Data.114 弓おじさん、大型弩砲
「ミラクルエフェクト……!」
「では、
「……え?」
スライムマンの周りにぞろぞろと3人のプレイヤーが集まってきた。
男女混合、それぞれ武器も違う。
しかし、装備の色はケバケバしい緑に統一されている。
「本当はもっと散らばって待機して囲い込む予定だったんだけどなぁ……」
「まさか、あんなミステリアスで魅力的な街を見て回らずにいきなりフィールドに出てくるなんて……」
「準備の時間がまるでなかったぞ! 流石は『星のキュージィ』……悪運が強いな!」
な、なんか勝手に勝手なこと言われてる!
まあ、それはいいんだけど、最後の『星の』って二つ名は絶対に広めないでくれよ……。
おそらく最終決戦で使ったあの奥義から連想したんだろうけど……それはマズイ。
「はいはい、無駄口を叩かない! 動画のカット編集の手間が増えるでしょう!」
「す、すいません、班長」
「ごめんなさい、班長」
「申し訳ないぜ、班長」
「リーダーです! 当初の予定ではこちらのキュージィさんに対して最も効果的とされる待ち伏せ及び四方からの攻撃を実行する予定でしたが、あまりに早くフィールドに出てきたので予定が狂いました! なので、初期のプランに切り替えます!」
「初期のプラン……?」
「そんなのあったっけ?」
「あれだろ、あれ。なんだっけ?」
「数を活かした正面からの攻撃です!」
3人は『あー』と納得したような顔している。
装備の時点でわかっていたが、この4人は仲間だ。
パーティで俺を倒そうと画策していたとは……。
まあ、当然か!
俺を強敵だと認識しているなら、わざわざソロで挑むわけがない。
こちらの想定が甘かったんだ。
こうなると、安易にお相手しようとは言えないな。
スライムマンは変な人だが、おそらく強い。
そこに数の差が加われば、断然こちらが不利になる。
あちらが4つの奥義を同時に発動したら、当然俺とガー坊の奥義だけでは対処できない。
なんだかんだゲームバランスが取れているNSOで奥義をぶつけ合ったら、そりゃ数の多い方が勝つ。
調整不足でよほど弱い奥義が混じっているとか、攻撃用じゃないとか、例外を除けば……な。
だが、その例外もプロチームを名乗る彼らには期待できない。
まさか間違えて攻撃用じゃない奥義を使ってしまったりはしない……だろう。
会話を聞いていると、ちょっと期待してしまうけど。
唯一希望があるとすれば……やはりMEメダルの力、ミラクルエフェクトだ。
あれなら通常の奥義4つくらいなら消し飛ばせるかもしれない。
奥義を消し飛ばして相手にダメージを与え、隙を作れば【ワープアロー】で脱出も可能だ。
大きく選択肢を広げることが出来る……!
そのためには、こちらも本気で戦うつもりだと思わせなければならない。
まずは【流星弓】を使ってこちらから4人全員に攻撃を仕掛ける。
合体奥義は通常の奥義より威力が高いから、相殺して俺にダメージも与えたいなら3つは通常奥義を発動したいはず。
さらに大ダメージを狙うなら4つ発動するのもおかしな作戦ではない。
4人の奥義が俺の【流星弓】を打ち消したら、すかさず【
【流星弓】を打ち消して威力が減衰している奥義をかき消し、彼らに攻撃が届く……!
そこで倒せればよし、倒せなければ追撃か逃走かを選択する。
そうと決まれば、すぐに仕掛ける!
この作戦は彼らが一か所に集まっている今が最大のチャンスなんだ!
「流星……」
「あのー! すいません、そこのおじさま~!」
「……えっ!?」
なん……だと……。
背後からも新手!?
手を振りながら近づいてくる!
通りすがりのプレイヤー……でもない!
スライムマンが手を振り返している!
まさか、別パーティを待機させていたのか?
彼らはそれほどまでに大ギルドということか……。
そして、俺はそうまでして倒したい標的というわけだ。
思えばゲームでお金を稼ぐのが当たり前になった大VR時代で、倒せば話題になること間違いなしの有名プレイヤーがソロで危険なフィールドを歩いているんだ。
まさに鴨が葱を背負って来るとはこのこと。
俺もどこかでうぬぼれていたのか……?
自分ならどんなプレイヤーにも勝てるとでも……。
「あ、やっぱり! あなたキュージィ様ですよね?」
「へ? あ、はい」
「わ~! やっと会えました~!」
その女性プレイヤーは明らかに俺に手を振っている。
しかも、装備は黒い修道服の上から鎧を被せたような奇抜なものだ。
シスターなのかナイトなのか……。
とりあえず、マッドスライム特有の緑一色装備ではない
一体どういうことだ……?
「あの、あなたはあちらの緑の男性の知り合いで?」
「いえ、知らない方ですね。あの方は誰に向かって手を振っているのでしょうか?」
ちらっとスライムマンの方を見る。
あ、顔が真っ赤だ。
これ一番恥ずかしい奴だもんなぁ……。
俺もリアルの街中で何度かやってしまったことがある。
「ギルドの仲間の顔は全員覚えているはずなのになんで手を振ったんですか、班長!」
「普通にファンだと思いました……。撮影中だから手だけ振って後にしてもらおうと……」
「キュージィさんの方がファンが多いに決まってるでしょ、班長!」
「許せない……! 私に恥をかかせたこと! そして、知らない仲間がいたこと……!」
理不尽すぎる……。
というか、俺もこの人のこと知らないんだけど!?
