Data.60 弓おじさん、黄金の死霊王
「おじさま! ボクのバフを受けてくれたまえ!」
ハタケさんが旗を振り回すと、俺に美しい青色のオーラが付与される。
「
うーん、おしい選択だ。
確かにヘルスティンガーの攻撃は強力だし、防御を固めるのも間違ってはいないんだが、俺の場合はそもそも防御のステータスが低いので、あまりバフをかけても意味がない。
ここは攻撃は最大の防御という先人の言葉に従い、攻撃にバフをかけて早めに倒すべきだ。
再度バフをお願いするためにも、ヘルスティンガーには1回止まってもらうぞ。
「威圧の眼力!」
サソリにだって目はある。
スキルの効果を受けたヘルスティンガーの動きが数秒間止まる。
相変わらずなぜ騒がれないのかわからないほど強いスキルだ。
「おじさま、なんだいそのスキルは!?」
「えっと、威圧の眼力っていう目を合わせた相手の動きを止められるスキルです」
「それはボクも知っているよ! 何しろボクも持っているからね! でも、この距離の敵に効くものじゃないし、効いたとしても目に見えてわかるほど動きは止まらないのだよ! いわゆる微妙スキルさ!」
「そ、そうなんですか?」
【威圧の眼力】は敵との距離が遠くなるほど効果が薄くなる。
つまり、射程が短いってことだが……まさか、このスキルにもステータス『射程』が反映されるのか?
射程が伸びると効果がある範囲が広くなって、効果そのものも強くなるのかもしれない。
まさか、射程を伸ばすことでこういう得の仕方をするとはな。
「ハタケさん、今のうちに攻撃バフをかけてください」
「ああ、そうだね! さっさとあの忌々しいサソリを倒して先に進もうじゃないか!」
ハタケさんが旗を振ると、今度は赤いオーラが俺に付与される。
わかりやすく攻撃力が上がった感じがするな。
「ドリルアロー! 連射!」
バフの効果はてきめんだった。
矢を何発も受けたヘルスティンガーはあっさりと消滅した。これで2体目だ。
仲間と協力できれば、ヘルスティンガーは恐れる敵ではない。
だから、このダンジョンは4人パーティ専用なんだろうな。
とはいえ、ミスしてヘルスティンガーにキルされればその時点で試練は失敗だ。
極力出会わずにキッチリ5体だけ倒してクリアしたいものだが……。
◆ ◆ ◆
「
「
「弓時雨!」
崩れた壁から出てきた巨大ミミズのようなモンスター『モンゴリアン・デス・ワーム』に連携攻撃を浴びせる。
こいつはリアルにも存在すると囁かれている未確認生物
それにしても、砂漠ってヘルだのデスだの物騒なモンスターばかりだ。
「やっぱ俺……このダンジョンつれぇわ……。キモいのばっか出てくるし、結局ヘルスティンガー10体も倒すことになっちゃったし……」
ペッタさんは満身創痍だ。
彼女の言う通り、俺たちは運悪く10体のヘルスティンガーに出会い、ノルマの倍の数を倒す羽目になってしまった。
壁の中からだけでなく、天井から降ってきたり、曲がり角から出てきてぶつかるみたいな古風なラブコメみたいな出現の仕方もしてくるので、本当に油断ならなかった。
「でも、もうボスフロアへの階段は見つけたよ! これでボクも
ハタケさんは騒いでいた割には元気だ。
まさに台風の目と言うか、周りを振り回しても自分は振り回されない人だ。
「じゃあ、気を引き締めてボスに挑むとしましょうか」
階段をのぼって最後のフロア、第5階層へ。
そこは正四角推、いわゆるピラミッド型の広い空間だった。
足場は砂だ。これはちょっと動きにくいな。
「あ、棺が動いたぜ!」
フロアの奥に置かれていた黄金の棺がガタガタと動く。
ふたを吹っ飛ばして現れたのは、金の包帯でぐるぐる巻きにされたミイラ『ゴールドマミー』だった。
ミイラと聞くとひょろいイメージだが、こいつは筋肉ムキムキの大男だ。
ホラーというより、パニックアクション系のミイラだな。
「よしよし! 俺はこういう敵は平気なんだよな!」
ペッタさんがガッツポーズを作る。
敵はミイラといっても包帯に巻かれて中身は見えない。
不気味さは皆無だ。
逆に体格のデカさと金の包帯のせいで威圧感はある。
パワーも頑丈さも優れていそうだが……。
少し調べて見るか。
「レターアロー!」
当てると敵モンスターの情報を知ることができるスキル。
すべてを知ることは出来ないが、弱点を突くための『属性』や一部のスキル名は知ることができる。
ゴールドマミーは仁王立ちのまま、素直に矢に当たってくれた。
◆ゴールドマミー
属性:幽霊/岩石
スキル:【
解説:
はるか昔の砂漠の王。
とにかく輝く金品財宝が大好きで、自分の亡骸すら金の包帯で巻くように命じるほどだ。
その一方で、恵まれた体格と天性の武術で戦は負けなしだったという。
なかなかの情報量だな……。
解説からも戦闘スタイルがうかがえる。
こいつは接近戦を仕掛けてくる武闘派ボスだ。
【
「ハタケさん、ペッタさん、情報を共有しときますね」
【レターアロー】の情報はパーティを組んでいるプレイヤーと共有できる。
さて、明確な前衛がいないこのパーティでどう戦うか……。
「攻撃あるのみだな」
ハタケさんのバフを受けた俺とガー坊が攻撃に移る。
『ゴールドマミー』は幽霊と岩石の属性を持つ。
つまり【ドリルアロー】と【ホーリースプラッシュ】で弱点を突けるのだ。
キリリリリ……シュッ!
