Data.61 弓おじさん、御旗のもとに
『ダンジョン踏破おめでとうだにょーん!』
チャリンが姿を現す。
『今回はキルされた人がいないから、全員にメダルのプレゼントだにょん! あ、ユニゾンのお魚さんとすでに一度完全クリアをしてるプレイヤーさんには渡しちゃダメだから、正確には2人にょんね!』
俺とハタケさんに
表面はいつも通りさそり座が宝石で表現されている。
裏面は……リアルなサソリだ。
まあまあカッコよく描かれているが、ペッタさんにはこれもダメだろうな……。
『そして……あら、ビックリだにょん! 10体もヘルスティンガーを倒してるにょんね! でも、ご褒美の内容は普通と変わらないにょん! ルールだからそこはご勘弁だにょん!』
ご褒美はド直球に『金塊』だった。
効果もシンプルに『高く売れる』だ。
ここまでわかりやすいアイテムもなかなかないな。
しかし、俺はこのゲームにおいてお金に困ったことがない。
この世界ネクスタリスのお金の単位は
手に入れ方はいろいろあるが、やはり一番はモンスターを倒すことだろう。
俺もひたすらモンスターと戦う遊び方をしているので、使わない限りどんどん増えていく。
あとはモンスターのドロップアイテムを売ることだ。
特にドロップしたのはいいが、すでに持っている装備に性能が劣り特殊なスキルも持ってない物は、思い入れがあったり見た目が好きではない限り売る。
また素材系アイテムもよく手に入るが、こちらはまだ使い道がわからない物も多い。
もしもの時のために一定数は手元に置いておくが、あんまりにも増えた物は売る。
こうして貯めた
いや、冒険の合間に回復系アイテムは贅沢に買っている。
俺もガー坊も回復スキルを持っていない以上、それが生命線だからな。
しかし、お金の使い道はこれくらいだ。
他のプレイヤーは『武器強化』にお金を使っているらしいが、俺の場合は風雲装備がレアで強すぎる。
強い装備をさらに強くするには、それなりのレア素材が要求されるのだ。
未だ風雲装備に適合する素材は見つかっていない。
まあ、金が貯まって困ることなんて微塵もないし、風雲装備に不満を感じたこともない。
余裕で今のイベントにも通用する俺の主力装備たちだ。
気に入っているし、武器スキルや奥義にも頼りっぱなしなので、これからも強化して使い続けたいとは思う。
だが、その強化を焦る必要はないだろう。
『それでは、ピラミッドの入り口にワープ! お疲れ様でした~だにょん!』
風景が一瞬で砂漠に変わる。
これで4枚目のメダルか。
12の迷宮の3分の1をクリアしたということだ。
「ありがとう、おじさま! おかげさまでボクもメダルを手にすることができたよ!」
「いえいえ、私の方もずいぶん助けられましたよ」
お互いの健闘を称えあう。
最初の方はとんでもないパーティに入ってしまったと思ったけど、結果的にはソロで遊ぶよりスムーズにダンジョンを攻略できたと思う。
連携と言えるほど上手くかみ合った戦い方は出来ていないけど、ハチャメチャで楽しい冒険だった。
「これはボクからの気持ちだよ! 遠慮せず受け取ってくれたまえ!」
ハタケさんから送られたもの……。
それはフレンド申請だった。
「こ、これは……」
「ボクが
「そ、それはどうも」
「これは感謝のしるしさ! あ、別にボクのギルドに入ってくれと言ってるわけではないのだよ。あくまでも個人的なお付き合いさ! おじさまをギルドに入れてしまうと、みんな頼ってしまうからね! おじさまのプレイスタイルは理解しているつもりだよ。まあ、陣取り以降の活動に関しては把握していないから、なんとなくだけどね!」
陣取りの時に1人になっても生き残っていたから、俺はソロプレイが得意だとハタケさんは思っているのだろう。
まあ、間違った認識ではない……か。
あのイベントに関しては好き好んでソロになったわけではないが、訂正するほどのことではない。
「もしかして、おじさまフレンド登録したことがないのかい? ならば、ボクがやり方を教えようか?」
「いや、最近やったことがありますよ」
俺はフレンド申請を承認する。
これでフレンド欄には2人のプレイヤーの名前が並んだ。
ハタケさんもネココと同じく偶然とはいえ何度も縁がある人だし、何より人物像がハッキリしている。
多少認識の仕方が特殊とはいえ、俺のプレイスタイルを理解してくれてるし、断る理由はないだろう。
まあ、断れる自信もないがな……!
ハタケさんは自分のフレンド申請を断る人なんてこの世にはいないみたいな顔をしている。
この自信というか、積極性にはかなわない。
人間関係を広げるには、控えめでいるよりも彼のように自分をアピールをする方が正しいのだろう。
フレンド登録が終わったところで、俺は何気なしにペッタさんを見る。
先ほどから静かだが……。
「あ、俺はフレンドはリアルの知り合いしか登録してないんだ。すまないな」
話の流れ的にフレンド申請を求めたと思われても仕方ないとはいえ、意図せずおじさんが若い子にフレンド登録を拒否られたみたいな構図になってしまった……!
彼女も彼女でハッキリとものが言える子だ。
なんでも遠回しに言うことが身に着いた俺にはまぶしい存在だ。
「それはそれとして今回助かったよ、おじさん。実は俺たちのギルドでも何回かハタケをクリアさせようと再挑戦したんだけど、普通にクリアできなかった。初回の運が良すぎたんだ。その後にハタケの
そういうことだったのか。
話を聞いた時は『仲間たちはクリアしたけど、めんどくさいから再度潜りたくないと言っているのだよ……』とハタケさんが言っていたので、ギルド内はギスギスしてるのではないかと密かに心配していた。
「俺たちはギルドで動画投稿もしてるんだが、一番人気はやっぱりハタケさ。クエストを成功しても失敗しても盛り上がる一番人気のメンバーだ。だから、みんな頼りにしてるし、ないがしろにしてるわけじゃないんだ。ただ、ギルドのメンバー構成がめちゃくちゃで試練を上手くクリアできないだけなんだ」
「まあ、ゲーム動画といえば上手いプレイを想像しますけど、そういうギリギリの攻略も需要があると思いますよ」
「だろ!? だからこそ、俺たちは自力で高難易度イベントもクリアしないといけないんだ! 今回は世話になったが、普段はギルドで頑張るから、やたら甘えることにはならないと思う。そこは安心してくれ」
「ボクも大人気のゲーマーとして多忙な身だからねぇ」
「まだ駆け出しもいいところだよ! まっ、だから忙しいんだがな」
何はともあれ仲良しなようで安心した。
そして、話題は次の試練のことに移る。
「おじさまは次はどこの迷宮を目指すんだい?」
「攻略した迷宮から一番近いところを選んでるんで、次は
「ああ、てんびん座はボクでもクリアできたよ。あそこは大人数で押しかけたからといって、楽になる試練ではないんだよねぇ。まあ、おじさまなら楽勝だろうね!」
「俺たちでも比較的あっさりクリアできたからな。おじさんは1時間もかからないんじゃないか?」
難しいと言われても不安になるが、簡単だと言われても不安になる損な性格の俺。
特に今回の場合は意外に苦戦する臭いがぷんぷんするぞ……。
とはいえ、試練内容のネタバレは要求しない。初見の驚きを大事にしよう。
「では、さらば! 感謝してるよ、おじさま!」
「また世話になるかもしれない。その時はよろしくだぜ」
「ああ! お互い頑張ろう」
2人と別れ、俺は次の天秤迷宮を目指す。
日は傾き、大地を赤く染める。
すでに2つの試練をクリアしたので、本来なら初期街に帰ってログアウトするところだが、今回は事情が違う。
ハタケさんがお礼として善意で教えてくれたネタバレではない範囲のネタバレ『次の試練の会場は街中だから、その街でログアウトしておくと時短になるよ』に素直に従うことにしたのだ。
その街の名前は『マニマニヒルズ』。
なんだか、お金の匂いがするな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます