Data.118 弓おじさん、ぶち抜く
「バーニングアロー!」
「ぐわああああああーーーっ!」
また一人プレイヤーを撃破する。
エレベーターホールを抜け、俺たちはとにかく上の階を目指していた。
移動手段は階段だ。エレベーターはもう信用しない。
「また上で待ち伏せですよ、キュージィ様!」
「人気者は辛いなぁ……って言葉、こういう時に使えばいいんだな……」
マンションはとにかく隠れる場所が豊富だ。
しかも、このマンションの壁や床は脆く、廊下を移動中の俺たちを部屋の中から壁をぶち抜いて攻撃してくる輩が絶えない。
ちなみに壁や床もゴーストフロートの大地と同じくそのうち再生するので、階段を壊されて上に昇れずに詰みということはない。
だが、見えないところからの奇襲だけで俺にとっては厳しい問題だ。
基本的には防御力の高いアンヌが前に出て受け止めてくれるが、それが出来ない状況もある。
そんな中で俺が生き残るには、とにかく早撃ちで敵を仕留めるしかない。
いつもより意識して射撃を早めることにより、敵の攻撃が届く前に急所を何度も撃ち抜く。
接近されても恐れずにとにかく攻撃を続ける……。
その結果、新たなスキル【居合撃ち】を獲得した!
【居合撃ち】
射撃系武器を撃つまでの動作を高速化する。
◆獲得理由
『刹那の射撃』
素早い射撃を連続で行い敵を撃破した。
一見パッシブスキルのように常に発動する系スキルに見えるが、実際は任意で発動する高速射撃スキルだ。
これは矢の種類を変えるアロー系スキルと違い、俺自身の動作を変えるスキルだから、【
もちろん奥義と組み合わせることで、瞬時に高火力を出すことも出来る。
別に威力が上がるわけではないが、奇襲などの苦手な攻撃に対する1つの回答になるだろう。
そして、もう1つ新スキルがある。
こちらも派手に強いスキルではない。
いま持っている奥義の下位互換と言ってもいいだろう。
プレイヤーキラーたちが押し寄せてくるこの状況で、長時間とにかく矢を撃ち続けたことによって獲得したスキル。
その名も【ガトリングアロー】!
【ガトリングアロー】
数秒間矢を連続で発射する。
◆獲得理由
『継続射撃』
長時間敵に対して矢を撃ち続けた。
つまりは規模の小さい【矢の嵐】。
発動時間は3秒ほどで、撃ちだす矢の数も奥義に比べると少ない。
しかし、クールタイムがなく、拘束時間も短いため、とにかく使い勝手がいい。
「バウンドガトリングアロー!」
曲がり角で待ち伏せしている敵をあぶりだすべく、跳ねる矢【バウンドアロー】と連続発射の【ガトリングアロー】を組み合わせる。
何本もの矢が壁で跳ねて曲がり角の向こうに消える。
そして、プレイヤーキラーたちの小さな悲鳴も聞こえてきた。
本当に数が多い……。
でも、複数パーティで一気に仕掛けてくることは少ない。
基本的に1パーティずつだ。
なぜなら、このマンションの中にはプレイヤーキラーキラーも存在するからだ。
彼らは俺を狙って待ち伏せするプレイヤーキラーたちを狩って取れ高を得ようとしている。
待ち伏せというのはやってくる獲物に気を遣う分、自分たちが狙われていることには鈍感になる。
実際、俺たちに襲い掛かってきたパーティが背後から奇襲をかけられ全滅したのを目撃した。
まさに修羅のマンション……。
信じられるのはパーティだけなのだ。
「アンヌ、前をお願い!」
「了解! 融合奥義・
アンヌの鎖付きトゲ鉄球の使い方はまさに手練れ。
大きくして通路を塞いで盾にしたり、何かに巻き付けた後に鎖を短くして移動したりする。
奥義【
おそらく、攻撃と魔攻どちらの数値も高い特殊第3職『
初心者で特殊第3職にたどり着くなんてすごい……と思ったが、俺もVRMMOに関しては初心者なのに早い段階で特殊第3職になっているな……。
アンヌも『黄道十二迷宮』の試練をすべてクリアしたということは、チャリンからご褒美をある程度貰っているだろう。
お互いそのおかげで強くなったと考えるのが自然か。
「いまさらだけど、アンヌも融合奥義が使えるんだね」
「はい! 試練のご褒美でチャリンちゃんから貰った不思議なアイテムを使ったら【
やはりな……。
チャリン自身も言っていたが、彼女はプレイヤーごとに強くなれるアイテムをあえてばらまいている。
占い師が言った『そう遠くない未来』のことと、チャリンの行っている全プレイヤー強化の間には何か関係があるのだろうか?
……その前に、アンヌって聞いたらなんでも答えてくれるな。
職業もスキル奥義の効果もついつい気になって聞いてしまうが、完璧な答えを返してくれる。
ノーガードなところに安心感を覚えてか、俺もいつの間にか敬語を使わなくなった。
「それにしてもキュージィ様、全然上の階に上がれませんね……」
「エレベーターで降りた地下から1階に戻ってくるのに、これだけ時間がかかったからなぁ……」
やっと振り出しと考えると、心にずっしりと重い物がのしかかる。
スタンプを求めるプレイヤーは全員最上階を目指すし、絶対上の階の方が待ち伏せも多いよな……。
これが平面の迷路なら、脆い壁をぶち抜いて一直線でゴールなのに……。
「いや、別に立体でもぶち抜けるな……!」
「え? なんのことですか?」
「アイムアローで天井をぶち抜いて上に飛ぼう!」
「おおっ! とっても名案じゃないですか!」
「あ、でもアンヌを連れていけないな……」
「いえっ! チャリンちゃんとの戦いの時みたいに私を抱きしめて飛べばいいんですよ! パーティを組んでいる時はヴァーサスフィールドでも仲間プレイヤーにダメージは通りませんし!」
「なるほど……!」
早速アンヌの体を抱いて……と思ったが、なんか照れくさいな……。
チャリンの時は必死だったし、ああしないと散っていった仲間たちの頑張りに報いることが出来なかったから迷いはなかった。
でも、この状況で出会ったばかりの女性に抱き着くのはちょっと意識してしまう。
が! しかし! 俺はゲーマーだ。
思いついた良いアイデアを照れる程度でやめたりはしない。
「さあ! 私に抱き着いてください!」
「では、失礼して……」
背中からアンヌを抱きしめ、ガッチリ腕でロックする。
「あ、前からでもいいんですよ?」
「いや、アンヌには回転しながら周りに攻撃してもらいたいからこれでいいんだ。今回使うのは純粋な奥義【アイムアロー】だから、飛んでる最中に他のプレイヤーから奥義を受けたら打ち消されてしまう」
「おお、なるほど!」
チャリン戦の時に使った【スターダストアロー】は上がった後に落下するまでがセットの融合奥義だ。
これではまた床をぶち抜いて地下に逆戻りになる。
【裂空】や【バーニングアロー】を組み合わせるのも考えたが、【裂空】はスピードが速すぎて制御が難しくなるし、バーニングアローは爆発で俺たちが着地するために必要な足場まで壊しそうなのでやめた。
今回は素の【アイムアロー】を使う!
「アイムアロー!」
「
アンヌがやたら強そうな奥義を放った。
鉄球が巨大化し、まばゆい光を放つ……!
そして、【アイムアロー】の高速回転効果により鉄球もぶんぶんと高速で回転する。
これはもはや自衛というより、マンション解体工事だ……!!
天井をぶち抜き、潜んでいたプレイヤーキラーたちを粉々にし、俺たちは真上に一直線に飛んだ。
これ、最上階に着地する床……残るかな?
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