Data.88 弓おじさん、覚醒の時
このタイミングでクラスチェンジだと……?
最近したばっかりなうえ、死んでるこの状況で……!?
それに特殊第3職ときたもんだ。
特殊な職業はクラスチェンジの条件もよっぽど特殊ということか……!
「クラスチェンジ!」
可能というのなら、是非させてもらう!
『クラスチェンジ承認! 『
体が……動く!
HP、MP、装備が回復している!
状況は飲み込めないが、特殊なクラスチェンジによって俺は復活したようだ……!
早速ステータスを確認と言いたいところだが、まだ戦闘は続いている。
本気で戦っている味方がいる以上、俺も本気で戦わなければならない。
クールタイムは死ぬ前から引き継がれているようで、ガー坊の助けを借りることは出来ない。
ならば、この融合奥義だ!
「
放たれた無数の矢が輝くオーラを帯びている!
こんなエフェクト、死ぬ前には存在していなかったはずだ。
効果はわからないが、とりあえず威力を下げるような効果ではないらしい。
矢の暴風雨を浴びたヒュドラが撃破され、光となって消える。
後はかに座の試練における主役、巨大カニ『カルキノス』のみだ……!
カルキノスのHPも大きく削られているが、硬い甲羅のせいで半端なスキルではダメージが入らないようだ。
「
【バーニングアロー】+【裂空】の融合奥義。
これなら硬い体を貫き、内部で爆発を起こしてダメージを与えることが出来る。
しかし、矢自体が細いので爆発も小規模なのと、カルキノスがかなりタフな調整をなされているので、まだ致命打にはならない。
それになんか……じわじわ回復してないか?
主役だけあってHPリジェネを持たされているのかもしれない。
カニを憐れんで星座にした神話のように、運営もカニが弱いというイメージを払しょくしようとしてるのかも……。
なんてことを考えている場合ではない。
プレイヤーの数が減れば、出せる火力も減っていく。
攻撃によるダメージがHPリジェネに追いつけなくなったら詰みだ。
諦めムードになれば戦いを投げ出すプレイヤーも増えるだろうし、ここでピシャっと仕留めてしまいたいが……。
そうだ……!
クラスチェンジしたなら何か新スキルを獲得しているはずだ。
サッとスキル一覧だけ確認してみよう。
……あれ?
スキルが増えてないぞ……。
クラスチェンジによるスキル獲得は、第2職から第3職など数字が上がる時だけなのか?
通常第3職から特殊第3職は横のクラスチェンジだから……。
「あ、奥義の方になんか増えてる!」
特殊クラスチェンジは通常クラスチェンジより上の扱いだったか!
その新奥義の名は……!
「アイムアロー!」
テンションの上がっていた俺は、効果を確認せずにそれを発動した。
割と名前を見ただけで効果を想像できるスキルや奥義の多いNSOで、パッと見て効果がわからない【アイムアロー】には違和感もあったが、奥義だしきっと強いだろうと調子に乗った。
俺はその行動を少し後悔し、やっぱりNSOのスキルはわかりやすい名前にしてあるのだなと改めて思った。
【アイムアロー】とは……俺自身が矢になることだ。
体が金色の光に包まれ高速回転。
視界はグルグル回り、風を切る音だけが聞こえる。
三半規管は狂い、上下もわからない。
正常な五感を取り戻した時には、カルキノスの甲羅には大きな穴が開いており、俺はバトルエリアを制限している透明な壁にぶつかっていた。
俺は矢となって飛んだ……。
射程は見事に反映されており、かなり長距離を移動している。
その威力は……もはや語るまでもない。
カルキノスは光となって消え、生き残ったプレイヤーたちはワイワイと勝利を喜んでいる。
俺はバトルエリアの端っこにいるのでその中に混ざることは出来ないが、喜んでいる人を見るとこっちも嬉しくなる。
驚きの連続だが、その先に待っているのが勝利なら結果オーライだ。
『あいかわらず強いにょんねぇ! 私も見ててビックリしちゃったにょん!』
チャリンが現れる。
彼女には少し聞きたいことがある。
「俺をここまで強くしたのは君じゃないのかい? 毎回ご褒美で良いアイテムをくれる。しかも、俺に合ったスキルを獲得出来たり、俺の持ってる装備を進化させるアイテムばかりだ。今回の特殊クラスチェンジだって君から貰ったアイテムがトリガーになっていた」
ふと思い出して確認したところ、アイテムボックスから『星の矢』が消えていた。
これはいて座の人馬迷宮でチャリンからご褒美としてもらった物だ。
『
ただ、その条件の1つに『星の矢』の所持が含まれていたのはほぼ間違いない。
『ご褒美はプレイヤーに合わせたアイテムを配ってるにょん。だから、キミだけを贔屓してるってことはないにょん。そこは私も大人になったから安心してほしいにょんねぇ~』
「それは運営指示なのかい?」
『もちろんだにょん! 私はそもそも他のゲームの運営をサポートするために生み出されて、そっちが上手くいかない時にお金を稼ぐためにアイドルとか他のゲームの運営サポートをやり始めたんだにょん! 自分のところのゲームならまだしも、取引先のゲームで好き勝手はしないにょん! きょ・く・りょ・く・は!』
「ご、ごめん……」
『まあでも、その疑問はもっともだにょん。オンラインゲームやソーシャルゲームで運営が急に強いアイテムをばらまきだしたら、何か裏があると思うのがプロだにょん。そして、その裏っていうのは絶対にプレイヤーに感謝して~とか、優しさ~とかではないにょん! 運営の利益になるからやってるんだにょん!』
「つまり、プレイヤーを急速に強化することが運営にとって得になるということか……」
『そういうことだにょん! まあ、これ以上は言えないにょん。怒られてしまうにょん。でもヒントを出すなら……』
ヒントを出してくれるのか……。
おしゃべりチャリンここに極まるだな。
『スポーツっていうのは、やっぱり一流同士の戦いが一番面白いにょんね?』
「それは……そうだね」
『ということで、今回のメダルをプレゼント!』
チャリンは仕事モードに戻ってしまった。
渡された
こうやってじっくり見ると、カニって結構怖い見た目してるよな。
これを捕まえて食べようと思った昔の人はすごい。
しかも、今じゃこの姿を見て美味そうと思う人の方が多いんだから、食文化ってすごい。
『貢献度ゲージは満タンも満タン! ご褒美の『化け蟹の抜け殻』もプレゼントだにょん!』
このご褒美も俺やガー坊を強くしてくれる物なのだろう。
試練を乗り越えれば確実に強くなれるというシステムはモチベーションがすごく上がるし、プレイヤーには得しかない。
プレイヤーのモチベが高ければ長く遊んでくれるし、良い評判を広めてくれる。
だから運営にも得があると思っていたが、どうやらそれ以外にも得することがあるようだ。
まあ、ゲームでみんなが幸せになってるならいいじゃないか。
運営に望まれずとも俺は強くなる。
残る試練はあと2つ……!
特殊第3職『
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