Data.150 弓おじさん、憤怒のヒヒ

 ヒヒたちの数は8匹で間違いない。

 冷静に観察すればそれぞれ見た目とか武器が微妙に違う。

 中には魔法を使ってくる個体も存在する。

 サトミのユニゾンであるゴチュウ……種族名『マジックモンキー』と何か関係があるのだろうか?

 どちらにせよ、最強パーティ決定戦にはサトミ以外にもユニゾントレーナーがいて、ユニゾンとの戦闘になる可能性もある。

 知能の高いモンスターも相手に出来るようになっておかないとな……!


「ガー坊! 黒子ガイル! 1体を集中的に狙って数を減らしてくれ!」


「ガァー! ガァー!」


 分身1体につきヒヒ1体を相手にさせても性能的に勝てない。

 ここはガー坊と5体の分身を一緒に行動させて、ヒヒを各個撃破していく。

 集団戦ではとにかく敵の数を減らすことを心掛けるべきだ。


 もちろん敵もそれを理解してグループで行動を始める。

 グループで密集してくれれば、こちらの奥義の効果も上がる……!


「サンダー・ショットガンアロー!」


 拡散する矢がヒヒの群れを散らす。

 流石は野生動物、反射神経は俺の比じゃないな。

 だが、こうやって散り散りになったところをガー坊は見逃さない。

 彼もまた進化して知能が数段上がっている!


「ガァー! ガァー!」


 分身たちの【赤い閃光】と本体の【赤い流星Ⅱ】がヒヒの1体に炸裂する。

 1度のチャンスで仕留めきるために奥義を使用する……良い判断だ。

 これで残ったヒヒは7体だ。


「この調子でいくぞ、ガー坊!」




 ◆ ◆ ◆




「よーし、よくやったぞガー坊!」


「ガァー! ガァー!」


 数を減らすごとに次の標的を仕留めるのは容易になる。

 1体のヒヒを仕留めた後、残りのヒヒを全滅させるのにそう時間はかからなかった。

 まあ、こっちも数はそこまで負けてなかったからなぁ。

 【黒子ガイル】はとんでもない強奥義だ。

 人生において『戦いは数』という言葉がここまで身に染みたのは初めてだ。

 だからこそ、甘えすぎてぬるい戦い方が身につかないか心配になる。

 いやぁでも、楽できるって素晴らしいからなぁ。

 サトミならわかってくれると思うけど……。


 ヒィィィイヒィィィイヒィヒィィィィィィ!!!


 ……おいおい、まだ別の群れがいたのか?

 【黒子ガイル】はクールタイムだし、早くも甘えられない戦いの時か?

 クロスボウを構えて周囲を警戒する。

 鳴き声はさっきのヒヒたちよりも大きく、威嚇というより怒っているように感じる。

 仲間が倒されたことを理解しているのか……?

 やたら声がこだまして、位置がつかめない……。


「ガァー! ガァー!」


 ガー坊が独自の判断で【ブルーオーシャンスフィア】を発動し、俺をその中にすっぽりと収める。

 同時に大火球が飛来し、水の球体とぶつかる。

 【Bオーシャンスフィア】の水が一瞬で蒸発したものの、大火球もまた消火された。

 俺にダメージはなかったが、【Bオーシャンスフィア】を一発でかき消す火力は先ほどのヒヒと同じモンスターとは思えない。

 おそらく……ボスクラス!


「爆裂空!」


 狙うのはそのボスが足場にして飛び跳ねまくっている木だ。

 着地先の木を失ったことで、ボスは勢いよく地面に突っ込み転がった。


 ヒ、ヒヒヒ……ッ!


 笑っているのか、怒っているのか。

 そのヒヒ……『沸沸フツフツ狒狒ヒヒ』は顔に血管を浮き上がらせて牙をむいた。

 先ほどのヒヒよりも赤さを増した体毛は、本物の炎のように揺らめている。

 おそらく高い体温のせいでああなっているんだ。

 お好み焼きの上で踊るかつお節のように……。


「トライデント・ショットガンアロー!」


 熱々ならば、冷ましてやるまでだ。

 海の力を持つ【トライデントアロー】ならば……!


「ガァー! ガァー!」


 ガー坊も聖なる水を飛ばすスキル【ホーリースプラッシュ】で応戦する。

 冷たい水で沸々ふつふつと湧きあがる怒りを消火するんだ……!


 しかし、ヒヒは武器である巨大な斧を地面に打ち付けて爆発を起こし、俺たちのスキルを消し飛ばしてしまった。

 水は弱点ではあるが、それを理解して触れないように打ち消す力と知能はあるってことだな。

 ヒヒだけあって身軽だし、自由に暴れさせているうちは倒せないだろう。

 かといって炎の敵に【ウェブクラウドアロー】は無意味。

 【南十字星型弩砲サザンクロスバリスタ】はすばしっこい敵が天敵で、【流星弓】を使ってガー坊を引っ込めることも出来ない。

 【矢の嵐】は『黒風暗雲弓』を進化のために預けているので使えない。


 【ショットガンアロー】は拡散するので動いているヒヒにカスってダメージを与えてくれる。

 だが、この『沸沸フツフツ狒狒ヒヒ』はダメージを負うごとに怒って性能が上がるタイプのボス。

 下手にちまちまダメージを与えてもこっちが追い詰められるだけだ。


 とにかく、【黒子ガイル】のクールタイムが終わるのを待とう。

 再びあの奥義が使えるようになれば、俺とガー坊の新連携を試すことが出来る。

 前衛が強くなれば後衛も強くなる……。

 ガー坊の進化が俺に本来の戦法を思い出させてくれた。


 敵が反撃できない距離から狙い撃ち一方的に倒す……!

 【黒子ガイル】と機神風穴の冒険で手に入れた新スキルがあれば、そのスタイルが再び蘇る!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る