Data.113 弓おじさん、対決領域
頭を狙うか? 心臓を狙うか?
いや、やっぱり状況もわからずにプレイヤーをキルするのはいろいろ怖いな。
ここは武器を狙う!
キリリリ……シュ! ガキンッ!
矢は剣に命中した。
その衝撃で剣はプレイヤーの手をすっぽ抜け、後ろへと吹っ飛んだ。
なんとか少年たちをキルさせずに済んだが、まだ油断ならない。
申し訳ないが自由を奪わせてもらう!
「ウェブクラウドアロー!」
弓を『スパイダーシューター・クラウド』に切り替えてネバネバの網を発射する。
男は剣を吹っ飛ばされたことがまだ理解できてない様子だ。
そのまま素直に網を被り、地面に転がった。
「け、剣が……。いや、なんだこのネバネバ!? なんでこんなことになったんだ!?」
「あの、よろしければ何故この子たちを狙ったのか教えてくれますか? というか、どうしてプレイヤーの攻撃がプレイヤーに通るのかを」
男に近寄って質問をする。
どうやらこの『ゴーストフロート』には独自のルールがあるようだ。
彼にはぜひそれを教えてもらいたい。
「な、なんだおっさん……あっ!? あああああああああ!? お前は……キュ……急な事だから名前を忘れちまったけどなんかすごいプレイヤー!」
「ま、まあ、なんかすごいプレイヤーかどうかは置いといて私はキュージィと言います。それで何故あなたは……」
「は、話す! だからキルはやめてくれ! ここに戻ってくるのは大変なんだ!」
「戻ってくるのが大変……? そこも含めて話していただけるとありがたいです。あ、網は解除しますね」
話を聞かせてもらうのに網に絡めたままというのは失礼だ。
彼がゲームのルールに則ってプレイヤーを襲ったならば悪人でもないし、別に普通に接すればいい。
「あ、ありがとよ。ふぅ、怖かったぜ……」
すっかり戦意を失った彼はすらすらとこの『ゴーストフロート』のことを話してくれた。
まず、この浮島のほぼ全域が『ヴァーサスフィールド』というプレイヤーキル可能領域らしい。
プレイヤーの攻撃がプレイヤーに効き、キルされればデスペナルティも発生する。
もちろん装備破壊も……ある。
このルールは街中やフィールドに設置されている看板で説明されているらしい。
俺はすっかり見逃したけど……。
RPG序盤は街の住民や看板まで細かくチェックするけど、中盤以降めんどくさくなる病のせいだな。
でも、ルールを知ってしまえば街道を歩くプレイヤーが少ないのもわかる。
街道は歩きやすく整備されているから、平坦で近くに身を隠すような障害物がない。
しかも、全体的に薄暗いこの浮島の中では街灯のおかげで明るい場所になっている。
まさに狩場に最適だ。
「でも、プレイヤーキルが許可されているからといって、積極的にキルする意味があるんですか? プレイヤーを倒したらたくさん経験値が手に入るとか?」
「いや、むしろ経験値は入らない。もちろん装備やアイテムを奪い取れるなんてこともない」
「それだと、ギスギスするだけで無駄なんじゃ……」
「無駄といえば無駄だ! だが、楽しい! ゲームそのものと同じだ! 人と全力で戦うのはやっぱ楽しいんだ! コロシアムじゃデスペナも装備破壊もないし、エンジョイ感が強すぎる。お互い失う物がある状況で戦うのが楽しいのさ! あんたならわかるだろ?」
「それはわかりますけど、あなたさっき不意打ちで少年たちを攻撃してたような……」
「ギクッ……!」
男は目をそらす。
ちなみに少年たちはすでに街に帰した。
彼らも『ヴァーサスフィールド』のことを知らなかったようで、説明を聞いた後は『それなら俺らも誰かぶっ殺そうぜ!』と言っていた。
子どもって残酷だ。
「じ、実はまだプレイヤーと戦ったことがないんだ。街道で待ち伏せしてても、みんな強そうに見えて襲いかかる踏ん切りがつかなくてな……。さっき、ここに戻ってくるのは大変って言っただろ? それはキルされた時、ゴーストフロートの街には戻れないからなんだ」
それは特殊な仕様だな……。
本来プレイヤーはキルされた時、直前に立ち寄った街に強制送還される。
「ファストトラベルを解放してない限り、また出会えるか運次第の幽霊飛行船を探さないとここには戻れない。しかも、ここのファストトラベルの解放条件は結構難しい。そこらへんで暴れまわってるプレイヤーキラーたちですら解放しているのはほんの一握りだと思うぜ。もちろん俺もまだだ! だから、勝てそうなキッズを狙った!」
ルール上問題ないとはいえ、あまり褒められた動機じゃないなぁ……。
でも、俺はまだ人のプレイスタイルに物申せるほど偉くないので黙っておこう……と思っていたのだが、顔に出てしまっていたようだ。
男が慌てて言葉を付け足す。
「まてまて! 俺はあんたみたいに純粋に戦闘を楽しみたいワケじゃないんだ! ただ、今は対人戦の動画がめちゃ人気なのよ! 主にあんたのせいでな!」
「えっ!?」
「チャリン戦だ! マココや
「な、なんと……」
ドッキリはいつの時代も人気だな。
過激なネタはどうしても話題になる。
まあ、ここがそういうエリアならそれも受け入れよう。
問題はどうやって不意打ちを仕掛けてくるプレイヤーをはねのけて冒険するかだな……。
「ありがとうございました。大体事情はわかりました」
「いいってことよ! 俺もあんたに会って考えが変わった。やっぱり自分より弱い奴を探して戦うのはカッコ悪い! これからはプレイヤーキラーをキルするプレイヤーキラーキラーになって、正義の味方を気取らせてもらうぜ! これならネットで批判されることもなさそうだしな!」
「はい……頑張ってください」
男は意気揚々と去っていった。
プレイヤーキラーを返り討ちにする……か。
俺もそうしないと、この『ゴーストフロート』を生き抜くのは難しそうだな。
とりあえず、ガー坊は常に召喚しておこう。
プレイヤー相手には鳴いてくれないが、驚かないAIは不意打ちに強い。
あとは音に注意しないとな。
耳を澄ませて周囲を探るんだ……。
「うわああああああああああ!!! 」
鼓膜を震わす絶叫が聞こえた。
これ、さっきの人の声じゃ……。
まさか、もうプレイヤーキラーと遭遇したのか?
あまりにも世紀末過ぎる……。
「あら、これはこれはキュージィさんじゃありませんか! 流石に今回はまだ覚えてますよねぇ?」
さっきの人を地面に転がしていたのは、幽霊飛行船で出会った特徴のない顔の男だった。
武器はムチ。さっきの人はすでに攻撃を食らった後で装備はボロボロ、体も消えかかっている。
つまり、キルされてしまった……!
「前回は名乗り忘れてすいませんねぇ。私……こういう者です」
彼の装備がケバケバしい緑色のスーツに変わる。
同時にムチもスライムのようにぐにゅぐにゅとうごめく。
「ゲーム荒らしのプロゲーマーチーム、マッドスライム所属のスライムマンと申します。その節はどうも……。いやはや、私としてはやっとあなたと再び戦える機会に恵まれて感謝感激です! ぜひともあなたが敗北する様を撮影し、我々のチャンネルに復讐の証として刻みたい……!」
……ヤバい。
ここまで言ってくれてるのに思いだせない!
あのムチの身のこなしには覚えがある。
だから、俺は知っているはずなのに忘れてしまっている。
申し訳ない……。動画用に演技までしているのに上手く返せず……。
でも、彼が手練れのプレイヤーだという事はわかるし、俺と戦うつもりなのもわかる。
ならば全力でお相手しよう。
彼相手ならば、使ってもいいだろう。
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