「あの、ここは戦場になるんで……」
「はい、だから武器を構えましょう。あちらの方も待ってはくれません」
女性はいつの間にか装備していた武器を構える。
巨大な鋼鉄のガントレット、そして鎖のついたトゲ鉄球だ。
「
……ここでその名を聞くとは思わなかった。
嘘か真か、この言葉だけで判別することは出来ない。
しかし、鎧を着た前衛職は俺たちも必要性を感じていたポジション……。
修道服の上に鎧を着て、トゲトゲの鉄球を振り回すという個性もそれっぽい。
何より状況的に味方だと思いたい……!
「信じるかどうかは……後ほど」
「まあ、あなたらしいですね」
弓を構える。
スライムマンが行動に出ようとしていた。
「絶対に倒します! みな、プラン通りに!
スライムマンのムチが膨れ上がり、巨大な波を引き起こす。
攻撃範囲が広すぎる……!
だが、速度は大したことないし、何より濃い緑の粘液が壁になってスライムマンからこちらが見えていない……!
俺がソロなら【ワープアロー】で逃げ放題だが……。
「おーっと、逃げようなんて思うなよ!」
「助けに来てくれた女性を1人置いて逃げる人だとは思ってないけどね!」
「ここからなら行動が全部丸見えだ!」
波のてっぺんにあの3人が現れた。
長細い盾のようなものをサーフボードにして波に乗っている……!
一見ギャグのような攻撃だが、かなり合理的だ。
さっきも言った通り、濃い緑の大波はスライムマンから視界を奪う。
代わりに3人が波の上に陣取って周囲を見渡し、波から逃げようとするプレイヤーに追撃を加える。
追撃で動けなくなったら最後、波にのまれて戦闘終了。
そうでなくても3人のプレイヤーに高いところから攻撃されるのは厄介極まりない。
やはり、ただの面白集団ではない……!
「
女性がトゲ付きの鉄球を大波に向かって投げる。
鉄球はみるみる巨大化し、波とぶつかった!
「普通の奥義? 甘いね!」
「だってこの班長の十八番は合体奥義だもの!」
「通常奥義一発じゃ相殺なんて無理だ!」
良い情報をしゃべってくれる!
それなら【流星弓】で相殺すれば、上のサーファーたちも地面に叩き落せ……。
「あら? まさかご存じない? これでおしまいですよ?」
「え?」
「え?」
「え?」
大波がみるみる小さくなっていく……!
同時にハンマーも地面に沈み込んでいく。
まさか、ここの地面って……。
「早く波から逃れなさい! 落ちますよ! ここの地面は簡単に穴が開くってあれほど言ったはずですが!?」
「え、そうでしたっけ?」
「私たちこの島は今回が初めてなんで……」
「何回か来てる班長と違って実感が湧かなかった!」
鉄球の大きさが元に戻り、地面にぽっかり空いた穴があらわになる。
3人のプレイヤーはその穴から地上へと真っ逆さまに落ちていった。
「す、すいません、班長!」
「ごめんなさい、班長!」
「申し訳ないぜ、班長!」
やはり、ただの面白集団なのかも……。
「くっ……そんなんだから今回まで対人戦が主体になるこの島に連れてこなかったんです!」
スライムマンはまだ【
ただ、生み出されたスライムはどんどん穴に吸い込まれ地上に落ちていく。
発動時間の長さ、キャンセル不可能、移動の制限がデメリットか。
俺の【流星弓】と近い部分はあるな。
「さあさあ! 最後はアレでしめてくださいキュージィ様! ミラクルエフェクトで!」
やはり彼女はこちら側のプレイヤーなのだろうか?
……とりあえず、スライムマンにトドメをさそう。
正直、まだ人には見せてないミラクルエフェクトを使うまでもない状況だ。
これは頑張っていた彼への手向けであり、俺のためでもある。
この先、まだ誰にも見せていないなんて理由でミラクルエフェクトの発動をためらわないように……!
「
それはロボットアニメに出てくる巨大なランチャーに近い。
俺の身長以上の長さを持つ矢が装填された機械仕掛けの弓……それが【
目の前にある2つのグリップを握り、力いっぱい手前に引く。
本体の左右に飛び出ている大きな弓がしなる。
矢に力を伝えて撃ちだす準備は整った。
本来ならここから狙いを定める必要があるが……今回はいらない。
発動時点から標的が動いていないからだ。
「発射ッ!!」
「甘いな! ほんのちょっと前に奥義の発動は終わった! 矢なんて当たり判定は一点のみ! こうしてちょっと横に跳べば……」
スパァンッ!
スライムマンは矢に切り裂かれて真っ二つになった。
良い子には見せられない状態なので、体もすぐに光となって消えた。
【
かなりの長さを誇る光の刃は、ちょっと上や横に避けようとした相手を真っ二つにしてしまう。
だが、通常の矢ならあれで回避できていた。
最後まで生き残るために戦う……彼もやはりゲーマーだ。
「やりましたね! キュージィ様!」
この謎の女性が来なければ、勝負はわからなかった。
いや、負けていたかもしれない。
恩人であると同時に、まだどこか信用できない。
「助けてくれてありがとうございます。それで
「あれは嘘です」
「…………」
とんでもないなぁ……この『ゴーストフロート』って場所は。
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