Data.158 弓おじさん、スナイパー
「……いたっ! 10時の方向、木の上に1人!」
「了解!」
「遠いけど当てられそう?」
「もちろん」
塔を目指す道中、多くのプレイヤーと遭遇する。
パーティの方針としては見つけた敵はすべて狩りたいところなのだが、遠いところにいる敵を追いかけてまで全滅させるのはリスクが大きい。
なので、遠くの敵は俺が狙撃で仕留める。
それもパーティ全員を倒さず、見えた敵だけを倒す。
4人パーティが当然の環境では味方を1人失うだけでも大きな損失だ。
パーティの機能を十分削いでいると言える。
「……風神裂空」
風は目に見えない。
その身で風の存在を感じるのは、すでに肌に触れた後だ。
【裂空】の進化奥義【風神裂空】はまさに風の矢。
気づいた時には撃ち抜かれている超高速の矢……!
【
風神の力を宿した超高速の矢を放つ。貫通力に優れる。
相手の防御を半分にしてダメージ計算を行う。
クールタイム:5分
名前がカッコよくなっただけではなく、俺にとって待望の効果が追加されている。
それは相手の防御ステータスを半分にしてダメージ計算を行う『半防御貫通』!
これで頭を撃ち抜かれれば、よほど防御にステータスを振っているプレイヤーでもない限り即死は免れない……!
デメリットはクールタイムの増加、速さが増したことによる制御の難しさ、そして攻撃判定がさらに細くなったことだ。
よりヘッドショット向けの奥義になると同時に、外した時のリスクも大きくなっている。
使い手の腕の見せ所ってわけだ。
これほど強力な奥義にどうやって進化させたのかというと……特に何もしていない。
そもそも【裂空】は風雲装備をすべて装備した特典として獲得した奥義だ。
その奥義を進化させるには、やはり風雲装備を進化させる必要があった。
具体的にいうと、すべての風雲装備を強化または進化させて装備の性能をアップさせれば良かった。
単純に装備を強くしようと動いていたら、知らず知らずのうちに進化の条件を満たしていたというわけだな。
◆ステータス
名前:キュージィ
職業:
Lv:22/50
HP:220/220(+60)
MP:240/240(+100)
攻撃:455(+365)
防御:270(+230)
魔攻:40
魔防:190(+160)
速度:140(+90)
星域射程:1060(+330)
◆装備
頭部:風流の蛇襟巻
右手:機神弓・天風叢雲
左手:(機神弓・天風叢雲)
両腕:雲穿の弓懸G
胴体:風雲の陣羽織
脚部:風受の武者袴
両足:羊雲渡の足袋
装飾:〈海弓術・七の型〉、〈鏡写しのミラアリス〉、〈破魔弓術・四印〉
……振り返ってみれば、本当に装備が強くなった。
極振りプレイにもかかわらず、情けないステータスになっていないのは装備のおかげだ。
その極振りしている『星域射程』も1000の大台を超えている。
『星域射程』の効果で伸びる射程が半減しているので、実質500メートルくらいしか射程がないが……いや、500メートルくらいしかってなんだ。基準が狂っているぞ……。
【真・不動狙撃の構え】を発動したら射程が3倍になるわけだから、普通に『
まあ、なかなか1キロ先まで射線が通っているポジションがないわけだが、もしそんな場所に陣取ることが出来ればまさに敵ナシ……。
「……移動しましょう、キュージィさん。さっき撃ち抜いた人のパーティは、反撃よりも撤退を選択したようです」
「了解」
まあ、姿の見えない敵に狙撃されたら逃げるのが正解だろう。
たまに武器を振り回して矢が飛んできた方向に突っ込んでくるパワフルなプレイヤーもいるけど、そういう人たちは良いカモになる。
「それにしても、結構あの塔って遠いね。あ、おやじギャグじゃなくて……」
「あの時のバトロワより参加人数が大幅に増えているわけですから、マップも大き目にリファインされているのでしょう。塔へと通じる山もずいぶんと高くなっています」
「なるほど、道理で移動に時間がかかるわけだ。こりゃ、すでに塔に陣取ったパーティがいる可能性もあるなぁ」
「ええ、キュージィさんにとってはあの時と逆の立場での戦いになるかもしれません。僕は隠れてただけですけど」
「私の場合は前の再現になるね~。気づかれないように敵を仕留めるって本当に楽しい! 驚く顔を見るのが最高!」
「みなさんが羨ましいです~。私はそのバトロワに参加していませんでしたから」
無駄な緊張がほぐれて会話がはずみ始める。
この状態を油断していると思う人もいるだろう。
しかし、俺たちは全員違う方向を向いて索敵をしながら、真顔でおしゃべりをしている。
この異様な光景は、高まった集中力の表れだ。
「……後ろに来てるねぇ。気づかれてないけど結構近いよ」
「敵が密集しているうちに僕とアンヌさんで殲滅します。キュージィさん、フラッシュお願いできますか?」
「了解だ」
近距離と中距離の敵に対してはサトミとアンヌが対応する。
俺は射程による狙撃、ネココは隠密行動による暗殺を得意としている反面、攻撃や魔攻にちゃんと強化ポイントを振っているプレイヤーには火力で及ばない。
なので通常の戦闘では火力担当をアンヌとサトミに任せ、俺とネココはサポートにまわる。
「ガトリング・フラッシュアロー……!」
密集している敵パーティに閃光弾ならぬ閃光矢を撃ち込む。
ダメージはないが、しばらく視界を奪うことが出来る。
「奥義・
「奥義・
どちらも隕石のように巨大な物体を天から落とす奥義だ。
落ちてくるまでに少し隙があるので、そのまま使うと回避されやすいが、今は閃光で敵の視界を奪っている。
結果、敵は逃げることよりも防御スキルで身を固める選択をした。
発動が遅い分、2つの奥義の威力は高い。
敵パーティは全滅とはいかずとも、傷を負った状態で地面に転がった。
そこを俺とネココが素早く仕留めていく。
基本的な役割分担しかしていないのに、このパーティは見事に機能している。
完全に噛み合った歯車という感じだ。
この調子ならたとえ敵がいても塔の制圧は容易……だと思っていた。
『彼ら』が姿を現すまでは。
「フハハハハ! このフィールド! そして、この塔で私たちが再び出会うとは……もはや運命! 今度こそ忘れたとは言わせませんよキュージィさん!」
ついにたどり着いた石造りの塔。
そのてっぺんで待ち受けていたのは……。
「うーん……えっと、マッドスライム! マッドスライムの……スラ……スライムマン!」
「正解! 良かった! 流石に2度も戦えば名前くらいは覚えてもらえた! ちょっと悩みすぎだと思いますけど、そこには目をつぶりましょう!」
『アンダー
ゲーム荒らしのプロゲーマーチーム『マッドスライム』に所属していて、ゴーストフロートではリベンジという名の奇襲を受けた。
正直、結構な面白人間なので気が緩むが、その実力は決して侮れない。
なにより向こうは一方的に因縁を感じている。
本選も賞金も栄光も何もかも投げ捨てて、俺だけを倒しに来る可能性もある。
感情だけで行われる自爆覚悟の攻撃なんてご遠慮願いたい!
ある意味、バトロワでは一番出会いたくない敵と遭遇してしまった……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます