Data.147 弓おじさん、叢雲を呼ぶ刃
「……案外、頭が減ってからも厄介だったな」
機械偽神ヤマタノオロチは無事撃破した。
頭が半減してからというもの、連携など考えずに暴れ始めるから手を焼いた。
時には統率の取れた連携攻撃より、何も考えずに暴れる方が強かったりするよなぁ。
ヤマタノオロチの場合は8本の頭がバラバラに動いた方が強かった気がする。
1つはビームを撃ち、1つはミサイルを撃ち、1つは噛みつく……。
うーん、想像するだけでも厄介だ。
でもまあ勝ったので良し!
回収したドロップアイテムを確認しつつエレベーターで帰ろう。
「えっと……一番レアそうなのは『機械刃・
元ネタの神話でも倒したヤマタノオロチから『天叢雲剣』がドロップしていたので、こっちのヤマタノオロチからもそれに関係するアイテムが出てくるとは思っていたが、これはなかなか直球だな。
でも、俺は弓使いだから剣は……あれ?
「これ、素材アイテムだな。刃だけで持ち手がついてないし、剣じゃないんだ」
ボスモンスターが強力な武器をそのまま落とすことは少ない。
プレイヤーごとに使っている武器は違うのだから、素材のままの方がいろいろと都合がいいからだ。
風雲竜みたいな特別なモンスターでも武器は落とさず、その後立ち寄った『風雲の隠れ里』で弓を受け取った。
例外はさほどレアでもない武器の場合だ。
序盤の雑魚敵でしかないクモ型モンスターが『スパイダーシューター』を落としたように、普通の武器ならモンスターからもドロップする。
そういう武器でも素材を使って進化させれば強くなるので、むげに扱ってはいけない。
自分が使わない武器の場合は、売ってお金にもできる。
「叢雲……雲か。俺の風雲装備と相性バッチリで、弓がめっちゃ強くなれば万々歳なんだけどなぁ~」
何気なくつぶやいた言葉が現実になるとは、この時の俺はまったく……いや、7割くらい期待していた。
◆ ◆ ◆
「
地下機械街マシヌシュタットに戻ってきた俺は、凄腕職人のオーさんの元を訪ねていた。
女性型受付アンドロイドさんに見せてもらった『機械刃・
この素材は、俺の弓をさらに強くしてくれる物だ……!
お、落ちつけ……勢いのままに進化を依頼してはいけない。
仕事を依頼できる凄腕職人はウーさんとオーさんの2人になったから、上手く仕事を振り分けて効率よく強くならなければ。
まず、ウーさんに依頼している3つの風雲装備の進化は明後日に終わる。
『黒風暗雲弓』は進化に3日かかる大物だから、効率を考えるとまだ仕事を何もしていないオーさんの方に依頼すべきだな。
そして、『機神風穴』で集めた素材を使ってガー坊の新装備も作りたい。
こちらはウーさんとオーさんに半分ずつ振り分けるか……。
いや、そもそもガー坊にどんな装備を持たせるかもまだ決まっていない。
流石は機械の街に兵器の洞窟、機械系の素材アイテムが大量に手に入った。
作れるものは無数にある。
どうすればより強くなれるか……時間をかけて考えよう。
この悩む時間がまた楽しい。
まずは武器だな。
今はクロスボウを装備させているが、これは海弓術をガー坊に使わせることを想定しての装備だし、まったく別物に変えてもいいかも……。
プレイヤーとユニゾン揃って武器が弓では対処も容易になってしまうしなぁ……。
防具ももっと強力な武器スキルが備わっている物にしようか……。
でも、今のMPマシマシ装備も快適に戦えて悪くない……。
『ミサイルポッド』は今も主力だし、射撃系武器奥義を持っていることも見逃せないな……。
ガー坊の進化で得た奥義は『分身』と『突進』というすでに得意な接近戦能力をさらに底上げするものだったから、遠距離攻撃の能力は装備で補うべきだろうし……。
あ、そもそもガー坊は万能型を目指してるんだから、もっと変わった装備でもいいのか……?
一見使い物にならないような装備でも、対人戦なら驚かせて隙を作れるから……。
どうするどうする……。
うーんうーん……。
……………。
「……はっ!?」
我に返って時計を見る。
表示されている数字は今が夜であることを示していた。
まったく、時間を忘れて遊ぶとはこのことだな……。
ここは地下で空が見えないから時間の感覚が狂いやすいというのもあるが、やはり装備選びというのは楽しい……!
いくらでも時間を潰せてしまう。
今回はノルドという仮想敵が存在することも大きな要因だ。
プレイヤーとして格上の彼にこの戦法は通用するだろうか?
銃という弓にとって苦手な相手を封じ込める作戦はこれで良いだろうか?
明確な敵がいると、こっちも戦法を組み立てやすい。
彼ら
最強という本来ぼんやりしている目標がやけにハッキリしているのは彼らのおかげだ。
「まあ、イベントが終わった時にはこちらが最強になっているんだがな!」
……声に出して言うとちょっと気恥ずかしいが、いずれそうなる予定だ。恐れる必要はない。
そもそも意図せずMVPになったこともあるんだ。
やるだけやって、本番はいつも通り気楽に挑めば、結果は後から着いてくる。
なんてことを仲間の若者たちに堂々と言えたらカッコいいんだろうなぁ。
今のうちにセリフの練習をしておくか?
「そこまで暇ではない……」
自分にツッコミを入れ、これからやることを整理する。
まず、ガー坊の新装備は大体決まった。
仕事の依頼はウーさんとオーさんに振り分ける。
弓の進化の方はすでにオーさんに依頼した。
預けた弓の代わりは用意してある。
イベント中に装備を破壊されることもあるだろう。
いつもの弓以外にも慣れ親しんだ弓を増やしておくのも悪くない。
で、代用品まで持ち出して何をするのかというと……『再生薬』の入手だ。
部位欠損状態をたちまち回復してくれる特殊なアイテム。
これがなければ、対人戦の最中に片腕が飛んだだけでお荷物になってしまう。
全プレイヤーが俺に失望するだろう。それだけは避けたい。
しかし、『再生薬』は店売りしていない。
他の手段で入手するしかないのだが……俺はその方法を知らない。
ネットで調べてもいいのだが、ここは裏技的な入手方法を知っていそうな仲間に頼るとしよう。
ウィンドウを開き、ギルドメンバーへのメールを作成する。
ゲームとはいえ、貴重なお時間を頂いて存じ上げない事をご教示願うのだから、丁寧な文章にしなければ……。
「……よし」
こうして出来上がったビジネスメールを俺はサトミに送信した。
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