Data.149 弓おじさん、灼熱の森林

 ぼよんぼよんぼよんぼよんっ!


 ええい、また変なのが出てきた……!

 見た目はファンタジーにおける雑魚敵の王道スライムなのだが、その戦闘方法は一味違う。

 決して接近してくることはなく、スナイパーのごとく体液を飛ばしてくる。

 その名も『スライパー』! 俺と同じタイプの敵だ!

 ただ遠距離からの撃ち合いになるなら負けはしないが、スライパーはその弾力のある体を使って木から木へとぼよんぼよん跳ねながら狙撃を行うからこちらは狙いづらいことこの上ない。

 それでいてスライパーの方の命中精度はバカにならないからな……。


「まあ、良い対人戦の訓練になる……!」


 矢をモンスターに当てるのとプレイヤーに当てるのではワケが違う。

 熟練のプレイヤーともなれば回避能力もずば抜けている。

 ぼよんぼよん跳ねるだけのスライムくらいには百発百中といきたいところだ。


「サンダーアロー!」


 バチィっとスライムに雷の矢がヒットする。

 物理攻撃にはまあまあ耐性があるスライムも火や雷には弱い。

 クリーンヒットすれば一撃で撃破できるのでなかなか爽快感がある。


 だが、モンスターをスムーズに倒せたからといって油断できないのが『リボリボ原生林』だ。

 このフィールドは……フィールド自体が牙をむく……!


 パァァァンッ! パァァァンッ!


「くぅ……! またかっ!」


 地面に生えている白いキノコ『閃光茸せんこうだけ』は刺激を与えるとまばゆく発光する。

 その光の強さは一瞬とはいえ視界のすべてが奪われるレベルだ。

 戦闘中に踏んでしまったら大変なことになる。

 光にダメージがないことが救いだな。まさに『閃光だけ』……。


 ……それはさておき、この『閃光茸』は手で掴んで引っこ抜くことでアイテムとして回収することが出来る。

 『再生薬』に必要な素材もこのようにフィールドに生えている物を手で引っこ抜いてアイテム化することにより集めていく。

 まあ、『閃光茸』は『再生薬』を作るための素材ではないのだが、なんだか邪魔されっぱなしも癪なので見つけ次第回収しまくっている。

 大量に生えているので集めても他のプレイヤーの迷惑になることもないだろう。


「えっと、あと必要な素材は……ボーンボーンキノコか」


 リボリボとかボーンボーンとか愉快な原生林だな。

 意味的には合わせて再生リボーンってことなんだろうけど、この素材だけなかなか見つからない。

 名前的にこのフィールドの代名詞たる素材っぽいのに。


「もっと奥に進んでみるか……」


 時間に余裕はあるし、出てくる敵モンスターも無理せず倒せるレベルだ。

 ボーンボーンキノコを求めて、俺は原生林の奥へと足を踏み入れた……。




 ◆ ◆ ◆




「灼熱の森林……命火密林みょうかみつりん


 一部が焼け焦げた看板にはそう書かれていた。

 どうやらここから先は少し環境が変わるらしい。

 木や草花に赤が目立つようになり、空気もむしむしと暑い。

 出てくるモンスターも赤くなり、炎による攻撃が増え始める。

 同時にこちらの火属性攻撃に耐性を持つようになった。

 主力の【バーニングアロー】に頼れなくなるとはな……。


「でも、この先にボーンボーンキノコがありそうな気がする」


 赤色からは強い生命力を感じる。

 きっと俺の求めるキノコも体を巡る血のように赤いのだろう。

 油断せずに先に進もう。


 ……なんか悪趣味なオブジェがぽつぽつ設置されてるなぁ。

 トラップではないんだけど、ドクロや血文字を見ると気が滅入る。

 未開のジャングルに住む食人族……なんて安っぽい妄想が頭の中を駆け巡ってしまう。


 キリリリリ……シュッ!


「んっ……!?」


 この音は俺が矢を撃った音ではない!

 反射的に横に飛びのくと、元いた地面にストンッと矢が刺さった。

 狙われている……それも弓矢で!

 でも、ここはヴァーサスフィールドではないからプレイヤーがプレイヤーを攻撃することは出来ない。

 つまり、弓矢を使うモンスターがいる……?


 キリリリリ……シュッ!


 音のする方向を見ると、人影が木の後ろに隠れるのが見えた。

 やはりプレイヤーなのか?

 撃った後にすぐ身を隠すのは相当考えられた動きだ。


 ひゅん! ひゅんひゅん!


 今度は投石だと……!?

 しかも同時にいくつもだ!

 複数の敵に狙われているのは間違いないが、やけに数が多い気がする。

 少なくとも4人パーティではこの同時攻撃は不可能。

 5、6……いや8人はいるか?


「とりあえず、確かめてみるか……!」


 俺は投石の1つにあえて当たってみた。

 じんわりとした軽い痛みとダメージが俺の体に伝わる。

 ……やはりモンスターだ!


「封魔縛陣、3連展開!」


 上に乗った敵の動きを封じる魔法陣を敵が移動しているルート上に設置する。

 標的は……すぐに引っかかった。


 ヒィィィイヒィィィイヒィヒィィィィィィ!!!


 それは猿……いや、ヒヒだった!

 全身の体毛が赤く、まるで燃え盛る炎のようだ。

 狂ったような声を上げ、魔法陣から逃れようとしている。

 逃げられる前に仕留めてしまおう!


「サンダー……! うわっ!?」


 仲間のヒヒたちから妨害を受けた!

 俺が攻撃を避けているうちに他の仲間が魔法陣の設置された地面をぶっ壊し、引っかかった仲間を救出していた。

 こいつら……仲間意識がある!

 危険な状態の仲間を助けるために援護と救出で役割を分け、同時に行動していた。

 今までのモンスターより知能がずっと高い。

 だからこそ……。


「対パーティ戦の良い練習になりそうだ……!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る