Data.82 弓おじさん、風雲急を超える
ウーさんは1人のプレイヤーからの依頼は1つずつしか進めない。
依頼を同時にいくつも受けてはくれるが、進めるのは1つずつだ。
俺の依頼を1つ進めつつ、サトミの依頼を進めることは出来るが、俺の依頼を2つ同時には進めてくれない。
つまり、今回は4つの装備の修理と2つの装備の進化を依頼し、その後に追加で1つ進化を依頼した。
風雲装備のレア度や傷の状態だと、修理には約半日、進化には約1日かかる。
4つ×12時間=48時間=2日、3つ×24時間=72時間=3日。
合計すると5日になるという計算だ。
そして、仙桃は1つの装備の作業を一瞬で終わらせることが出来る。
今回だと進化の1日が最長の作業時間なので、早められるのは最長で1日となる。
ぼんやりと認識していたが、まとめてみるとシンプルな仕組みだ。
だからこそ、仙桃を今使うべきなのかをまた悩み出してしまった。
1日だけならもったいないから使わない方が良いのでは?
でも、結局1日なのだから気楽に使っても良いのでは?
なかなか手に入らないアイテムだから温存した方が良いのでは?
天女さんの話だと、たくさん依頼をした特典以外でも入手できるらしいので問題ないのでは?
うーん、俺は仙桃を……使う!
これから先、作業完了に3日とかかかる超レア装備の進化を依頼するようなこともあるかもしれないが、その時はその時で仙桃を探せばいい。
ここ最近の3つの試練はミニゲーム的な要素が強かったから、早くボスバトルやダンジョン攻略に挑みたくて仕方ない気分だ。
効率的な遊び方を探求するのもゲームの醍醐味と言えるが、その時の気分で勢いのまま遊ぶのもまた良いものだ。
と、いうことで仙桃を天女さんに渡し、工房の奥で作業をしているウーさんに届けてもらう。
これで一番最後に依頼した『雲渡の足袋』の進化が終了し、すべての依頼が完了するはずだ。
「お師匠様~! 仙桃の差し入れですよ~!」
天女さんが見えない工房の奥に引っ込むと同時に、ウーさんの形容できない絶叫が聞こえてきた。
だ、大丈夫だろうか? 喜びの絶叫と受け取っていいんだよな……?
困惑する俺の前に天女さんがニコニコ顔で戻ってくる。
「は~い! これですべてのご依頼は完了です! すべての装備を一括でお渡しします!」
俺のアイテムボックスに装備がシュポポンっと吸収される。
ついに戻ってきたぞ、風雲装備!
礼を言って工房の外に出る。
早速確認していこう……!
といっても、変化があったのは『風雲弓』『風雲の羽織』『雲渡の足袋』だけだ。
これ以外の装備は新品のように綺麗になっているが、性能が上がっているということはないので、進化したものだけを確認すればいいな。
まずは……やはり弓だ!
◆
種類:両手武器<弓> 攻撃:140 射程:100
武器奥義:【矢の嵐】
【
弓の周囲に発生した暗雲から激しい雨のごとく矢を降らせる。
クールタイム:5分
く、黒くなっている……!
『風雲弓』が雲と風をモチーフにした爽やかな装備だったのに対し、『黒風暗雲弓』は黒成分が多くなっている。
黒が全体を引き締めてくれるので武器としてのカッコよさは増している。
それでいてダークだが、邪悪ではない。暗雲もまた自然現象の1つであり、悪意など含まれてはいないのだ。
まあ、そこから降る雨に濡れる人々は雲に文句も言いたくなるだろうけど……。
性能は攻撃100、射程80、合計180だったので、進化によって合計が60も上がっているのか……。
奥義の性能も含めて完全に上位互換だ。
クールタイムが増えていないのがある意味一番嬉しいかもしれない。
ここが伸びてしまうと戦いのリズムが変わってしまうからなぁ。
攻撃力的には上の合体奥義【流星弓】はデメリットが大きい。
気軽に使っていける【弓時雨】改め【矢の嵐】は頼りにしている。
それにしても……黒いぜ。
少年のハートを揺さぶる黒さだ……。
しばらくずっと見ていられそうだが、一度置いておこう。
まだ俺を待っている装備がいるからな。
次は胴体装備の羽織だ!
◆風雲の
種類:胴体<羽織> 防御:80 魔防:80
武器スキル:【風雲一陣】【亀甲防陣】
【風雲一陣】
指定した方向へ強烈な突風を吹かせる。
【亀甲防陣】
物理攻撃を受けた際にMPを消費して自動発動する。
物理攻撃によるダメージを30%減少させる。
これは……武将が着るような陣羽織に形状が変化している!
