Data.105 弓おじさん、考察する
まず、マココと俺の違いはいくつもあるが、身体能力や戦闘センスの差を嘆く意味はない。
見ていればわかる。彼女の力は努力の積み重ねで得たものだ。
まるでバーチャル世界が第二の故郷かのような自然な動きは、一朝一夕で身につくものではない。
それよりも参考になる部分がある。
マココは常に『選択』を押し付けているのだ。
わかりやすいのは【ダミーブーメラン】の存在で、このスキル1つで相手は投げられたブーメランが本物か偽物かという選択を迫られる。
ここにさらに複数のスキルを加え、予想外の方法でブーメランの数を増やし、生まれる無限大の選択肢への対応を迫るのが彼女の強みだ。
俺なら迫られた時点で頭がパンクしそうだが、チャリンはAIならではの処理能力で凌いでいた。
だが一方で、凌ぐことに注力してしまって、反撃がなかなか出来ていなかった。
攻撃は最大の防御って言葉の正しさを実感する。
思い返せば、俺のチャリン戦は常に選択を迫られていた。
【
どんどん増えるチャリンの武器にどう対応するかを考えながら動き、チャリンは俺の対応を見てから武器を変えて攻めることが出来た。
最後の賭けもチャリンがムッとして頭に血がのぼってなかったら、接近することなく飛び道具で安全にトドメをさされていたパターンもあっただろう。
あの戦いは常にチャリンの方に主導権があった。
では、それを踏まえた上で俺が主導権を握るにはどうすれば良かったのか?
……思いつかない。
俺が押し付けられるものは射程しかなかったが、前衛がガー坊だけでは絶対に距離を詰められる。
あの時の俺では、後手後手に回りつつ一瞬の隙をついた逆転が正解だったと言わざるを得ない。
だから、次は前衛ができる仲間と挑もうという答えになった。
でも、それが答えというのも面白くない。
今の俺に何があればソロで勝てたのかを考えてみよう。
ソロでの戦いが強くなれば、パーティでの戦いも強くなる。
自分の面倒を自分で見れるようになれば余裕が生まれ、人の面倒を見られるようになる。
それが咄嗟の連携や良い作戦を生み出すキッカケとなる。
さあ、俺がこれ以上ソロで強くなるには何が必要だ?
やっぱり、敵に接近されるのが一番怖いから、近づかせないようなスキルが欲しいなぁ。
【ウェブクラウドアロー】は結局のところ矢の要領で網を撃っているだけなので、飛び道具や魔法を当てられると相殺されることも多い。
チャリンの場合は銃や大砲で撃ち落としたり、ムチの電気で焼き切ることも可能だろう。
雲と蜘蛛の糸の網なので、高温に非常に弱いんだよなぁ……。
もっとこうシンプルに俺に近づけないようにするには……結界とか壁とか?
こちらからの攻撃は通るけど、敵からの攻撃は通さない結界とかあればかなり役に立ちそうだな。
単純に高い壁を作るのも悪くない。
陣取りの時みたいに防壁の上に乗って高いところから撃つのは効果的だ。
で、そういうスキルが存在するとして、どうやって獲得するのか?
それはもう……連想ゲームと神頼みだ。
結界とかバリア系のスキルが欲しいならそういうスキルを持っているモンスターを……。
壁を作りたいならゴーレム系の硬そうな岩石属性モンスターを……。
見つけて、戦って、倒して、アイテムを集める。
そういうレベルの話になってくる。
俺は今まで役に立つスキルを良いタイミングでたくさん獲得してきたと思っていたが、本当はまだまだ足りていないのかもしれない。
技の多さは選択肢の多さだ。
これからイベントとかではない普通の冒険を進める時は、欲しい能力を考えて舞台を選ぶのも良いかもしれない。
ありがたい話だ。
好きになったゲームでまだまだやれることがある!
いや、やりたいと思えることがある……だな。
やれることは無駄に多いけど面白くないゲームってのもたくさんある。
やりたくってしょうがないと思えるのは幸せだ。
だがしかし、2日後に迫っているチャリン戦をどう切り抜けるかという答えは出なかった。
この2日で少し冒険したらチャリンを倒せる超スゴイスキルが見つかるとは思っていない。
今は仲間に前衛を任せる以外の作戦が思いつかない。
「……寝るか!」
今日はいつもより頭を使ったし眠たい……。
寝たい時に寝られるのも幸せだと身に染みて理解している俺は、すべてを一旦放置して眠った。
きっと未来の俺が何とかしてくれるさ!
◆ ◆ ◆
2日前の俺……ダメだったよ……。
俺の装備の修理が終わる朝、空上郷の工房の前で俺は嘆いていた。
頭部と胴体と脚部に適当なものを装備して、俺はフィールドを探索した。
しかし、特にこれといったものが手に入ることはなかった。
何も気にしていない時はポンポンと手に入るのに、意識すると手に入らない。
これがいわゆる物欲センサーってやつなのか……?
まあ、それもあるだろうけど一番の原因はイベントだな。
試練をクリアするたびに役に立つアイテムが貰えるというシステムに慣れてしまったから、普段の冒険で何も手に入らないとむなしく感じてしまう。
すっかり調教されてしまっているな……チャリンに。
最後の希望は『裁き』のアイテムだが……。
もう受け取れる時間になっている。
意を決して工房から完成品を受け取る。
勝てるアイテムであれとは言わない。
だが、少しは役に立つアイテムであってくれ……!
「頼むぞ、裁きの矢!」
『裁きの雷』『裁きの両翼』『裁きの刃』。
3種のアイテムを組み合わせて完成したそれは、バチバチと稲妻を放つ矢だった。
一番意味のわからないアイテムだった『裁きの両翼』も、いまを思えば形が矢じりのない矢そのものだったな。
そこに刃と雷をくっつければ『裁きの矢』が完成する。
とりあえず、装備アイテムではない。
『使う』アイテムなのか、素材アイテムなのか……。
「使える! しかも対象は俺か……!」
新しいスキルの予感……!
俺は『使う』を選択した。
――ぴこんっ! 新たな奥義【インドラの矢】を獲得しました。
こ、これは……奥義!?
しかも、なんだかすごそうな名前をしているぞ……。
まさに神は俺を見放していなかったということか。
早速、効果を見てみよう!
【インドラの矢】
天高く撃ち上げた1本の矢が強力な雷を帯びて大地に落ち、広範囲を巻き込む電撃の爆発を起こす。
射程が長いほど高く撃ち上がり威力と範囲が広がるが、発動までの時間も長くなる。
クールタイム:10分
まっすぐに撃つのではなく、高い山なりの軌道を描く矢か……。
当てるのにコツがいりそうだが、幸い爆発を起こしてくれるので狙いは大雑把でいい。
射程が長いほど威力が上がるというのは願ってもない強効果だが、落ちてくるまでの時間が伸びるというのは見逃せない点だ。
あんまり長いと撃ち上げるのを見てから範囲外に逃げるのが簡単になってしまう。
いくら爆発の範囲が広がるといっても、限度があるだろうしな。
またまた使い方に工夫のいる奥義だが、威力はその分期待できそうだし、俺にとって新たな攻撃の選択肢が生まれたことは間違いない。
チャリンとの再戦の前に、新たな力が手に入ったことは喜ばしい。
今回はパーティで挑むとはいえ、前と装備もスキル構成も一緒だとチャリンにガッカリされてしまいそうな気がしていたからなおさらだ。
「そろそろ初期街に移動するかな」
決戦の時は近い。
『
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