Data.145 弓おじさん、兵器の住処

 翌日、地下機械街マシヌシュタットから冒険を再開した俺は、まずNSOメダルを50枚消費してあるスキルを獲得した。

 その名も【サンダーアロー】!

 単純明快な雷属性の矢を放つスキルだ。


 これから挑む『機神風穴』は機械属性のモンスターが出てくるダンジョンだ。

 弱点を突けるスキル1つあるだけで生存率はグッと上がるだろう。

 それに雷属性ならこれからの冒険や対人戦でも活躍してくれそうだ。

 電気って危険かつ便利な存在だからな。


「ゲート開放!」


 『機神風穴』へと通じるゲートを開け放ち、その中へ足を踏み入れる。

 ゲートはすぐに閉じられ、あたりは真っ暗になった。


「松明がいるな……」


 松明の白い炎を頼りに歩みを進める。

 モンスターは……何も出てこないなぁ。

 それに『機神風穴』なんてカッコイイ名前なのに、今のところちょっと広い洞窟でしかない。

 分かれ道もない単調なダンジョンなのか……?


 と、思い始めた矢先、目の前に新たなゲートが現れた。

 なるほど、危険な兵器が封じ込められているわけだからゲートも2つくらいあるか。


「もう1回ゲート開放!」


 開け放たれたゲートの先は……白を基調とした近代的な施設だった。

 SF映画の宇宙船の中、研究施設などを思わせる未来感がある。

 床や壁に汚れはなく、神経質なまでに白い。

 ここに住み着く兵器たちが、今も施設を維持しているという設定だろう……。


「なんか、静かすぎて怖いな……」


 時折どこからかぶぅぅぅん……という駆動音が聞こえてくるだけで敵は出てこない。

 でも、ここはダンジョンなんだから必ずどこかにいるはずだ。

 何か……監視されているような気がする。

 天井に監視カメラがあるし、それだろうか。


「またゲートか……」


 今度は大型のゲートではなく、通路を封鎖する小型のゲートだ。

 ゲートの横にはカードキーをスラッシュするための機械が取り付けられている。

 探してこないと先には進めないか……。


 ここは部屋がいくつもあって探索するのは骨が折れる。

 どの部屋も同じデスクが置かれ、パソコンが置かれている。

 パソコンの画面は真っ暗でキーボードを触っても動かない。

 これがギミックになっているというわけではないか……。


「……あった! やっぱりカギは机の引き出しの中だよなぁ~」


 探索ゲームあるあるだ。

 というか、リアルでも壁に引っ掛けておく派以外は大体どこかの引き出しの中にしまっているだろう。

 さあ、これを使って先に進もう。


 ビィィィィィィーーーーーーッッ!!


「うわっ!? なんだなんだっ!?」


 警報機がそこらじゅうで鳴っている!

 重要なアイテムを回収したタイミングで敵が出てくるタイプだったか!

 ウィィィンと部屋のドアが勝手に開き、ガトリング砲を背負った四足歩行のメカが飛び込んでくる!


「ガトリング・サンダーアロー!」


 ガトリングを撃たれる前に撃ってやった。

 雷の矢は機械に対して効果抜群だ。

 メカはこの一撃で消滅した。

 しかし、警報は鳴りやまない。


「ここからはいつも通り戦闘の連続ってことだな……!」


 静かな地下施設を探索するより、うるさい敵と戦う方が慣れてるし落ち着くなぁ。

 こんなこと言うと戦闘狂みたいだけど……。




 ◆ ◆ ◆




「いやぁ、本当にサンダーアローをゲットしておいて良かった……!」


 メカ軍団はそれこそゾンビのように湧き出してきた。

 階層ごとにカードキーを見つけ、ゲートを開いた先にあるエレベーターで地下へと潜るたびに、押し寄せる敵の波は激しくなった。


 そんな敵の波を一瞬で壊滅させるスキルが【サンダーアロー】!

 そして、ガー坊の【電気の奔流エレキテル・リバー】だ!

 どちらも単独では一撃必殺の威力を発揮しないが、俺は【ガトリングアロー】など他スキルとの融合で威力を底上げし、ガー坊は【黒子ガイル】で増やした自分の分身と一緒にスキルを放つことで威力を上げている。

 【黒子ガイル】の分身は奥義を使うことは出来ないが、スキルを使うことは出来るからな。


 また、メカたちは決して広くはない通路をひしめき合って向かってくるので、電気が勝手にどんどん伝っていくのだ。

 おかげで広範囲の敵を一掃することが出来る。

 ドロップアイテムもたくさん手に入ってウハウハだ。

 電気の力ってすごい……人類の宝だ。


「この調子だとすぐに最下層に着きそうだな」


 階層ごとのカードキー探しとか、ちょっとしたパズル要素に頭を悩ませつつも、兵器たちの巣くう古代の施設を下へ下へと進む。

 エレベーターで移動中は敵が出てこないから癒しの瞬間だ。

 扉が開くと、待ってましたと言わんばかりにメカたちがお出迎えしてくれる。

 もはやそんなノリにもなれ、作業的にフロアを制圧してまたエレベーターに乗って下に向かう。


 何度か同じことを繰り返し、もう扉が開くと反射的に攻撃するようになったその時、メカたちの熱烈なお出迎えがないフロアへとたどり着いた。

 これ以上エレベーターは『下に参ります』と言わない。

 ここが最下層だ。


「また真っ暗な洞窟だ……」


 松明を灯し、慎重に前に進む。

 奇襲を仕掛けられたら松明を敵に向かって投げ、姿を確認したのちに弓矢で射撃を行う。

 高速の射撃スキル【居合撃ち】がある今ならそんな動きも成立する。


 だが、派手に暴れまわるメカたちが姿を現すことはなかった。

 代わりにもう動くことのないメカたちの残骸がうず高く積み上げられた山を発見した。


「ここはメカの廃棄場なのか……?」


 壊れたメカには美がある。

 ボロボロになるまで戦ったその姿には愛がある。

 でも、こうして捨てられ、誰にもかえりみられないメカの姿は……ただただ悲しい。

 メカに限らず、捨てられた物が集められた場所というのは心が締め付けられる……。


 しかし、俺をこんな感情にするために捨てられたメカの山が存在するわけではないだろう。

 こいつが……ボスだな。


 ガチャ……

 ガチャガチャガチャ……

 ガチャガチャガチャガチャ!!


 フロア全体がまばゆいライトに照らされる。

 捨てられたメカの山はうごめき、ある怪物の姿へと変貌していく。

 それは日本神話に登場する8つの頭を持つ大蛇……ヤマタノオロチ!


 ガギャアァァァァァァーーーーーーッ!!


 古代のワニの次は神話のヘビか。

 それもメカの残骸に怨念が宿って生まれた神話のヘビだ。

 科学なのか心霊なのか……自分でも何言ってるかわからない。

 いろんなものが入り混じりすぎて、流石に電気でイチコロとはいかなさそうだが、不思議と不安にはならない。

 なんてったって、こっちには頼れるメカアニマルがいるからな……!

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