Data.151 弓おじさん、火に油

 ヒィィィイヒィィィイヒィヒィィィィィィ!!!


 ヒヒが複数の大火球を放つ。

 近距離、遠距離ともに火力が出せる良いボスモンスターだ。

 完成度が高くて隙がない。

 そう、強敵ほど向こうから隙を晒してはくれない。

 だから、こっちで隙を作らせてもらう!


「ガー坊! 黒子ガイル!」


 クールタイムを終えた奥義を即発動。

 【ホーリースプラッシュ】で大火球を消火する。

 周囲に水蒸気が発生し、俺とガー坊の姿を隠す……。

 さあ、ここからだ!


「ガー坊! オイルショット!」


 機神風穴で手に入れた素材アイテム『機械油』を使うことで獲得した新スキル。

 ガー坊と分身たちが口から茶色いオイルを吐き出す。

 ロボットたちがギャグでやるような光景だが、このゲームにおいては立派な戦闘スキルだ。

 なんといっても、このオイルはぬるぬるしていてよく滑る……!

 足に付着すればまともに立つことは出来ない。

 つまり、走ったり跳んだりして俺との距離を詰めることが出来なくなる!

 そうなればこちらは遠くから一方的に攻撃することが可能になるというわけだ!


 ただ、これだとこのスキルは強すぎるので、ちゃんと弱点も存在している。

 まず、このオイルは速乾性だ。数秒で乾いて滑らなくなる。

 ダメージも発生しない。完全に妨害専用のスキルだ。

 そして、空を飛べる敵には無力。接地しなければ滑ることもないからな……。


 まあ、こうして事実を列挙すると穴の多い作戦に思えるが、案外そうでもないのだ。

 速乾性ならば分身と協力して常にオイルを浴びせまくればいい。

 さらにオイルは発火するので、浴びている敵に対する火属性攻撃の威力が上がる。

 主力スキルである【バーニングアロー】の火力を底上げできるのだ。

 空を飛べる敵には無力と言っても、そもそも弓矢が空を飛ぶ相手に強い。

 オイルを恐れて空を飛ぶ相手には特効を乗せた矢を撃ち込んでやろう。


 ふふふ……完ぺきとは言わないが、いろいろと噛み合った作戦だ。

 この作戦を『オイルパニック作戦』と名付けよう……!


 さあ、水蒸気を隠れ蓑にしたことによりヒヒにオイルを当てることに成功した。

 ここからヒヒは滑り続ける。俺はそれを遠く離れた位置から狙い撃てば……。


 ヒィィィィィィーーーーーーーーー!!?


「……あれぇ!?」


 なんか攻撃を加える前から『沸沸フツフツ狒狒ヒヒ』が大炎上してるんだけど……!?

 ガー坊たちがスキルか奥義で追撃したからこうなったのか……?

 いや、違う! これはヒヒの怒りの炎がオイルに引火したんだ!

 いまにも発火しそうなほど怒っていたヒヒに、トドメの油を注いでしまったんだ!


 要するに……半分自爆!

 新戦法を試すまでもなくボスが憤死ふんししてしまった……。

 ま、まあ、この戦法はいろんな敵に試してみる予定だったし、気にすることはない。

 それより、敵の火属性スキルにあえて【オイルショット】を撃ち込んで暴発させるみたいな使い方も出来ると学べたのが大きい。

 スキルの応用を知ることもまた成長だ。


「さて、ヒヒのドロップアイテムは……獄炎怒髪ごくえんどはつか。なんとも暑苦しい毛だ……」


 ゆらゆら揺らめく真っ赤な毛をアイテムボックスにしまい、再生薬作りに必要な最後の素材『ボーンボーンキノコ』を探す。

 いくら強い敵を倒しても、この素材を手に入れられなかったら今回の冒険は失敗だからな。

 群れのボスを倒した今、ヒヒたちは出現すらしなくなった。

 この隙にさっさと見つけて、帰還したいものだが……。


「……あ! これか! 案外小さくて、赤いんだなぁ」


 真紅のハート型キノコが樹木の近くに生えているのを発見した。

 これが『ボーンボーンキノコ』で間違いなさそうだ。

 でも、1つじゃ足りないからもっと集めないといけない。

 何か生えている場所に法則性はないだろうか……。


「……ん? さっきボーンボーンキノコが近くに生えていた木は、葉っぱが何枚か熱で燃えていた。でも、こっちの木の葉っぱは燃えそうなほど赤いけど、実際に燃えているわけじゃない。より熱い木の近くにボーンボーンキノコは生えるのでは……?」


 俺の推理は当たった。

 木の葉の全体が燃えているようなとんでもない木の下には、いくつもの『ボーンボーンキノコ』が生えていた。

 1つ1つ手で採取し、アイテムボックスにしまっていく。

 よし、これで再生薬を作るための材料はすべて揃った。

 後は職人さんに再生薬を作ってもらって、それ以降は再生薬が店売りされる。

 店売りの再生薬は割高らしいが、こっちはお金が余ってるから気にしない。

 とにかく、やることはやったのでこの暑苦しくてうるさい……生命力にあふれる密林を抜けよう……!


「いこう、ガー坊……。もともと海に住んでたお前にこの暑さは辛いだろうなぁ……。もう帰るからな……」


「ガァー! ガァー!」


 ガー坊は【ブルーオーシャンスフィア】を発動し、俺をその中にすっぽりと収めた。

 発動したばかりの【Bオーシャンスフィア】の水は非常に冷たく、気分がスッキリする。

 さらにこの状態のガー坊は地上を4足歩行するよりも速い。

 俺が上に乗って移動すれば、涼しく素早く密林を抜けられるというわけだ。


 冒険の最中は地面に生えているキノコや植物を探す必要があったのであえて使わなかった。

 なので、俺もすっかりこの移動方法を忘れていた。


「ありがとうガー坊。本当に助かる!」


「ガァー! ガァー!」


 ガー坊の背に乗って、俺は灼熱の密林を後にした。

 そろそろウーさんに依頼していた3つの風雲装備の進化と強化が完了するし、最強パーティ決定戦に向けた準備は着々と整いつつある!

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