Data.121 弓おじさん、皿を求めて
「うおおおぉぉぉ……」
「くせ者じゃ……」
「許さぬ……」
屋敷の中はまさに悪霊の巣窟だった。
武家屋敷というだけあって霊は武士……いや、落ち武者のような姿をしたものが多い。
急に現れては刀を振り回し、何かつぶやきながら襲い掛かってくる彼らは一見シュールだが、普通に俺にとっては厄介な特性をいくつか持っている。
まず、急に『近く』に現れるのだ。
うめくような声がしたら出現のサインで、それから数秒後には目に見える範囲に現れる。
この屋敷はマンションほどサイズ感が大きくないので、長い廊下にいる時以外は必然的に視界も狭くなり、近くに出てきてしまうのだ。
スキル【居合撃ち】を習得しているので急な接近にも対応は出来るが、ここで困るのが次の特性『物理攻撃耐性』だ。
ぼんやりしていて実体のない霊たちには物理攻撃が効きにくい。
アンヌの鉄球も物理だが幽霊に特効があるスキルを使えば問題ないし、ガー坊も特効スキルを持っている。
俺にはなにもない……わけじゃない。
グロウカードにスタンプを押したことで手に入れた【退魔防壁】がある。
このスキルもアロー系と同じく特殊な効果を持った矢を生成するものだが、生成した矢は弓で撃つだけではなく、手に取って足元に投げつけることでも効果を発揮する!
「退魔防壁!」
足元に投げつけた矢を中心にドーム状の結界が展開する。
ぼんやりと青く光る半透明の結界は内側からの攻撃を素通りさせて、外側からの攻撃は通さない。
つまり、結界があるうちは一方的な攻撃が可能ということだ!
特に幽霊たちからの攻撃に対しては頑丈で、【退魔防壁】という名前に恥じぬ活躍をしてくれる。
まさにホラーゲームにおける安全圏、セーブポイントのような安心感だ。
ただ、ぱっと見すごく薄いバリアなので、プレイヤーやパワー自慢のモンスター相手にどこまで通用するかは未知数だな……。
パリンパリン良い音をたてて割れてくれそうな気もする。
奥義ではなくスキルなので気軽に使えるが、基本的に敵の奥義は受けきれないということも覚えておこう。
また、1度に展開できる結界は1つだけだ。
「結界のおかげで探索がはかどりますね!」
「本当にね……!」
目当ての『十』と描かれた皿を探す時も、結界を張っておけば背後を気にせずに済む。
一番怖いからなぁ……振り返ると何かいるってシーンが。
ホラー要素を台無しにしている気もするが……いいじゃないか。
最近のアクションゲームは苦手な人のために救済として無敵モードがあったりする。
ホラーゲームにもストーリーを楽しみたい人のために無敵モードがあってもいいじゃないか……!
「それはそれとして、『十』と描かれたお皿は見つかりませんね……」
「他の皿はたくさん見つかるんだけどなぁ……」
赤、青、黄……カラフルな7色の小皿を回収している。
この小皿はアイテムボックスにしまうことができるので、何かしら使い道があるはずだが……と思いつつ探索を続けると、あからさまにお皿を飾る台座を7つ発見した。
「どういう順番で並べましょうか?」
「……お皿の色合い的に虹っぽいし、赤から並べてみよう」
結論から言って正解だった。
左から赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の順に皿を並べると、ゴゴゴと屋敷全体が震えるほど揺れた。
どこかで何かの仕掛けが動いたようだ……。
謎に派手な仕掛けもホラーゲームあるあるだよなぁとか思いつつ、その仕掛けが動いた場所を探す。
玄関から見て最奥の廊下の壁がごっそりなくなり、地下へと続く階段が伸びているのを発見した。
うーん、地下か……。
行きたくないが、この先に目当てのお皿があるのは間違いない。
アンヌを先頭に階段を下りていく。
さて、どんなおぞましい物が待ち受けているのか……。
地下牢か? 謎の儀式の祭壇か? 研究施設か?
答えは……どれでもなかった。
「ここは……道場?」
使い込まれた木の床は剣道場か?
武家屋敷だから違和感はないが……ここに皿があるのか?
道場に皿なんて割れるビジョンしか見えないが……。
その時、道場全体が明るくなった。
光源はわからないが、とにかく明るくなったのだ。
そして、松明では照らしきれなかった道場の奥で正座している『何か』がいることに気づいた。
兜と鎧をつけて刀を側に置いているが、人間ではない。
緑色の肌、手足には水かき、くちばし……。
カッパだ……! 武者カッパだ……!
あ! お皿ってまさかそういう……!?
自分の中のひらめきに驚いている間に、カッパはすくっと立ち上がり刀を抜いた。
体格は人間と変わらない。
人型の敵は知能が高く動きもいい。
気をつけなければならない……!
「レターアロー!」
まずは敵の情報を……と思いきや、カッパは刀で【レターアロー】を切り払った。
こいつ……出来る!
「
アンヌが間髪入れず奥義を放つ。
カッパは分厚い水の壁で対抗した。
大きな鉄球は水の抵抗をもろに受け、みるみる勢いが衰える。
さらにカッパはそのまま大量の水を生み出し続ける。
道場はみるみる水で満たされていく……!
「退魔結界!」
よし、この結界は水の侵入も防げる!
道場は水没したが、結界の中だけは無事だ。
NSOは水中でも呼吸をすることが出来るので、別に水の中でも死にはしないが、水の中でカッパと戦う気は起きないな……!
ピシッ……!
結界にヒビが入る。
水の中をすごいスピードで泳ぐカッパはヒット&アウェイで結界にどんどんダメージを与えていく。
だが、こちらにも水中で本領を発揮する仲間がいる!
「ガー坊!」
「ガー! ガー!」
水中のガー坊は目で追うのもしんどい速さで泳ぎ、高速戦闘を展開する。
カッパも流石で、刀を使ってガー坊をいなしている。
しかし、動きは確実に鈍くなった。
これなら安定して矢を当てられる……!
「海弓術……四の型・
ここで登場『海弓術』!
水中で効果を発揮する特殊なスキルたちだ。
グロウカード〈海弓術・七の型〉の装備によって使用可能になるが、しばらく水中での戦闘がなかったので本当に久々の出番だ。
まさか武家屋敷の地下で使うことになるとは思わなかったがな!
【
何発かをガー坊と戦闘中のカッパに当てる。
カッパは狙い撃たれないように再び高速で泳ぎ始めたがもう遅い。
「五の型・
【
射程の外まで逃げるか、攻撃によって相殺すれば追尾を振り切れるが、俺の射程の外に逃げるのは簡単じゃないし、相殺しようと刀を振ればその隙にガー坊の攻撃が入る。
完璧な連携だ……。
やはり水中のガー坊は強い!
「トドメだ、ガー坊! 赤い流星!」
「ガー! ガー!」
【
戦闘空間を水没させるというプレイヤーによっては詰みになりかねない能力を持っているからか、カッパ自身のスペックはそれほど高くなかった。
俺とガー坊だけでHPゲージを削り切り、撃破に成功した!
「み、見事……」
カッパは最後にそうつぶやくと、光となって消えた。
道場を満たしていた水が消滅し、ドロップアイテムが自動回収される。
その中には探し求めていた『十』の文字が描かれた皿もあった。
「すごいですね! キュージィ様もガー坊ちゃんも! 私の鉄球は水の抵抗で勢いが死んじゃうんで、水中戦が本当に苦手なんですよね……」
「誰にでも得手不得手があるさ。俺も海弓術とガー坊の協力がなかったらダメダメだし。まあでも、今回はカッコいいところを見せられて良かったよ。前回は任せっきりだったからね」
何はともあれ、積み重ねてきた冒険は嘘をつかないってことだな。
持っててよかった海弓術!
ボスを倒して敵が出なくなった屋敷を後にした俺たちは、お菊さんのいる井戸に戻り『十』の皿を彼女に手渡した。
「ああ……ありがとうございます……。すいません……実はこれがお皿じゃないって気づいてたんです……」
うん、知ってた。
でも突っ込まずに素直にお礼を言ってスタンプを受け取る。
すると井戸の上に木の蓋が出現し、スタンプを押すのにちょうどいい机になった。
「これで2つ目!」
武家屋敷と井戸、そしてぼんやりとお菊さんが描かれたスタンプをカードに押す。
これで〈破魔弓術・一印〉は〈破魔弓術・二印〉となった。
そして、新たなスキル【斬魔攻刃】を獲得。
またまた矢のスキルっぽくない名前だな……。
【退魔防壁】のように俺の戦術を広げてくれるものだといいな。
「さあ、次の恐怖スポットは『
トンネル……かぁ。
あの狭苦しい感じと独特の薄暗さ、長さによっては先が見えず、どこか別の世界に繋がっているんじゃないかと思わせる恐怖スポットの王道……。
前と後ろの出口を塞がれると密室になってしまうのも嫌な想像を助長する。
でも、結局のところトンネルというのは抜けてしまえばいいのだ。
複雑なルールはなさそうだし、何も考えずに走ればなんとかなる……か?
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