星座の章 ~後編~
Data.83 弓おじさん、双児の試練
『
ダンジョンの入り口となるモノクロのお城の前で、2人のチャリンが試練内容を説明する。
1人は黒いドレス、もう1人は白いドレス、髪形はサイドテールで装飾も含めて左右反転コーデになっている。髪の色だけは同じで、こだわりの金髪だ。
『まず、ここのダンジョンはソロ限定だにょん! ユニゾンは使ってもいいけど、内部にはユニゾンを召喚出来ないエリアもあるにょん! そこでは強制的にユニゾンが引っ込むから気をつけるにょん!』
『でもでも、ソロなんて不安だにょん……。MMOは仲間と力を合わせて遊ぶのが醍醐味なのに……』
『そんなあなたに朗報! ダンジョンに入ると、あなたにとって一番心強い味方がやってくるにょん! その味方と協力して謎を解き、強敵を倒すんだにょん!』
『心強い味方……? よくわからないけど、それなら安心だにょん! それでメダルとご褒美の条件は何だにょん?』
『メダル獲得の条件はもちろんダンジョン踏破だにょん! ご褒美の条件はダンジョン内に隠されている2つのメダル『カストル』と『ポルクス』を所持した状態でダンジョンをクリアすることだにょん! この2つは最短距離でダンジョンを抜けようとすると見つからないかもしれないにょんねぇ~』
『時には寄り道をして探してみる必要があるってことにょんね! あとは……なにか特殊な敗北条件はあるにょん?』
『プレイヤーはもちろんのこと、心強い味方がキルされても失敗だにょん! 心強い味方の方がキルされてもプレイヤーにデスペナルティがあるから十分に気をつけるにょん!』
『うわ~、理不尽だにょん!』
『理不尽かどうかは、ダンジョンに潜ってみればわかるにょん! さあさあ、ルールがわかったらダンジョンにゴーゴーだにょん!』
……と、いうことらしい。
チャリンが2人いるとルールの説明もにぎやかだ。
気になる点はやはりご褒美をもらうために必要な2つのメダルの入手法だな。
ダンジョン内でお宝さがしって、普通のRPGでは普通の要素だがこのゲームでは珍しい。
いったいどんな隠し方をしているんだか……。
あと、『一番心強い味方』とやらの
強制的に同行してくる味方といえば、
白ヤギさんはまあまあ性能が高かったが、それ以上にツッコミみどころ満載で愉快というか、奇怪だったな……。特に突然喋った時はびっくりした。
今回の『一番心強い味方』って、このネーミングの時点でツッコんでくださいと言わんばかりだし、出会うのが恐ろしい……。
試練は……すでに始まっているんだ。
気を引き締めて俺はモノクロの城へと足を踏み入れた。
◆ ◆ ◆
外観がモノクロなだけあって、ダンジョン内部もモノクロで統一されている。
床はモノクロのタイルで埋め尽くされ、壁には大きな鏡がいくつも配置されている。
まさか鏡の中に隠し通路があったりしないよな……?
この数の鏡をチェックして回るのは正気の沙汰ではない。
そこまで理不尽なギミックを仕込む運営ではないと思っているが、一応確認のため近くの鏡に触れて見るか。
鏡の前に立った時、俺は『俺』の存在に気づいた。
鏡にはもう1人の俺が映っている……!
振り返ってみると、確かにそこには『俺』がいた。
これが『一番心強い味方』の正体……俺か!
まてまて、混乱してきた……。
状況をわかりやすく整理すると、俺の『顔』『体』『装備』をそのままコピーした男が俺の後ろに立っているのだ。
おそらく、陣取りの時の『AI戦士』に近い存在だ。
現時点のプレイヤーのスペックをそのままコピーし、AI制御で動かしている。
これがチャリンの言う『心強い味方』なら、こいつがやられてデスペナルティがプレイヤーに適用されるのも納得できる。
だって、自分自身なのだから。
鏡に映るこいつを見た時はビックリしたが、仕組みがわかればなんてことない。
一番心強い味方かどうかは怪しいが、2人で協力してダンジョンを攻略していこう。
俺が歩くと、『俺』も歩く。
しかし、まったく動きがシンクロしているわけではない。
命令を出せば素直にそれを聞いて動いてくれる。
ユニゾンがもう一体増えたという認識で問題なさそうだ。
ちらちら背後を確認しつつダンジョンを突き進む。
ダンジョンなので当然モンスターも出てくる。
久しぶりの戦闘なので腕が鳴る……と思っていたら、『俺』があっさりと倒してしまった。
『俺』の方の武器も進化した『黒風暗雲弓』なので、ダンジョンの浅いところに出る敵など簡単に倒せてしまう。
ここのモンスターはモノクロのお城ということで、わかりやすくチェスの駒をモチーフにしている。
巨大な石像のような騎士や兵士が襲い掛かってくるが、特に苦戦することもなく粉々に粉砕していく。
うーむ、敵が弱いのか、こっちが強いのかいまいちハッキリしないなぁ。
俺が2人で火力も2倍だし、ここはそもそもソロ専用ダンジョンだ。
普段の俺はパーティ向けのコンテンツをソロで遊んでいるから、ソロ向けをソロで遊んだらぬるく感じるのも当然だろう。
自分で言うと自慢っぽくなってしまうが、客観的に見れば『進化したレア装備を身に着けたMVPプレイヤー』なわけだから、俺が苦戦する難易度だと多くのプレイヤーがクリアできない難易度になってしまう。
まあ、たまには楽勝の試練があってもいいじゃないか。
戦闘は『俺』とガー坊に任せ、俺は隠し通路や隠し部屋を探すことに専念する。
壁を触ってみたり、鏡に触れてみたり……。
うーん、何もないなぁ……。
このまま何もないままボス戦に突入するのが一番困るが……。
そう思いながらのぞき込んだ鏡に、俺はどこか違和感を覚えた。
「これは……鏡にしか映っていない廊下がある」
実際に目で見るとただの壁なのに、鏡にはそこから伸びている廊下が映っている。
なるほど、鏡は真実を映してくれるってことだな。
どこかの映画で見たように壁に向かってダッシュ、スッと向こう側に突き抜ける。
ついに隠し通路を見つけた……!
隠し通路の突き当りには扉が見える。
あそこにメダルが隠してある確率は大だな。
『俺』やガー坊も壁を突き抜けて合流したことを確認し、扉のノブに手をかける。
すると、『ぴこんっ!』という音がして目の前にウィンドウが出現した。
――この扉の先は『ミラーパズルエリア』です。
――ユニゾンの召喚は禁止されています。
――また『スキル』『奥義』『アイテム』などの使用も禁止されています。
――ご了承の上で扉を開けてください。
チャリンの言っていたユニゾン禁止区域か。
ユニゾンだけではなく、ほぼすべてのことを禁止されている気がするが……『パズル』なら仕方がないか。
ガー坊を引っ込め、扉を開け放つ。
俺は光に包まれ、気づいたら……また別の通路にいた。
通路の奥には大げさな台座があり、小さな宝箱が乗っかっている。
あの中にメダルが入っているのは間違いなさそうだ。
すぐにでも手に入れたいところだが……俺の目の前には床がない。
代わりに底の見えないほど深い虚空が口を開けている。
この虚空の上を歩くヒントは、右の壁一面に広がる鏡にある……!
鏡に映る虚空の上には、ジグザグの細い足場が存在している。
鏡は真実を映すから、見えていないだけでこちらにも足場は存在してるはずだ。
そして、鏡の向こうには『俺』も存在している。
このエリアの『俺』の動きは俺とシンクロしている。
俺が前に進めば前に進み、後ろに進めば後ろへ。
だが、左右だけは反転している。
俺が右に行けば『俺』は左に、俺が左に行けば『俺』は右に行く。
俺は『俺』を操り、鏡の中に映る細い足場を歩かせ、宝箱まで導かないといけない。
まずは鏡をよく見つつ、虚空に一歩踏み出してみよう。
……よし、見えない足場を踏んだ感覚がある。
次は右に通路が伸びているから右に……。
「いやっ……!」
危ない危ない……。
鏡に映った通路が右に伸びているなら、現実の通路は左に伸びているんだ。
左右反転、左右反転……頭に叩き込んでおこう。
でも、時間さえかければ何とかなりそうだな。
最悪、一歩踏み出す前につま先でちょんちょんってすれば床があるかわかるし……。
そんな俺の甘い考えは、すぐに打ち砕かれることになった。
3分の1進んだあたりで、背後の足場が崩れだしたのだ。
「ああ……そういうことするんだ……」
崩壊はゆっくりとだが、確実に進行する。
いずれここの足場も崩れるだろう。
だからこそ、冷静になれ……!
左右反転さえ忘れなければ簡単なはずだ。
右は左! 左は右!
こうして、危険な脳トレが始まった。
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