Data.62 弓おじさん、天秤の試練
「なるほど、こりゃマニーマニーって感じだ」
夜はとにかくモンスターの活動が活発になると言われている。
日が出ているうちに急いで滑り込んだ街『マニマニヒルズ』は、一言で言うと高級住宅街だった。
初期街とは一つ一つの建物の豪華さが違う。
ほぼほぼすべての建物が石造りでどっしりとしている。サイズ感も外国だ。
それに日が暮れて灯りだした明かりによる夜景が素晴らしい。
百万ドルならぬ、百万
「ここが試練の会場というのも、間違いじゃなさそうだな……」
夜の街を駆けるプレイヤーたちは一か所に集まり、また一か所から散っているようだ。
その中心にはチャリンがいるのだろう。
くぅ……試練の内容だけでも把握したいが、知ってしまえばすぐに挑みたくなるだろう。
ここは欲望を自制してログアウトだ。
今日もたくさん遊んでいるから、脳と神経を休めねばならない。
真のゲーマーとして、睡眠はないがしろに出来ないからな。
でも、ちょっとだけなら……いやいや、ダメだ……!
ロ、ログアウト……!
◆ ◆ ◆
翌朝、ログイン場所は当然マニマニヒルズ。
朝からたくさんのプレイヤーが街をうろうろしている。
人気ゲームはどの時間帯でもプレイヤーが絶えないな。
俺も仲間に入れてもらうとしよう。
プレイヤーたちの流れに従って走り、たどり着いたのはレンガ造りの建物だった。
ここは……裁判所っぽいな。
今回の試練はてんびん座をモチーフにしているはず。
天秤と言えば弁護士バッジが思い浮かぶが……。
まさか、今回の試練は法廷バトルか……!?
それならハタケさんが言っていた『大人数で押しかけたからといって、楽になる試練ではない』という言葉とも辻褄があう。
きっと弁護はソロでやるんだ。
チャリンのコスプレもそれっぽいスーツ姿だ。
ポニーテールにした金髪、赤いフチの眼鏡、タイトなスカート……。
今回はガッチリと各要素がかみ合っているな。
ファンタジー感は皆無だが、かなり完成度が高いコーディネートだ。
『てんびん座の試練にようこそだにょん! 最初に言っておくけど、今回の試練は裁判で逆転無罪を勝ち取ることではないにょん!』
まあ、そりゃそうだよな。
権利的に危なそうだもんな。
『そういうのは専用のゲームが出てるから、そっちを遊んで欲しいにょん! 他社さんの宣伝になっちゃうけど!』
群衆の中から「あれは名作だよなぁ~」という声が上がる。
俺もそう思う。
『今回の試練は……アイテム売価で目指せピタリ賞! だにょん!』
話を聞いていたみんなの頭の上に『?』マークが浮かぶ。
俺の頭の上にも浮かぶ。
『ルールは簡単! モンスターの落とすドロップアイテムは売るとお金が貰えるにょんね? そして、その『売価』は常に一定だにょん。同じアイテムはいつでもどこでも同じ値段で売れるにょん! ここまではわかるにょんね?』
全員うんうんとうなずく。
『私はこれからある金額を設定するにょん。みんなにはこれからマニマニヒルズ周辺に狩りに出てもらって、売価がその設定金額ピッタリになるようにアイテムを拾ってきてもらうにょん! ピタリ賞でご褒美&メダル! 設定金額の上下500
こっちはこっちでいろいろ危なそうなネタで来た……!
そんなツッコミを心の中で入れている間にもルールの説明が続く。
今回の試練で使えるアイテムはマニマニヒルズ周辺のモンスターからドロップした物のみ。
その『周辺』は明確にわかるようにフィールドにラインがひいてあるとのこと。
また、拾ったアイテムでも使うことが出来るのはイベント期間中に拾った物だけだ。
イベント開始前に拾っていたものを使うことは出来ない。
『設定金額は1万円……じゃない! 1万
チャリンの号令で説明を聞いていたプレイヤーたちが散る。
これも他プレイヤーの競争ではないので焦る必要はない……という俺の予想はフィールドに出てすぐ打ち砕かれた。
「人多すぎ……」
それもそのはずだ。狩りを行えるのはマニマニヒルズ周辺だけなのだ。
普段なら決して狭い範囲ではないが、イベントで無数のプレイヤーが同時に狩りを行うとなると狭い。
必然的にモンスターは取り合いになる。
NSOではモンスターを複数のプレイヤーで撃破した時、その戦闘での貢献度でドロップアイテムやお金の配分を行う。
つまり、誰かが弱らせたモンスターにトドメだけをさしてドロップ品を総取りすることは出来ない。
的確に素早くモンスターに大きなダメージを与えなければ、そもそもアイテムを手に入れることすら難しそうだ。
だが、たくさんのアイテムを手に入れることさえできれば、このイベントには必勝法がある。
アイテムの値段を1つ1つ調べればいいんだ。
普通にお店で売ってみたり、一度ログアウトしてネットで調べてみたりと方法はいろいろある。
そうして調べた値段をもとにアイテムを選んで、合計売価を1万
この裏技をチャリンが把握していないとは思えない。
だから、わかっていても実行が難しいようにしてある。
この試練の本質は、天秤のように設定金額とアイテム売価のバランスをとることじゃない。
モンスターを的確に狩ることにあるんだ。
これならハタケさんとペッタさんが楽勝と言ったのも納得できる。
ハタケさんがペッタさんにバフをかけて、広範囲を攻撃できる『音』で周囲のモンスターすべてにダメージを与えていく。
大ダメージでなくても、ある程度のダメージを与えれば撃破に貢献したことになり、ドロップアイテムが分配される。
こうすれば狩場をラッパを吹きながら歩いているだけでアイテムがどんどん集まる。
状況によっては他プレイヤーとケンカになりそうだが、ここの試練はモンスターの奪い合いが当たり前みたいな雰囲気があるし、問題なかったのだろう。
俺はそんなかしこい狩り方はできないかもしれないが、狩りそのものと長射程の弓矢の相性はバツグンだと思う。
2人が言っていた『おじさんなら楽勝』という言葉を現実にするとしようか……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます