Data.81 弓おじさん、暴れ牛に挑む
さて、闘牛場に入り、巨大な猛牛と対峙したまでは良いのだが……。
俺はまだ決定的な攻略方法を思いついていない!
バックラーと話した後もいろんなプレイヤーの戦いを見て対策を練ろうとした。
しかし、勝利者たちはみな防御系スキルを使って受け流すか、速さに物を言わせて逃げ回るかの二択だった。
バックラーのようにただ立ってるだけでクリアということはないにしても、一時的に牛を受け止め、受け流せる盾系統のスキルはかなり有用のようだ。
速さも同じく有用で、牛よりも速く走れれば追突される心配はないわけだ。
それ以外のプレイヤーたちはリアルの闘牛のように引き付けて避けたり、パワーのある攻撃スキルで突進の力を打ち消したりして戦っていた。
ただ、防御と速さに頼ることに比べると、失敗して角に貫かれているプレイヤーが多かった気がする……。
飛び道具頼りの俺はさらにマズイ。
射撃スキルは牛の動きを止めるのに向いていないようだ。
機動力を補ってくれる【ワープアロー】は奥義送りにされて連発は不可能。
この試練はユニゾン禁止だから、ガー坊の物理耐性に頼ることは出来ない。
バリアを張るスキルも、速さを上げるスキルもない……。
そんな俺に残された希望は、この2つのスキルに絞られた。
「威圧の眼力!」
視線を合わせた敵の動きを数秒止めるスキルだ。
一瞬でもひるんでくれれば、その数秒は動きが止まり走れない。
スピードが乗らなければ、突進の威力も大幅に減少するはずだ。
モオォォォォォォーーーーーッ!!
効いたのか? 効いてないのか?
どちらにせよ、効果が実感できるほど止まってはくれなかった。
これ系のスキルは圧倒的格上には効かないことが多い。
目の前の巨大猛牛さんは俺より相当格上ってことかも……。
だが、こっちは格上だろうと効くはず……!
「ウェブクラウドアロー!」
ボンっと広がる雲のネットが体にくっつき、地面にもくっつくので牛はその場に固定される。
進化した武器『スパイダーシューター・クラウド』の武器スキル【ウェブクラウドアロー】ならば巨大な敵も一網打尽だ。
あとは粘着力と猛牛のパワーとの勝負だが……。
モオォォォォォォーーーーーッ!!
ブチブチと網が引きちぎれる音がする。
やはり、この一発で完全勝利は無理そうだ……。
ならば連射すれば……と誰もが考える。
俺も他のプレイヤーの試合を見ていなければそうしただろう。
この牛には隠された『怒りゲージ』が存在する。
ゲージの名前は勝手に俺が決めただけだが、要するにこの牛は突進を妨害されると怒り出すのだ。
そして、怒りのレベルは妨害されるたびに上がっていき、比例するようにパワーもスピードも上がる。
何度も妨害するか、突進の届かない空にプレイヤーが逃走すると怒りが頂点に達し、避けようのない攻撃を仕掛けてくる。
怒りを溜めさせない方法は簡単だ。
バックラーのように思う存分突進させてあげて自分は受け止めるだけとか、逃げ回って牛を思う存分走らせてあげるとかだ。
俺にはどちらも無理なので妨害するしかない。
妨害のしすぎは死につながるが、妨害しないとそのまま死だ。
ジレンマとはこのことだなぁ……。
「おじさん頑張れー!」
「あはは、どうも……」
闘牛場は妙な熱気に満ちている。
たくさんのプレイヤーが俺を応援しているからだ。
初心者装備だから顔が似ているだけの別人と思ってもらえるかと期待していたが、バックラーと知り合いのような雰囲気で話していたら本人だと思うのが自然だろう。
正直、みんなの期待を裏切るのが試練に失敗するよりもずっと怖いんだが……。
モオォォォォォォーーーーーッ!!
ネットを引きちぎって牛が突進してくる。
くぅ……【ワープアロー】はまだ使いたくない……!
「ウェブクラウドアロー!」
仕方なく2度目のスキルを放った瞬間、牛はその角を勢いよく地面に突き立てた。
こ、この動きは……!
あのむごい結末が頭をよぎった時には、俺は地面ごと宙に浮かんでいた。
この暴れ牛め……人の乗った地面ごと吹っ飛ばすとは恐れ入る……!
今の時点で俺にダメージはないが、地上では牛の角が待ち構えている。
何もせずの落下すれば死ぬのは確実だ。
しかし、【ワープアロー】で他の場所に着地しても、その瞬間を狙って突進されるか、また地面ごと吹っ飛ばされるだけだろう。
地上に安全な場所なんてない……。
だが、このままでは無抵抗にキルされ……あっ!
「そこだっ! ワープアロー!」
キリリリリ……シュッ! ペタッ!
矢を放った次の瞬間、俺は牛の背中にピッタリと張り付いていた。
ちょうど尻尾が見えているので、お尻の方に頭を向けて牛の体を抱え込んでいる形だ。
そう、この闘牛場で唯一牛の攻撃を食らわない場所……それは牛の背中だ!
流石に牛も自分の背中に向かって突進は出来まい!
俺を見失った牛はグルグルとその場で回転し始める。
背中に何かがいることはわかっているが、怒りに狂った牛はそれを排除するために背中を壁にぶつけてみようとか、地面に擦り付けてみようとは考えもしない。
怒らせたことも俺にとってプラスに働いてくれた……!
【ウェブクラウドアロー】の粘着ネットが背中にくっついたままだったことも大きい。
これのおかげで俺は暴れ牛でロデオをすることになっても振り落とされない。
まあ、それでも結構……脳が……揺れる……!
早く5分経過してくれ……!
「弓おじさん、すげぇー!」
「その発想はなかった!」
「私も後でマネしてみよーっと!」
「流石MVPは格が違った!」
ぐわんぐわん揺さぶられる俺の耳に歓声が聞こえてくる。
とりあえず、この光景を見てマネしたくなる人の根性には感心する……!
しばらくすると、カウントダウンが聞こえてきた。
100秒から数えるのは長すぎると思うが、残り時間を確認しようがない状態の俺にとっては非常に助かる。
5、4、3、2、1……!
「ゼロォーーーーーーッ!!」
歓声と共に牛がスッと大人しくなる。
俺も【ウェブクラウドアロー】の効果を解除し、地面に転がり落ちる。
け、景色が揺れるが……これ以外にクリアの方法はなかったと思うし、見てる人も喜んでくれたので結果オーライだ……。
順番を待っている人の迷惑にならないようにすぐ闘牛場を出る。
プレイヤーたちに囲まれて握手を迫られたが、あまりにもグロッキーな俺を見てスッとみんな引いてくれた。
素晴らしい人たちだ……。
『いやぁ、見事なロデオだったにょん!』
少し落ち着いたところでチャリンがメダルを渡しに来てくれた。
その躍動感は今にもメダルから飛び出して襲い掛かってきそうなほどだ。
……いや、今その例えはやめておけばよかったな。
視界がまたぐわんぐわんしてきそうだ……。
『そして、こちらはご褒美! 『
手渡されたのは、硬そうな肉のブロックだった。
しかも、なんかぼわっとオーラをまとっている……。
美味しくはなさそうだが、どう使う物なのだろうか?
とりあえず貴重なアイテムなのは間違いないので、大事にしまっておこう。
これで8枚目のメダルだ。
残りは4枚、つまり4つの試練が残っている。
ふたご座の双児迷宮、かに座の巨蟹迷宮、しし座の獅子迷宮、おとめ座の処女迷宮……。
少なくともかに座は戦闘が絡む。
サトミが装備にダメージを負ったのは、かに座でヘマしたからだと言っていた。
残り3つも何だか強そうな気配がする。
今日は運よく早めに試練が終わったし、残りの迷宮を巡ってその試練の内容を把握するとしよう。
◆ ◆ ◆
「いよいよだな……」
残りの4つの試練はすべて戦闘、もしくはダンジョン攻略が要求されるものだった。
まともな装備なしで挑戦するのは無謀だろう。
『仙桃』を使えば、1日作業の完了を早めて明日の午後にすべての装備を受け取ることが出来る。
イベントも終盤戦、新たな風雲装備の力を借りる時が来た……!
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