Data.117 弓おじさん、骨の廃墟
俺に渡されたスタンプカードもといグロウカードは〈破魔弓術・無印〉。
通常のグロウカードと同じく装備も出来るが、今の段階では効果がない。
ゴーストフロート各地に存在するスタンプをカードに押すごとにスキルが解放されていく仕様だ。
ファストトラベルはこのカードの完成をもって解放される。
その完成とは、4つのスタンプを押して占い師の元に持ち帰ること。
完成させるまではゴーストフロート以外の場所でカードの効果を使うことは出来ない。
また、完成前にプレイヤーがゴーストフロート内でキルされた場合、このアイテムは破壊される。
つまり……また占い師からカードを受け取って集め直すことになる。
そりゃ、簡単にファストトラベルが解放できないわけだ。
プレイヤーキルが横行するフィールドを進み、危険なスポットに足を踏み入れて4つもスタンプを集めなければならない。
解放するという行動がゴーストフロートを冒険しつくすことに直結している。
まあ、そのフィールドでやることを終えてからじゃないとワープが解放されないゲームもあるし、別におかしなことではないが……大変だな。
「いや、遊び応えがある……と言っておくか」
今日は早めに起きることが出来た。
やることやって朝から冒険を始めよう。
◆ ◆ ◆
「本当にここはいつも夜なんだなぁ」
ゴーストフロートは昨日ログアウトした時と変わらず夜だった。
NSOはリアル時間と連動しているのに、ここは本当に特別な場所だ。
実は普段冒険しているフィールドと切り離された空間なのか?
その答えは合流したアンヌが知っていた。
「はい、ここは異空間ですね。だから、この島は地上からは見えません。幽霊飛行船に乗って初めてたどり着くことが出来るんです。この大空にはそういう場所がいくつもあって、通称『天上界』と呼ばれています」
「そんな気はしてました。この前、相当高いところまで飛んだんですけど、こんな島は見えませんでしたし」
「最終決戦の時ですね! 私は後から上がったネココさんの動画で見ました!」
ネココとサトミはすでにあの時の動画を上げている。
俺も彼女らの動画を見たが……なんか自分がやったこととは思えなかったな。
普通に他人事のように感心しながら見てしまった。
だからこそ、他の人が見ても楽しめる戦いになっていると思う。
この動画と公式サイトのチャリン戦クリア者の一覧表で『
広がったことと言えば、ミラクルエフェクトの存在も広がった。
こちらは普通に難易度が下がってクリア者が増えたから広まった感じだ。
クリア者が少なかった頃はみんな隠していたが、それはあくまでも秘密にしておいた方が盛り上がるというプレイヤーたち独自の判断だ。
ネココもサトミもご褒美をもらうシーンはカットしてあったが、そろそろ全部公開してしまうプレイヤーがいてもおかしくないというか、自分が頑張ったご褒美なのだから見せたくなるのが普通だ。
ミラクルエフェクトを知っているプレイヤーは増え続けている。
もはや俺がミラクルエフェクトを使えることなんてのは公然の事実なのだ。
そのうち誰もがミラクルエフェクトを使え……るなんてことはない。
チャリン戦の難易度が下がったと言っても、そもそもの難易度が高すぎる!
まだトップ層しかMEメダルは手にしていないし、これからも簡単には手に入らないだろう。
逆に言えば、強い人はさらに強くなったということだ。
俺ものんびりはしても、ダラダラはしてられないな。
まずは『四印巡り』をクリアして、新たなグロウカードを手に入れるとしよう。
「フィールドに出る前にパーティを組みましょうか」
「はい!」
パーティを組めば『ヴァーサスフィールド』でも仲間からの攻撃ならダメージが入らなくなる。
俺は特に疑ってないが、一応アンヌからの裏切りの心配はなくなる。
ここから先はガー坊とアンヌだけが信用できる味方だ。
「よし、行きましょう」
こうして、恐怖のスタンプラリーは始ま……。
「来たなキュージィ! 俺が相手だ!」
「いや、俺が相手だ! かかってこい!」
「どけよ底辺プロゲーマーども! こっちのが有名人だぞ!」
「新参の雑魚が! 俺はこの道3年目だ!」
「みじけぇ! 5年は続けてからイキれ!」
……思ったよりも無法地帯感あるな。
街を出た途端これか。
昨日はまだ俺が来たばっかりで『ここにキュージィがいる』と広まってなかったのか、なんだかんだ有名人っぽいスライムマンを恐れて他の人たちが近寄らなかったのか……。
どちらにせよ、ここでは力だけがものを言うようだ。
郷に入れば郷に従え……昔の人の教えを守るとするか。
「やってしまいましょう。追いかけられるのも面倒だ」
「ガー! ガー!」
「皆殺しにすればしばらくはゴーストフロートに戻ってこれませんしね!」
敵同士で揉めてる今がチャンス!
いきなり奥義をお見舞いする!
「
◆ ◆ ◆
「はぁ……はぁ……。やっと着いた……!」
目の前にそびえたつ巨大な洋風マンション!
骨で作られたその姿は『ボーンデッドマンション』に間違いない!
恐怖スポットという話だが、そこまで外観は怖くない。
どちらかというとテーマパークのアトラクション……いや、これ以上は言うまい。
それにしても、プレイヤーキラーが多すぎる……。
普段はそんなことしてないでしょって人まで襲い掛かってきた。
趣味程度にゲームを遊んでいる人なら、1日ステータスが弱体化されるデスペナルティよりも、なんかネットで有名な人に絡める方が面白いのかもしれない。
キャーキャー言いながら攻撃されるのもそれはそれで怖い。
死を恐れずに突撃してくるからな……。
でも、なんとか誰も欠けずに目的地にたどり着くことが出来た。
こんな移動が後3回も……いや、先のことは考えまい。
「中に入りましょうか」
「建物の中ももちろんヴァーサスフィールドですから、気をつけないといけませんね!」
マンションは巨人用みたいな大きさだ。
これだけ広いと屋内戦でも俺の射程を活かすことが出来そうだ。
中に入って最初のフロアは広いエントランス。
外観と同じく内部も古風な洋館といった感じだ。
ホラーゲームの舞台にはもってこいだな。
「あら? こんなところにポツンとテーブルが……」
アンヌが見つけたテーブルの上にはメモが置いてあった。
そこには『印は最上階にございます』と書かれていた。
メモを手に取って裏返しても、それ以外何も書かれていない。
ヒントはこれだけか……。
「とりあえず、階段を昇って上を目指しましょうか」
「いえ、ちょっと待ってください! あそこにエレベーターらしきものがありますよ! あれで楽していきましょう!」
アンヌの指さす先には確かにエレベーターらしきものがあった。
壁に『△』と『▽』のボタンもちゃんとあるし、使うことは出来そうだ。
だが、妙に世界観と合わない……。
一瞬『罠』という文字が頭の中に浮かんだが、外からマンションの巨大さを見ていた俺は、階段だけで最上階を目指すことを恐れた。
即死罠みたいな悪趣味なものはNSOで出会ったことがないし、大丈夫だろうと俺はアンヌの提案に乗った。
ガタッ……ガタガタガタッ……!
結論から言うと罠だった。
『△』のボタンを押して乗り込んだエレベーターの中にボタンはなかった。
ドアは一瞬で閉まり、閉じ込められたかと思うとエレベーターは下降を開始した。
ガタガタという音はオンボロゆえの音で、別に垂直落下はしていない。
ただ不安になる音ともに下へ下へと降りていく。
「ご、ごめんなさい……。私が楽しようなんて言わなければ……」
「いえ、こっちも楽したかったので責める権利はありません」
階段を昇るという運動は、他の運動より体にダメージが入るからな……。
膝とか腰とか痛くなるし、息も上がりやすい。
そりゃエレベーターがあったら使いますよ。
おじさんの本能を利用した運営が悪い。
「……アンヌさん」
「アンヌで構いませんよ!」
「武器を構えた方がいいです」
「えっ!?」
俺も勘違いしていたが、ここはダンジョンじゃないんだ。
だってダンジョンならば内部にプレイヤーは俺たちしかいないことになる。
パーティごとに別々の空間に振り分けられるから……な。
『ヴァーサスフィールド』は意味をなさない。
でも、ここは『ヴァーサスフィールド』のままなんだ。
エレベーターが止まり、ドアが開く……。
「
「
開きかけのドアの隙間から体をねじ込むように飛び掛かってきたプレイヤーに無数の矢と鉄球が炸裂する。
そして、その向こうのフロアで待機していた集団にも跳ね回る矢と鉄球が襲い掛かる。
俺たちが下りてくることを予想して待ち伏せとは……なかなかやってくれる!
「私とガー坊ちゃんで前に出ます! キュージィ様はエレベーターを背に支援を!」
「了解!」
前衛が2人……なんとありがたいことか。
さあ、最下層から最上階を目指そう!
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