Data.99 弓おじさん、決戦前夜
『裁きの雷』『裁きの両翼』『裁きの刃』……。
3つの裁きアイテムの使い道は、やはり組み合わせることだった。
ウーさんの工房でその事実を知った俺は、早速仕事を依頼した。
完成までには24時間かかる。
つまり、新たに生み出されるアイテムは風雲装備と同格のレアアイテムなのだ。
ただ……使い道はまだわからない。
『それ』は装備ではなくアイテムで、解説を表示しても使い道が記されていない。
スキルを覚えるために『使う』装備なのか、装備を進化させるための素材なのか、はたまた……。
わかっていることは回復アイテムではないということだけだ。
回復アイテムだけは常にハッキリと効果が記載されているからな。
その良い例が今さっき工房で受け取った『
これはおうし座の試練のご褒美である『
◆
使用することで3分間毎秒HPが少量回復する。
使用後5分経過でこのアイテムは復活する。
いわゆる『HPリジェネ効果』をプレイヤーに付与することが出来る。
しかも使用しても復活するという謎のオマケ効果付き。
ビーフジャーキーの噛んでも噛んでも味が出てくる部分を再現しているのかも。
使用すると3分間回復し続けて、5分後に復活するということは、実質回復できない時間は2分間だけになるな。
回復量が実際どれくらいなのかを検証しないと結論は出せないけど、まあまあ戦略の幅が広がるアイテムじゃないか?
俺のプレイスタイルだと大ダメージを食らうシーンは少ないし、カスった程度のダメージなら普通の回復アイテムを使うのがもったいないと思うことがある。
でも、その微量のダメージを回復しなかったせいで負けるのはもっともったいない。
そういう時にこの『
爆発的に強くはならないけど、痒いところに手が届くアイテムだ。
ただ、完成するのに時間がかかるアイテムでもあった。
干し肉だからか、レア装備の進化よりも日数がかかっている。
こういうアイテムが出てきた時のための『仙桃』なんだろうな。
でも、『
やっぱり時間短縮アイテムは気分で使うくらいがちょうどいい。
さて、用事は終わったしログアウト……と言いたいところだが、最後に初期街の様子を見ておくか。
街のどこらへんが天に浮かぶ『サーペント・パレス』の真下なのかもチェックしておきたいしな。
◆ ◆ ◆
街から街へ、ファストトラベルで移動も一瞬だ。
それにしても、初期街は相変わらず人が多いな。
新規が増え続けているのか、人がいるから人が集まっているだけなのか、どちらにしろ活気があるのは良いことだ。
とりあえず、人通りの少ない裏道を通ってサーペント・パレスの下を目指そう。
今日はあくまで偵察だから目立ちたくない。
ひょいひょいと細い道や隠された道を進む。
初期街はなかなか細部まで作りこまれていて、プレイヤーが通れる道が数多く存在する。
その中には普通に遊んでいる分には気づかないような道も多い。
俺は案外そういう物を見つけるのが上手いのだ。
道を進むうちにサーペント・パレスのおおよその位置がわかってきた。
あれは街の中心である噴水広場の真上に浮かんでいる。
噴水広場はパーティを組む際の待ち合わせ場所として利用され、日頃からプレイヤーが多く集まっている。
そこをイベントで使われれば、さらにプレイヤーが集まるわけで……。
「すごい人ごみだな……」
広場はイベント仕様に改造され、噴水の周りには巨大なウィンドウが全方位から見えるように複数表示されている。
そのウィンドウに映っているのは……戦闘だ!
誰かと誰かが戦っている……っと認識した瞬間、映像が暗転した。
そして、空に浮かぶサーペント・パレスから隕石のごとく何かが降ってきた。
数にして4つ……。
「ひ、人だ……!」
体も装備もボロボロになったプレイヤーたちが決戦の舞台から落ちてきた……!
そして、その中の1人には見覚えがある!
「バックラー……!」
俺が知るプレイヤーの中では一番強いと思っているバックラーが、パーティを組んでもチャリンに勝てなかったのか!?
彼は有名ギルド『
「くっ! あの小娘……やりおるわ!」
バックラーが立ち上がり、サーペント・パレスを見上げて笑みを浮かべる。
それは余裕の笑みではなく、笑うしかないといった感じの笑みだ。
パーティの仲間たちは立ち上がることもなく、体を大の字にして寝っ転がったままだ。
絶望とはまではいかずとも、困惑を隠せない様子だ。
NSOの先頭を走るプレイヤーとしてのプライドが、この結果を受け入れられないのだろう。
俺だってこの光景が受け入れられない。
てっきり、片手で数えられるクリア者の中に彼らが入っていると思っていたからだ。
「そこにいるのは……弓使いキュージィか?」
バックラーがクワっと目を見開く。
人ごみに隠れていたつもりなのに、よく見つけたな……。
流石に名指しされると出ていかざるを得ない……。
「お久しぶりです。前に会ったのはおうし座の試練でしたね」
「そうだったな……。まさか、こんな情けない姿を晒すことになるとは思わんかったぞ! ハッハッハッ!」
バックラーは笑う。
以前ほどの覇気はない。
俺がかける言葉に困っていると、彼の方から話を切り出した。
それも核心に迫る一言だ。
「キュージィ! ソロで挑んで勝てる相手ではないぞ! 今度ばかりはな!」
「そう……みたいですね」
「どうやらお前さんも第3職に……いや、その少し先までたどり着いているのだろう。だが、言ってしまえばそれは前提だ! トッププレイヤーとしてはな!」
特殊第3職であることは当然で、それ以上が求められるのがトッププレイヤーか……。
どうやら、この戦いは俺の思っていたよりずっと困難を極めるらしい。
心のどこかで思っていた。
みんながクリアできなくても、俺なら出来るのではないかと……。
困惑していたMVPの称号も、いつしか自信に変わっていた。
それがうぬぼれかどうか……確かめたい。
当然、状況はわかっている。
ゲーマーとしての経験で俺を上回る特殊第3職のプレイヤーが4人集まって負けているのだ。
俺とガー坊だけで勝てるはずがない。
でも、俺はこのまま戦いを挑んでみたい!
貫いてきたスタイルが、どういう結果を生むのか確かめずにはいられない!
「……ハッハッハッ! 俺としたことが自分を打ち負かした男に偉そうなことを言ったな! さっき言ったことはすべて忘れてくれ! ルールの範囲でやりたいようにやる! それがゲームを楽しむということだ!」
「バックラーさん……ありがとうございます。さっきの言葉、心に留めておきます」
「ふっ、忘れろと言っておるのに……。まあよい! 決戦に挑む時は、天に両手を突き上げるのだ!」
言われた通り両手を突き上げる。
すると、アイテムボックスから勝手に12枚のメダルが飛び出し、俺の周りをぐるぐると回る。
体はふわりと浮かび上がり、サーペント・パレスに向かって加速を始める。
まるで天に昇る流星のようだ。
今日は決戦前夜のつもりだった。
工房に依頼したアイテムも完成していないしな。
だが、戦いたくなった時が戦いの時だ。
今から決戦が始まる!
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