『風雲の羽織』の青い空と白い雲の模様は受け継ぎつつも、金色の縁取りや一部に黒も取り入れて戦うために作られた装備だという雰囲気が伝わってくる。
以前の羽織はどちらかと言えば普通の和服に近かったからな。
おかげで着心地も良くリラックスできたが、こちらは身も心も引き締まる感じだ。
とはいえ、装備の重さが増している感じはない。
軽い雲の装備という点は受け継がれているようだ。
性能は防御:45 魔防:75だったので、防御が大幅に上がる進化になったな。
それは追加されたスキルにも現れている。
【亀甲防陣】……まさかの自動発動スキル。
ガー坊の【メタルボディ】の減少率が10%なんだから、とんでもない性能をしているな。
ただし、使いたい放題のガー坊と違ってこっちはMPが削られる。
ある意味、MPにダメージを受けているとも解釈できる。
細かい攻撃まで勝手にダメージを減少させてしまうから、気づいたらMPを持っていかれてたなんて展開もありえる。
スキルのオンオフは切り替えられるようなので、雑魚戦の時は使わないという選択肢もアリだ。
その場合、急に現れた強敵の不意打ちには対応できないから、一長一短ではあるのだが……。
さて、最後は両足装備の足袋だ。
◆
種類:両足<足袋> 防御:20 速度:90
武器スキル:【浮雲の群れ】
【浮雲の群れ】
乗ることが可能な雲を同時に9個生み出す。
1時間に3回まで。5分で消滅する。
パッと見さほど見た目は変わっていない。
履き口部分に毛が付いてファーのようになっているくらいだ。
大きい違いは中身にある。
装備するともこもこが足全体を包み込んで、非常に気持ちがいい……!
中が雲羊の毛で満たされているのだ……!
この毛は気持ちいいだけではなく、衝撃吸収能力もあるようだ。
飛び跳ねた時、足に伝わる衝撃が以前よりも少ない。
それにステータスの面でも防御が上がっている。
元は防御:0、速度:80だったから、陣羽織と合わせてかなりカチカチになったんじゃないか?
スキルに関しては、こちらも完全に上位互換だ。
リアルの羊雲のごとく密集している9個の雲を作り出せる。
密集していることは絶対のルールで、一列に並べて高さに差をつけ、階段のようにして高いところに昇ることは出来ない。
端っこと端っこの雲が離れすぎているからだ。
ただ、密集のルールを守れば雲の配置は思い描いた通りに出来る。
今までは1時間に3つまでが限界だったので、雲の間を飛び移って攻撃を回避するのにも限度があった。
しかし、9個もあれば1回の発動で飛び回って逃げることも容易だろう。
使い勝手の良さは大幅にアップした。
最後にすべて装備した状態でステータスを確認しておこう。
◆ステータス
名前:キュージィ
職業:
Lv:28/30
HP:105/105(+30)
MP:145/145(+70)
攻撃:275(+245)
防御:171(+155)
魔攻:20
魔防:152(+140)
速度:112(+90)
射程:600(+220)
◆装備
頭部:風流の襟巻
右手:黒風暗雲弓
左手:(黒風暗雲弓)
両腕:雲穿の弓懸
胴体:風雲の陣羽織
脚部:風受の袴
両足:羊雲渡の足袋
装飾:〈海弓術・七の型〉、〈鏡写しのミラアリス〉、―
スキル:
【弓術Ⅶ】【会心の一矢】
【インファイトアロー】【バウンドアロー】【クリアアロー】
【バーニングアロー】【トライデントアロー】【ドリルアロー】
【レターアロー】【マルチショット】
【不動狙撃の構え】【狙撃の眼力】【威圧の眼力】
奥義:
【裂空】【ワープアロー】
合体奥義:
【流星弓】
気づかぬうちに進化しがちの【弓術】が
これにより弓装備時の攻撃が+70、射程も+70だ。
装備とスキルの補正も加えて射程は600メートルか。
思えば遠くまで来たものだ……。
スキルの種類も豊富になり、装備も初心者シリーズとは比べ物にならないほど強い。
このステータスには表示されていない武器スキルや武器奥義もあるし、本当に成長を感じるなぁ。
とはいえ、俺はまだNSOのプレイヤーの中では真ん中ちょい上あたりだろう。
第3職ですらないし、そもそもVRゲーム歴が浅い。
さらに強くなるために、今やるべきことは迷宮の攻略だ。
次はふたご座、双児迷宮に挑戦する……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます