Data.89 弓おじさん、結論と決意
フィールドに帰還後、俺は砂浜でも人のいないところに座り込んでステータスを開いた。
◆ステータス
名前:キュージィ
職業:
Lv:3/50
HP:160/160
MP:140/140
攻撃:90 防御:40
魔攻:40 魔防:30
速度:50 星域射程:415
スキル:
【弓術Ⅻ】【会心の一矢】【弓矢融合】【無駄のない動き】
【インファイトアロー】【バウンドアロー】【クリアアロー】
【バーニングアロー】【トライデントアロー】【ドリルアロー】
【レターアロー】【マルチショット】
【不動狙撃の構え】【狙撃の眼力】【威圧の眼力】
奥義:
【裂空】【ワープアロー】【アイムアロー】
合体奥義:
【流星弓】
特殊第3職『
現在、星座をモチーフにしたイベントに挑んでいる俺にとっては馴染みが深い『射手座』を意味する言葉だ。
星座というのは死者が神によって天に上げられて出来たものと言われている。
つまり、星座の名を冠する職業になるには、一度死ななければならないというわけか。
……他の条件も気になるなぁ。
どうにかして調べられないだろうか?
ステータスウィンドウをいろいろタッチし、その指が『職業:
『
天に輝く射手座のごとく、遥か彼方から敵を光の矢で撃ちぬく。
射程と攻撃に優れ、弓矢に関する豊富なスキル奥義を持つプレイヤーのみがたどり着ける特殊第3職。
=クラスチェンジ条件=
・アイテム『星の矢』の所持
・攻撃250以上
・射程400以上
・弓矢関係のスキル10種以上
・弓矢関係の奥義3種以上
・スキル【弓術】のランクが10以上
・上記の条件をすべて満たしたうえで死亡する
※条件を満たす際、スキルや装備による上昇値や武器スキル奥義を含んでよい。
結構具体的というか、完璧な答えが飛び出してきたな……。
攻撃ステータスの要求値はかなり低いが、射程は武器とスキル効果で伸ばすだけでは足りない。
強化ポイントをそれなりに振らなければ届かないだろう。
星空の射手だけあって、星空ほど遠くからでも攻撃出来ないといけないってことなんだろうな。
まあ、400メートルでは星空に届かないが……ってツッコミは野暮か。
スキル関係はもっと厳しい。
ゲームを始めて本当に最初以外ずっと弓を使っている俺でも条件を満たすのがギリギリだ。
特に【弓術】のランク10。つまり【弓術Ⅹ】は『
これから先もっとゲームが長く続けば、いずれ到達する人はたくさん出るだろう。
しかし、現時点では本当に1日のほとんどを弓に捧げた人間しかたどり着けない場所なのかもしれない。
死亡する必要があるってのも難しい条件だ。
知っていればデスペナルティ覚悟で自滅すればいい。
装備によるステータス上昇や武器スキル奥義で条件を満たしている場合は、装備が傷つかないよう毒状態などでHPを削って自滅すればいい。
アイテムの中にはそのまま使うと毒より酷い猛毒状態になるアイテムもあるし簡単に自滅できる。
でも、知らなければ人間わざわざ死のうとは思わない。
ある意味一番クリアするのが難しい条件だ。
まあ、戦いの中で死ぬことがないなら、そのままでも十分強いってことなので、クラスチェンジを急ぐ必要もないかもしれないが……。
あと、よくわからないのは『星の矢』の存在だな。
俺の場合はチャリンにご褒美で貰ったが、チャリンの渡すアイテムはすべてもう現在のNSOに実装されているアイテムだ。
つまり、何らかの方法で『星の矢』は手に入る。
まったく想像がつかないので、難しいのかどうかもわからないが、俺はチャリンに貰った1本しか持ってなかったので、やはり入手難易度は高いと考えるのが妥当か。
まとめると……よくクラスチェンジ出来たな俺。
チャリンにかなり助けてもらったとはいえだ。
いろんなものへの感謝を忘れずにありがたく『
それにしても、初期職『射手』から始まった俺の冒険は紆余曲折を経て、再び『射手』に戻ってきたわけだ。
よほど『射手』に好かれているらしい。
職業そのものことはこれくらいにして、他のところも見ていこうか。
獲得奥義は【アイムアロー】。
効果は身に染みてわかっているが、より詳しく確認しておく。
【アイムアロー】
自分自身が矢となり敵を貫く。
クールタイム:3分
うーん、わかりやすい!
威力もさることながら、見逃せないのは俺自身が攻撃判定を持ちながら移動できるという点だ。
使いやすさでは【ワープアロー】に分があるが、そっちはそっちで弱点がある。
それは攻撃力がないことだ。
【ワープアロー】には壁をぶち抜いて飛ぶパワーはないし、敵の攻撃とぶつかっても相殺できないどころか、そこで『当たった』と判断され、敵の攻撃の真ん中に俺がワープすることになる。
【アイムアロー】は望む場所に移動するのが難しいとはいえ、強力な攻撃判定を持っている。
壁もぶち抜けるし、敵の攻撃を消し飛ばしながら移動できる。
2つの長距離移動スキルを使い分けることで、俺の機動力はグンと増すはずだ。
嬉しいことにクールタイムも短めだが……3分ごとにあの回転を味わって俺が耐えられるかは別問題だ。
また、【弓術
これは12星座を表して12に上がった……というより、特殊クラスチェンジの特典と考えるのが妥当か。
第2職から第3職のクラスチェンジでは3ランク上がったのに対し、今回は2だけ上がった。
ステータスも第2職から第3職の時に比べると上がり幅が小さい。
やはり、特殊クラスチェンジといえど、職の数字が大きくなるクラスチェンジに比べると強くならないようだ。
……そろそろ触れるか。
『星域射程』とはなんなのだろうか?
『射程』の文字は入っているが……。
ステータスに記された『星域射程』の文字をタッチし、詳細を表示する。
こうして、固有ステータスの説明を見るのも初期職以来だな。
『ステータス『星域射程』は
射程がないとクラスチェンジ出来ない職業の固有ステータスが、通常の『射程』よりも射程が短くなる効果とは……。
俺も薄々気づいていたが、運営もわかっていたか。
ついに俺の冒険に1つの結論を出す時が来たようだ。
この『星域射程』というステータスは射程という1点ではこれまでの『射程』に劣る。
『射程』はステータス値1につき1メートル伸びるのに対し、『星域射程』は1につき0.5メートルしか伸びない。
つまり、現在の射程が半減する。
その代わりに数値を振れば振るほど、スキルを含めた矢の威力と速さ、コントロール……はよくわからないが、とにかく攻撃能力が上昇するのだ。
俺は『広いフィールドを有するVRMMOの世界では、反撃されない位置からチクチク攻撃するのが最強じゃないか?』という理論を証明するために射程ステータスにだけ強化ポイントを振り続けてきた。
その理論は正しかったのか?
結論は……。
間違いなく最強ではあるが、伸ばしすぎは意味が薄く、火力もほしい……だ!
確かにVRMMOのフィールドは広い。
今の俺の射程に【不動狙撃の構え】を発動した状態なら、反撃を受けずにフィールドのモンスターを倒せるだろう。
そう、フィールドの雑魚モンスターは……な。
ダンジョンやボス戦は……エリアが制限されている。
最近だと双児迷宮の白黒キングとの戦いがわかりやすい。
狭いところに閉じ込められて戦うのに、必要以上の射程はいらないんだ。
だが逆に対人戦は射程が活きていた。
バトロワの時に射程が伸びていなければ、俺は絶対に最多キルはとれなかった。
大して活躍も出来ず、ネココに目をつけられることもなく、彼女のことを詳しく知らぬままだっただろう。
陣取りもそうだ。
砦に敵が接近してからじゃないと攻撃出来なかったら、即座に取り囲まれて終わっていたし、仲間モンスターやAI戦士を動かせる範囲も狭くなり、最後の本拠地突撃なんて実現しなかった。
俺はただハタケさんの提案を無視して1人砦に残ったマヌケになり、MVPにもならずひっそりとゲームを楽しんでいたことだろう。
まあ、ひっそり楽しみたいのは今もなのだが、じゃあ今までの経験はなかった方が良かったのかと聞かれれば……答えはノーだ。
ゲーム内で経験した冒険や人との出会いはかけがえのないものだ。
失っていいものは1つもない。
そしてそれは……『射程』を伸ばしていたから得られたものだ。
だが、これ以上伸ばしても意味があるのかとずっと悩んでいた。
長射程……いや『超射程』の活躍する場はあるのかと自問自答していた。
人よりもずっと長い射程を押し付ける戦法は最強だ。
それを捨てることはあり得ない。
しかし、射程だけでこれからの戦いについていけるのかという不安もあった。
『星域射程』は救いの神、渡りに船だ。
これに振っておけば射程はじわじわと伸び続け、矢の性能も上がると言ってくれている……!
俺は弓矢以外使わないから、攻撃のステータスを上げるより、矢の性能を上げる方が良い。
もし、超射程が必要になった時には……再び『
一度なったことがある職業への再クラスチェンジは可能だ。
『射程』と『星域射程』の数値は連動しているから『射程』も伸び続ける。
極まった射程が新たなイベントで活躍することもあるかもしれない。
クラスチェンジを経て、使い分けという新たな選択肢を得られたのだ。
俺は『射程』と『星域射程』、二本の柱で戦っていく!
「ずっと悩んでいたことに……俺なりの答えを出せたな」
『
矢は光り輝くようになっても、俺自身は黄金に輝いてはいない。
だが、ステータスやスキル以上に俺にとっては大きな変化があった。
遠くから敵を攻撃し、反撃を受けずに倒す。
このコンセプトは変わらない。
だが、敵との距離はバトルの状況次第で変わる。
今回のようにデカい敵だと攻撃範囲もデカくて、普通に反撃を食らうこともある。
しかし、デカブツと接近戦をしなくていい利点もあるし、動き回りながらでも常に敵を攻撃範囲に収められる自由さもある。
これからも俺の一番の武器は『射程』だ。
「ここがまた新たなスタート地点だ」
誰に向けたわけでもない言葉と決意を胸に……冒険は続く。
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