Data.148 弓おじさん、秘薬を求めて

 メールを送る相手にネココを選ばなかったのは、『幽霊組合ゴーストギルド』の新メンバー探しが忙しそうだと思ったからだ。

 それに情報という面ではサトミの方が物知りそうなイメージがある。

 職人たちに仕事の依頼を振り分けつつメールを待つこと数分、返ってきた文面は以下のようなものだった。


 ――そんなにかしこまった文章じゃなくていいですよ。


 俺のビジネスメールは一行でやんわりとあしらわれた。

 まあ、こっちも半分ネタで送ったから凹んだりはしない。

 問題は質問への答えの方だ。


 なになに……まずサトミはまだ『再生薬』の作り方を知らなかったことに驚いているようだ。

 やっぱり、普通のプレイヤーは真っ先に確保しに動くのだろうなぁ……。

 暗にあなたは普通じゃないと言われたようなものだ。

 でも、少年の心を持っている俺は『普通』と言われるよりも『普通じゃない』と言われる方がアウトロー気取れてカッコいい……なんて思ってしまう。


 ……うんうん、早く本文を読もう。

 『再生薬』は思っていた通り素材を集めて職人に依頼することで作れるらしい。

 職人は初期街などにいる通常の職人でよくて、作るまでに時間もかからないのですぐ受け取れる。

 また、一度『再生薬』を作った後は、ほぼすべての店でお金による購入が可能になるとのことだ。

 必要になったからと言って毎度毎度素材を集める必要はないわけだな。

 その分、普通の回復アイテムよりは割高らしいが、便利さをお金で買うと思えば問題ない。


 それで肝心の素材だが……各地に散らばっているらしい。

 難易度の低いダンジョンやフィールドでも手に入るから、運営としては再生薬をエサにいろんな場所を冒険してもらいたいのだろう。

 逆に1つのダンジョンやフィールドですべての必要素材を手に入れる方法もあるにはある。


「当然そっちは高難易度ってわけか……」


 サトミのオススメは南に広がる『リボリボ原生林』。

 ここを探索すれば『再生薬』に必要なすべての素材が手に入るうえ、現在地のサバンナからも非常に近い。

 また、奇妙奇天烈なモンスターが多くて非常に愉快らしい。

 ……最後の部分は不安要素な気がするが、それを除けば俺にとっておあつらえ向きの狩場ではある。


 サトミにお礼のメールを送り、今日はログアウトしよう。

 集中して装備を選んだ反動がドッと押し寄せてきた……。




 ◆ ◆ ◆




 翌日、俺はサトミに教えてもらった『リボリボ原生林』に来て……。


 ウキャキャキャキャキャーーーーーーアッ!!

 ヒィィィイヒィィィイヒィヒィィィィィィ!!!

 ゲゴゲゴゲゴ……ゲロゲロゲェ……

 アホ、アホホ、アホアホアホ……アホ!


「入る前から酷い……」


 謎の動物の鳴き声が外まで聞こえてくる!

 ツタの絡まった金網に有刺鉄線、錆びた看板には警告の赤文字……。

 パッと見て聞いただけでここが危険区域だということが伝わってくる。

 一体どんな人食い怪物が棲んでいるのか……。


 でも、ヴァーサスフィールドみたいな特殊ルールのある場所ではないようだ。

 以前の経験から、俺は看板をよく読むようになっているぞ……!


「入口らしきものはないし、有刺鉄線が途切れているところから入るか」


 金網をよじ登って原生林に足を踏み入れる。

 同時に怪鳥が形容できない鳴き声をあげながら飛び去った。

 ここのモンスターたちは相当感覚が鋭いようだ。

 見つからずに進むのは不可能だろう。

 ならば、戦うことを前提に進むまでだ。


 ビィィィィィィ………… 


 謎の鳴き声が接近してくる。

 聞いても何の動物がモチーフかまるで浮かんでこない。


「わからない物からは逃げるのが正解だ……!」


 俺が駆け出した時、ソイツはすでに背後にまで迫って来ていた。


 ビィィィィィィィィィーーーーーー!!


 鳴き声こそめちゃくちゃだが、見た目はわかりやすい……!

 ソイツはデカいメガネザルのようなモンスターだった。

 その名も『メカラビームザル』!

 つまり、やってくる攻撃は……!


 ビィィィィィィィィィーーーーーー!!


「やっぱり目からビームかい!」


 ピンク色の光線がバンバン俺に飛んでくる!

 大きな眼をしているだけあって結構な射程と命中精度だ……!

 あとサルだけあってスゴイ身軽だ!

 逃げ切るのは得策じゃないし、隠れるのも無理だろう。

 攻撃されながら反撃する!


「頼むぞ! ショットクロスボウR!」


 ◆ショットクロスボウR

 種類:片手武器<クロスボウ> 攻撃:50 射程:25

 武器奥義:【ショットガンアロー】


 ボウボウでもクロスボウ!

 しかもアールタイプだ!

 Rは『速い』を意味するRapidラピッドの略らしいが、読みはアールが正しい。


 Rタイプのクロスボウは片手装備だから、両方の手に1つずつ装備することで二刀流が可能だ。

 この場合でも今までの感覚でスキル奥義を使うことが出来るが、2つ持っているからといって1つの奥義を2つにすることは出来ない。

 例えば【裂空】を発動したら、どちらかのクロスボウから1発だけ放たれる。


「さて、当たるか……!?」


 サルに向けて引き金を引く。

 シュッと飛んでいった矢はサルの近くをかすめた。


「むぅ……当てられないわけじゃないけど、普通の弓よりしっくりこないな」


 慣れの差もあるだろう。

 でも、それにしても合わない感じがする……。

 もう少し試してみるか。


 シュッ! シュッ! シュッ! シュッ!


 スキルを交えつつ連射しまくる。

 クロスボウは本来弓よりも威力が高い代わりに連射が出来ない武器だ。

 しかしRタイプは真逆の性質を持っている。

 いうなれば、銃と弓を組み合わせたような感じだ。

 手軽に扱えてパンパン撃てる分、威力が通常の弓より低い。

 また、射程も弓やノーマルなクロスボウに比べて短い。


 性能を比較すると……。

 威力はクロスボウ > 弓 > Rタイプ。

 射程は弓 > クロスボウ > Rタイプ。

 連射はRタイプ > 弓 > クロスボウ……といった感じだ。


 こう並べるとRタイプだけ弱そうに感じるが、連射速度は本当にずば抜けているし、自動かつ無限に矢が装填されるから、本当にトリガーを引いているだけで攻撃ができる。

 なので、まあまあバランスはとれていると思う。


 ただ、なぜか命中率は下がっているな……。

 やはり俺には普通の弓の方が向いているのかもしれない。


「バーニング・ショットガンアロー!」


 散弾のような細かい矢を撃ち出す【ショットガンアロー】が『ショットクロスボウR』の武器奥義だ。

 クールタイムは20秒と極端に短い代わりに射程も短くなり、敵に接近しないと威力が出ない。

 俺の場合は射程をかなり伸ばしているので、離れた位置からでもそこそこ威力が出て使いやすい。

 ただ、切り札としては【弓時雨】から続く矢を連射する奥義たちと比較して見劣りするのも確かだ。

 状況に応じた武器の切り替えが大事になる。


 メカラビームザルとの射撃戦を制し、ドロップアイテムが回収される。

 さて、次のモンスターは……っと、危ない危ない!

 今回の目的は素材アイテムの収集だ。

 戦ってばかりでは意味がない。

 サトミのメールを読み直し、俺は奇怪な野獣の森の探索を始めた。

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