出来る。
運次第で予想外のジャイアントキリングが起こりやすいし、見ている方は盛り上がること間違いなしだ。
ただ、やる方としては死んだら終わりのバトロワで一発勝負は怖い……!
不意打ちで全滅なんてことが日常茶飯事のゲームシステムだし、あっという間に終わる可能性もある……!
『本選に進めるのは64パーティのみ! つまり、残りパーティが64になった時点で本選出場者が決まるんだけど、このバトロワの最終順位で本選のトーナメントが組まれるから、最後まで油断せずに戦い抜いた方が後々有利だにょん!』
たったの64パーティ……!?
プレイヤーでいえば数万人、パーティ換算でも数千はエントリーしているだろうに、この1戦で64まで減るのか……!
『なお、使用したアイテムや装備の破損、奥義やミラクルエフェクトのクールタイムなどは本選の時にリセットされるにょん! 予選は予選、本選は本選で全力を出すにょん! また通常のバトルロイヤルにあった『チップシステム』は再現されていないのでご了承くださいだにょん! では、バトルロイヤル……スタート!』
ついに始まった!
まずは……作戦会議だな。
こっちの戦力はプレイヤー4、ユニゾン2だ。
ユニゾンは予定通りガー坊とゴチュウ。
ガー坊はプレイヤー相手に威嚇の鳴き声をあげることはないので、索敵を任せることは出来ない。
前までのガー坊なら……な。
「ガー坊、ゲイザーフィッシュだ」
「ガァー! ガァー!」
【ゲイザーフィッシュ】はガー坊の新装備『マルチプル・フィッシュポッド』に搭載された複数のスキル奥義のうちの1つだ。
◆マルチプル・フィッシュポッド
種類:水属性 または 機械属性ユニゾン専用
攻撃:110 魔攻:70
武器スキル:【ドクターフィッシュ】
武器奥義:【ミサイルフィッシュ】【ゲイザーフィッシュ】
【ドクターフィッシュ】
ポッドに入った治癒能力を持つ魔法魚を放ち、対象のHPを回復させる。
【ミサイルフィッシュ】
16発の魚型ミサイルを連続で発射する。
クールタイム:3分
【ゲイザーフィッシュ】
巨大なカメラアイを持つ小魚型メカ8匹を周囲にばらまく。
小魚型メカは自動で移動し、攻撃可能な対象を発見次第ユニゾンに位置を知らせる。
その後、ユニゾンは対象に対してメカを追跡させるか攻撃させるかを選択できる。
クールタイム:5分
『マルチプル・フィッシュポッド』は元々ガー坊の装備であった『ミサイルポッド』と『ガラ・ルファ・ポッド』に新しく手に入れた『デメキンポッド』を加えて進化させた装備だ。
攻撃、索敵、回復の3つの役割をこなす、まさにマルチな活躍をするポッドと言える。
【ドクターフィッシュ】は性能据え置きだ。
ガー坊は魔攻のステータスが低いのであまり回復量には期待できないが保険にはなる。
【ミサイルフィッシュ】は『ミサイルポッド』の武器奥義【8連装ミサイル】と同じ使用感だ。
撃つミサイルが16発になっているが1発1発の威力は以前のミサイルに劣るので大幅強化というわけではない。
火力的には50%アップくらいだ。
【ゲイザーフィッシュ】は8匹の索敵メカを発射する新奥義だ。
メカは勝手にウロウロして、敵を見つけ次第ガー坊が鳴き始める。
この敵というのはテキストにも書かれている通り『攻撃可能な対象』だ。
つまり、プレイヤーキルが許可されている環境ではプレイヤーにも反応してくれる。
一見とんでもなく便利な奥義に思えるが、使いこなすにはコツがいる。
まず、ガー坊は喋れない……!
敵を見つけてもその位置を正確に俺に伝えることは出来ない。
敵を見つけたガー坊はまずそっちの方を向く。
そして、威嚇の鳴き声を上げるのだが、この声の強弱で敵の位置を推測する必要がある。
大声で鳴くときは遠くに敵がいて、敵に察知されないような小さな声で鳴くときは近くにいる。
遠くの敵の場合はそのまま敵の動きをメカで追い続けるように命令して、近い場合やすでに敵がこちらの存在に気づいている時はメカを自爆させて攻撃する。
……とまあ、結構複雑な奥義なのだが、四方八方から接近してくる敵の存在を知ることが出来るのはバトロワにおいて大きなアドバンテージになる。
ガー坊の鳴き声に注意しつつ、まずは作戦会議だ。
「どう動こうか? 本選への出場条件は最後の64パーティになることだし、戦わずに生き残ることだけを考えるのも悪くないように思えるけど」
初バトロワで生き残ることの重要さは身にしみてわかっている。
あのイベントで俺は最多キルを獲得したにもかかわらず、1位は5キルのネココ、2位は0キルのサトミ、俺の最終順位は3位だった。
やたら戦闘を起こしまくってヘイトを稼ぐよりは、静かに隠れて人数が減るのを待つというのが賢い作戦だろう。
問題はみんなそう考えるってことだな……。
バトロワは時間経過とともに戦闘エリアが狭くなり、そのエリアの外側にいると継続ダメージを受け続けることになる。
あまりにも大量のパーティが狭くなった戦闘エリアになだれ込めば乱戦が起こり、運要素はさらに強くなる。
力に自信があるなら、積極的に敵の数を減らすように動くのもアリかもしれないな……。
うーん、答えが出ない!
「1つ言えることがあるとすれば……迷いながら動くのは危険ということです。吉と出るにしろ、凶と出るにしろ、パーティ内で1つ行動方針を決めておかないと空中分解してしまいます」
サトミの発言にみな静かにうなずく。
そして、俺たちが出した答えは……。
「……あの塔に立てこもるってことで決定ですね」
「ああ!」
俺が最多キルのタイトルを獲得出来た理由の一つである石造りの塔。
頑丈なので攻撃されても壊れにくく、屋上からは山全体を見渡すことが出来る。
あそこに陣取れれば生き残りつつ敵の数をガンガン減らせるのは実証済みだ。
だからこそ、多くのパーティがあの塔を目指して移動してくるだろう。
途中で敵に出くわすことはほぼ間違いない。
その場合は……出来る限り瞬時に全滅させる。
逃げはしない。背中を見せても不利になるだけだ。
自慢というわけではないが、俺の顔は知られている。
出会い頭に面食らうのは敵パーティの方だ。
その隙をついて一瞬で仕留める……!
「ガァー! ガァー!」
ガー坊が威嚇の鳴き声をあげた!
結構な大声なので敵はまだ遠いが、パーティ全体に緊張が走る。
「ここからは立ち止まって話し合うのも難しそうだ」
「ええ、64位内に入るまでは一切の油断を排除しましょう」
ガー坊が鳴いた方向を見据えて陣形を整える。
頑丈なアンヌが一番目立つ前衛に、ネココは物陰に隠れて奇襲を狙う。
ゴチュウは前衛の少し後ろで魔法攻撃、サトミは主に回復を担当。
ガー坊は俺の護衛をしつつ、状況に合わせてすべてのポジションを担当する。
そして、俺自身は後ろから射撃を行いつつ周囲を警戒する。
バトロワでは戦闘中に他パーティが乱入してくる可能性もある。
余裕をもって広い視野で戦場を見渡すのが俺の役目だ。
「いくぞ、
早くも新たなる弓の力を披露する時が来たようだ!
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