放たれた回転する矢と聖なる水の弾丸がマミーに迫る。
マミーは両手の包帯をほどき、それをムチのように振り回してこれらを打ち落とした。
なるほど、本体に当たらないと特効も意味がないと……。
「
ブォォォォーーーーーーッ!!
吹く息に気合が入りすぎて酷い音色になっているが、やっとペッタさんも本調子のようだ。
見えざる音の攻撃は防御不能。
包帯で打ち落とすことも出来ないだろう。
しかし、以前ペッタさんが言っていた通り、このスキルは防御力を無視できる代わりにそもそも威力が低い。
ボスクラスともなるとHPゲージを全然減らせない。
「なら、別の音色だ!
より酷くなった音色と共に放たれたのは……音符だった。
オタマジャクシに尻尾が付いたアレだ。
その黒い丸の部分がゲームでよく見る爆弾のように赤く点滅している。
「ペッタの音スキルはほとんどがこんな感じで『見える』のさ……『音』がね!
ハタケさんが解説する。
音が見える……か。確かにこうなってしまうとただの飛び道具だ。
「確かにこいつは丸見えの音だが、『音』の特徴をちゃんと生かしたスキルだ」
放たれた後の音符の動きは速かった。
機敏なゴールドマミーが避けることも出来ずに被弾。
そして、今度はそのHPゲージを大きく減らす。
「音速……とはいかないが、こいつは足の速い飛び道具だ。それに『音』は響く! このスキルの場合は防御そのものは無視できないが、装備の防御ステータスは無視できるんだぜ。内側に響く音だからな!」
【
ゴールドマミーは見ての通り頑丈そうな金の包帯に覆われているが、中身はミイラだし図体がデカくても脆いはず。
その脆い部分に攻撃を響かせることができたから、HPが大きく減ったわけだ。
やはり人の戦闘を見るのは楽しい。
それぞれに美学やこだわり、理想がある。
……が、見惚れている暇はない。
ゴールドマミーは小さなマミーを生み出し、手数を増やしてきた。
「そ、それにしても……ちょっと多すぎないか?」
小マミーは何十体にも増えた。
それが全員襲い掛かってくる。
本当にパニック映画みたいな光景だ……。
「弓時雨!」
矢の雨で数を減らす。
増えたマミーの包帯までゴールドではないので、サクサク倒せはするが本体を倒さない限りいつでも増やせる状態は続く。
ここは小マミーを引き付けた後、【ワープアロー】でゴールドマミーの背後に回って奇襲の【裂空】をお見舞いするべきか……。
「ワープアロー!」
「
「裂空!」
……俺のスキルコンボの間に何か挟まってたような。
「あ、ワープしたらダメじゃないか! せっかくボクが最強のバフをかけてあげようと思ったのに!」
ハタケさんが俺に【
この【
その時には1日1回しか使えないと言っていた。
代わりにあらゆるステータスを強化してくれる最強のバフなのだが、持続時間が短いんだよな……。
「こうなったら、もったいないしボクがあいつにトドメをさして見せようじゃないか!」
ハタケさんがゴールドマミーに突撃する。
速い……! バフが効いている!
「
槍のように旗の先端で敵を何度も突く。
金の包帯の上からでもHPが減らせている。
バフは攻撃にも効いている。
俺の【裂空】やペッタさんの【
ハタケさんの攻撃で終わり……と思った矢先、ゴールドマミーがその剛腕でハタケさんを殴り吹っ飛ばした。
壁に激突するハタケさん。だが、キルされていない。
バフは防御にも効いている。
ゴールドマミーのヘイトはハタケさんに向いた。
この隙に背後から撃ちまくれば……!
「ダメージブースト!」
ハタケさんがそう言うと、ゴールドマミーのHPゲージが最後まで削られた。
小マミーと共に黄金の王が消滅していく。
一体どういう攻撃でトドメを……
「やった! ハズレ奥義だと思っていたけど、使いどころがあって良かったよ! ダメージブーストって、敵に与えたダメージを後から増幅させる奥義なんだけど、意味がよくわからなくってさ。ペッタに笑われるのも嫌だし、封印してたのだよ!」
どこまでも強化増幅の人なんだな……ハタケさんは。
忘れそうになるが、彼は俺の先を行く
1つのことを突き詰める姿勢は見習わなければならない。
気になるのは、本人にその自覚がなさそうなところだ。
微妙にバフの使いどころも把握してない感じだし、まさか本当に運だけでこのスタイルを……。
まあ、何はともあれ天蝎の試練はクリアだ。
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