最強の章 ~予選~

Data.155 弓おじさん、最強への道

 チャリンの生放送から2週間……。

 俺たち幽霊組合は初期街に集合していた。

 最終的なメンバーは俺、ネココ、サトミ、そして……アンヌマリー!

 ネココは熟考の末、『聖鎧修道女アーマードシスター』アンヌマリー・ゴスノワールを幽霊組合に迎え入れる決断を下したのだ。


「改めてこれからよろしくお願いしますね!」


 彼女のメンバー入り自体は少し前に聞かされていたが、実際にこうやって会うのは久しぶりだ。

 メンバーは全員、ほぼソロで自己強化に努めていたからなぁ。

 もちろん俺も例外ではない……!

 みんながどれほど強くなり、どんな力を手に入れているのかは、徐々に明かされていくことだろう……!


「それにしてもこの街……人が多すぎるよ!」


 ネココがそう言うのも無理はない。

 初期街にはかつてないほどプレイヤーが集まっていた。

 最強決定戦に参加するには4人パーティを組んで事前に登録し、開催日の指定された時間にどこかの街か村に入っておけばいいはずだ。

 つまり、初期街を選ぶ理由は……愛着があるということ以外にない。

 俺単独の場合は『風雲の隠れ里』とかでもいいんだけど、4人で集まるとなると、やっぱり初期街が無難になる。

 それは他のプレイヤーにとっても変わらないだろう。


 あと、チャリンとの最終決戦の時と同様に噴水広場ではイベントを観戦することが出来るようになっている。

 イベントには参加せず、戦いを見ることを楽しむプレイヤーも初期街に集まるわけだ。


 観戦と言えば、今回のイベントは初期街だけでなく家庭のPCや携帯端末でも視聴することが出来るらしい。

 その場合は有料チャンネルへの登録が必要だが、カメラを好きな視点に切り替えられたり、見たいプレイヤーの視点だけを追い続けることが出来たり、イベント終了後もアーカイブを何度も見ることが出来たりするようだ。

 運営も観戦というコンテンツに本腰を入れて来たなぁ。

 まあ、1億もリアルマネーを放出するのだから当然と言えば当然だ。


 そうそう、チャリン戦に関連してもう1つ大事な情報がある。

 今回のイベントもチャリン戦同様に味方に攻撃が当たるルールになっている。

 よりリアルな戦闘を演出するだけではなく、強力かつ広範囲の奥義を縛る目的でも採用されたこのルールは、チャリン自身が生放送で語ることはなく、その後に追加されたヘルプのページに記載されていた。


 前もチャリンはこのルールを言うのを忘れていた気がする。

 おそらく、何か相性が悪いのだろう。

 AIにだって人格があるし、覚えにくいことの1つや2つあるさ。

 俺の場合は片手で数えきれないくらい何か忘れている気がする。

 ……それは老化か?


 いや、やめておこう。

 最強を決める戦いの前にそんな盛り下がることを考えるのは……!

 とにかく前向きなことを考えてその時を待つんだ……!


「……優勝できますかね」


 サトミがぽつりと呟いた。


「いけるんじゃないかな」


 俺はポロっと言葉をこぼした。

 完全に無意識で、力の抜けた一言だった。

 優勝は手の届く位置にあると思っている人間の気楽な言葉だ。

 でも、俺を含めた仲間たちを勇気づけるのには十分な言葉だったらしい。


「そうそう、いけるいけるっ!」


「とにかく立ちふさがる敵をぶっ倒せばそのうち優勝ですよ!」


 ネココとアンヌで盛り上がる。

 この2人はともに冒険をしただけあってかなり打ち解けているようだ。


「そうですね。僕としたことが余計なことを聞きました」


「いや、余計なんかじゃないさ。当然の疑問に、当然の答えを返したまでだよ。俺たちは目標を再確認する必要があった」


 無意識に出た言葉だけど、ここは意味深な言葉にしておこう。

 みんなの表情も幾分かほぐれている。

 代わりに俺の顔が引きつっていないか心配だ。


「私たち幽霊組合ゴーストギルドが参加した以上、優勝しか目指さない! みんな、最後の最後まで勝つための戦いを続けるのよ!」


 ネココが音頭をとった後、全員で『おー!』とこぶしを突き上げる。


 若い子に混じって何をやっているのかと長井弓児なら思うだろう。

 だが、俺はキュージィだ。

 夢を追いかける若者たちと肩を並べて戦うことに恥じらいなどあまり感じない。

 これから始まる戦いは、トッププレイヤーの1人『キュージィ』として戦う。

 そう思うことで何が変わるわけでもないが、俺には必要なことに思えた。


『ぴんぽんぱんぽーん! イベント『第1回NSO最強パーティ決定戦』予選開始時刻となりましたので、参加プレイヤーの皆さんをワープさせるにょん!』


 チャリンの声が初期街に響き渡る。

 次の瞬間、俺たちは見知らぬ空間にワープしていた。

 空には星座が輝き、足元は霧で覆われている不思議空間だ。


『ようこそ! 最強の座を目指すプレイヤーの皆さん! 雇われ司会兼ゲーム実況者兼人工知能アイドルのチャリンだにょん! 自己紹介はこれくらいにして、これからルールの再確認を行うにょん!』


 チャリンがルールを読み上げていく。

 再確認はプレイヤーに対する優しさであり、クレームに対するけん制でもある。

 今回はちゃんと味方の攻撃についても説明された。

 それ以外には特に新情報もない、本当に再確認だけだ。


 そもそも、どうやって本選出場者を決めるのかという説明はまだなのだろうか……と思った矢先、チャリンの説明が終わった。


「では、皆さんを戦いの舞台へとお連れするにょん! 最後の疑問は……フィールドを見た瞬間解消される人もいると思うにょん!」


 再びワープし、景色が変わる。

 最初はそこがどこかわからなかった。

 しかし、ある建物を見た瞬間……頭の中に電流が走った。


「バトロワをやったフィールドだ……!」


 山の上にそびえたつ石造りの塔……!

 だだっ広い草原……! 間違いない……!

 ここは俺が最初に参加したイベント『アンダーテンバトルロイヤル』の舞台となったフィールドだ!

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