Data.85 弓おじさん、白黒の王

 モノクロの城内を上へ上へと突き進む。

 あとはボスを倒せばいいだけだが、一応すべての部屋や大きめの鏡はチェックしておく。

 たまに隠されたアイテムが見つかったりするが、微妙な性能の回復アイテムが多い。

 ストックが尽きた人にはありがたい救済措置だけど、俺は買い込んでるから頼ることはなさそうだ。

 でも、回復アイテムが多くて困ることはない。

 見つけたものはすべて回収しておく。


「さて、いよいよだな」


 ダンジョン最上階の大扉を開け放つ。

 まず目に入ったのはチェス盤のような床だ。

 大きなモノクロのマス目が部屋全体に広がっている。


 そして、部屋の奥で待ち構えているのは2体の石像。

 1体は真っ黒な大剣を携え、王冠を被り、黒いオーラを吹き出す。

 1体は真っ白な大剣を携え、王冠を被り、白いオーラを吹き出す。

 チェスの駒の中で最も重要なキングが今回のボスというわけだな……!


 白と黒のキングは実際のチェスの駒とは違い、人型でちゃんと手足がある。

 自分の足で歩き、自分の手で剣を振り回しながら接近してくる。

 石像系モンスターの宿命か、歩みは遅い。


 だが、このボス部屋は手狭だ。

 なのに敵は無駄に大きいうえ2体いる。

 逃げ回って距離を取るのは難しそうだ。

 出来ればここから動かないまま倒してしまいたい。


「レターアロー! 2体分!」


 手始めに情報を探る。

 サトミに『戦いの序盤に使う癖をつけた方が良い』と言われていたからな。

 俺の場合、このスキルの存在を思い出すのは戦いの終盤で、モンスターを倒す前に焦って情報を記録しているというのが現状だ。

 とにかく目の前の脅威は素早く排除したい小心者なんでねぇ……。


 なんて考えている間に2発の矢が敵に命中し、その情報がウィンドウに表示される。


 ◆黒き王の駒

 属性:暗黒/岩石

 スキル:【黒き十字架の剣】【ダークオーラ】

 解説:

 黒の駒たちを統べる王。

 その正体は城を守ることを命令されたゴーレムの亜種である。

 『白き王の駒』と同時に破壊しない限り復活し続ける。


 ◆白き王の駒

 属性:神聖/岩石

 スキル:【白き十字架の剣】【ホーリーオーラ】

 解説:

 白の駒たちを統べる王。

 その正体は城を守ることを命令されたゴーレムの亜種である。

 『黒き王の駒』と同時に破壊しない限り復活し続ける。


 やはり岩石属性、しかもゴーレムか。

 2体同時に倒さないと復活するというのは、ふたご座の試練のボスらしい特徴だな。

 正攻法は『俺』と役割分担して1体ずつ倒すことなんだろうけど、AIと人間操作じゃ動きに差が出る。

 ここは『ミラーパズルエリア』じゃないから、動きはシンクロしていない。


 普通にやってたら機敏な人間側が先にボスを倒してしまうだろう。

 意図的に攻撃を遅らせてAIとタイミングを合わせないといけない。

 それは面倒だし、ここは俺らしくゴリ押させてもらう。


 俺と『俺』が並び立ち、2体のキングを射程に収める。

 命令は1つだけ、使う奥義も1つだけだ……!


「矢の嵐!」

『矢の嵐!』


 新装備『黒風暗雲弓』の武器奥義。

 弓の周りに暗雲が発生し、そこから打ち付けるような雨のごとき矢が放たれていく。

 同時に俺の両腕も高速で矢を連射する。

 1本の矢の威力は【弓時雨】の比ではない。

 あちらは普通の矢を連射している感じだったが、こちらは明らかに重みが違う。


 矢の勢いに押され、2体のキングは前に進むことすら出来ない。

 硬い岩石の体にも無数の矢が刺さる。

 刺さった矢に後から後から押し寄せる矢が当たることでさらに深く食い込み、岩石の体にはどんどん亀裂が増えていく。

 そして、最後には2体同時に砕け散った。


「こりゃあ、すごいな……!」


 ソロ向けダンジョンとはいえ、ボスをこうもあっさりと撃破してしまうとは……。

 進化した弓の力をハッキリと実感できた。


『ダンジョンクリアおめでとうだにょん! まあ、キミには簡単すぎたかなぁ?』


 2体のキングの破片が光となって消え、代わりにチャリンが光の中から現れる。

 俺はアイテムボックスから『カストル』と『ポルクス』のメダルを取り出す。

 相変わらずピッカピカで直視できない。

 サッとチャリンにそれを渡し、懐にしまってもらう。


『2枚のメダルは確かに受け取ったにょん! でもまずはメダルをプレゼントだにょん!』


 ふたご座ジェミニメダルを受け取る。

 表には星座、裏には肩を寄せ合う2人の少年が描かれている。

 少年たちの手には弓矢、琴、棍棒が握られている。


『そしてこちらは頑張ってメダルをゲットしたご褒美! その名も……えっと『融合する双子の矢フュージョンツインアローズ』だにょん!』


 チャリンから手渡された物は、白と黒の矢が螺旋状に絡み合う奇妙なオブジェだった。

 現代アートって言葉が頭に浮かぶ。

 まあ、『矢』なのだから俺の力になってくれる気はするが……。


『ではでは、ダンジョンの外にワープ! お疲れさまでした~、だにょん!』


 体が光に包まれる。

 『俺』とはここでお別れだな。

 俺は『俺』なので、一緒にいると気味の悪さがあることは否定しない。

 しかし、味方としては頼りになったし、自分が2人いて気味が悪いなんて体験も今の時代じゃないとできない。

 ある意味、貴重な時間だった。

 ありがとう、『俺』!




 ◆ ◆ ◆




 フィールドに戻って来たので、早速さっき貰った現代アートのオブジェの効果を調べよう。

 まずは『使う』ことが……出来る!

 しかも、対象は俺だ。


 久しぶりだなぁ、こんなに早くアイテムの使い道がわかるのは。

 早速『使う』を選択する。

 奇妙な物体からどんな力を得られるのか……。


 ――ぴこんっ! 新たなスキル【弓矢融合アローフュージョン】を獲得しました。


 【弓矢融合アローフュージョン

 弓矢に関係する2つのスキル(奥義)を選択し、その効果を融合させたスキル(奥義)を発動する。

 MPは【弓矢融合アローフュージョン】と選択した2つのスキル(奥義)の分だけ消費する。

 一部融合できないスキル(奥義)も存在する。


 効果を……融合させる!?

 言葉の意味はわかるが、こう……上手く想像できない。

 人気ひとけのない場所で実際に使ってみよう。


弓矢融合アローフュージョン!」


 【弓矢融合アローフュージョン】は思考だけで2つのスキルを選択できる他に、音声でも選択するスキルを選べるようだ。

 適当に2つのスキルを思い浮かべ、スキルを発動する……!


爆裂する跳ねる矢バーニングバウンドアロー!」


 着弾と同時に爆発を起こす【バーニングアロー】と敵に当たるまで跳ねる【バウンドアロー】を融合させると、跳ねるたびに爆発を起こす【爆裂する跳ねる矢バーニングバウンドアロー】となった。

 な、なんて面白いスキルなんだ……。戦略の幅が大きく広がるぞ!

 もっとこのスキルについて検証し、強力なスキルの組み合わせを考えなければ……!

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